ドクガ型の生物兵器、テターニア・スクナビナを倒した私達は、
その後生物兵器に襲われる事無く、無事にエントランスへと戻っていた。
「とりあえず1つ目のカードキーは手に入れたわ」
「ほぇ〜、中々強いんだ・・・見直しちゃったよっ」
パラシェイトは私達の力量を甘く見ていたらしく、驚いていた。
「それで、そっちは何か新しい情報とか見つけたの?」
「んー、何とかねっ。
 他にも出来るだけ危険度の少ない所を調査してみて、行ける所まで行ってみたの」



パラシェイトが私達に情報を提供してくれた。
次行く場所には大量の植物が蔓延っているらしく、もちろんその植物達も
生物兵器として殺傷能力のある物に改造されているそうだ。

『しょ、植物まで敵ですだっ?』
「どーやらそのようね・・・。
 パラシェイト、どんな奴がいたか覚えてる?」
「それが、本体を見せずに小さな壁穴から細いツタを出してる物ばかりで、
 ほとんど同じに見えたのよ〜」
本体が分からない、という事で種類としてはどれだけいるのかわからないが、
少なくとも『壁穴からツタを出してくる』という事だけは分かった。
そしてツタが細いだけあって切れ味も鋭く、鞭も同然であるらしい。
「壁穴かぁ・・・、本体を無理矢理引きずり出すのも不可能そうね」
「あ、そうだっ!
 細いツタだけじゃなくて、私達の体ほどの太さのツタも見たわよ!
 私の体が影だからよかったけど、実はそのツタに触れちゃったのよね・・・」
パラシェイトが言うには、自分達でも入れるほどの穴が空いてたらしく、
その穴を覗こうとした時に巨大なツタが突然出てきたとか。
だが、パラシェイトは影の体であるため捕まらずに済んだのだ。


『つ、つ、つまり細いツタも全部その太いツタの末端・・・?』
「どっちにしろ、壁沿いに寄って進むのは危険そうね。
 突然出てきて引き込まれたりしたら、それこそ命に関わるわよ」
テターニアとの戦いで疲れた体を休めるため、
私達はしばらくエントランスに留まる事にした。



「よっし、そろそろ行くわよ。
 というわけでフルエ、最初はあんたにまかせたわ」
『りょ、了解ですだっ』
私と雫は交代して、パラシェイトに教えてもらった道を進む。
テターニアの部屋へと向かう時に使ったエレベーターのある方とは逆の道を通り、
突き当たりの扉を開けた。

「うゎ・・・い、い、いきなり嫌な音がそこら中から・・・」
植物が沢山いるといった情報の通りだった。
何か細い物が、地面を這いずり動く音。
その細い物こそ、間違いなく植物のツタであった。
『もうこれって既にツタじゃなくて触手よね。
 外の世界じゃ、触手攻めとか何とか流行ってるそうじゃない?』

「流行ってませんですだっ!
 何でそんな間違った知識を覚えているんですだっ!?」

『フルエ、気づかれるから叫ばないのっ』
誰のせいで・・・と思ったが、私はそれ以上は言わなかった。
というより、そろそろ雫のこの性格に慣れるべきなのだろうか。



『壁穴が空いてない限りは、壁沿いは安全かしらね』
「恐らく・・・通路の角は大丈夫と思うですだ」
通路の角の場合は、むしろ壁沿いにいた方が良いと思う。
角の先に生物兵器がいるかもしれないため、そちらに警戒を集中する。
「! 案の定、何かいたですだっ」
私は一瞬だけ何かが動くのを見た。
それはその先にまたあった通路の角に隠れてしまったが、もう一回姿を現すのを待つ。
「・・・4本のツタに、ラフレシアの花みたいな巨大な本体があるですだ」
『あいつは見た事あるわ、【フォーオブ・ア・カインド】ってやつよ。
 4本のツタが四肢を引き千切って、相手が達磨になった所を食べるとんでもない奴よ』

想像したくないのに想像してしまうぐらい、恐ろしい捕食の仕方をする。
あれが植物だなんて絶対に信じられない、というより信じたくないと思った。

『本体よりもまずはツタを狙うのが先決。
 フルエ、交代よっ』

雫が一度見た事のある相手なため、弱点はわかっていたようだ。
角からアカインドのツタを的確に銃で狙い撃ち、逆に相手を達磨にした。
「ツタを千切っても本体は死なないからね、トドメはちゃんと刺すわ」
ずるずると這いずり回っているアカインド本体も撃ち抜き、相手は動かなくなった。
『そそ、それにしても・・・本体を放っておいたらどうなるのですだ・・・?』
「多分、またツタを生やして何事も無かったかのように復活するかもね。
 ・・・ま、ここのカービィ型生物兵器を倒せば大人しくなるんじゃない?」

雫がそのまま歩き始めたが、私はすぐに叫んだ。
『シズク、ストップですだ!!』
「うわぉっ? な、何よフルエ・・・」
叫んだ理由は、すぐ先の壁沿いから細いツタが出ていたためである。
間違いなくあれこそ、パラシェイトの言っていた『巨大なツタ』の末端なのだろう。
「なるほど・・・1本とは言っても、あれは結構殺傷能力高そうね。
 突き刺したり、切り払ってきそうじゃない」
ツタは出ている場所から少ししか動いていない。
本体がその壁穴の中にいるからだろう、恐らくは私達の声や気配を察知しているに違いない。
「これは、フルエの慎重な動きの方がむしろ襲われずに済みそうかしら?」
『でで、ですが1本でも戦闘不能にした方が・・・』
「1本でも、って言うけど。
 もしその1本を攻撃して私達に気付いたら・・・ひょっとしたら他にもツタが数本襲いかかってくる、
 って事も考えられるわ」
そう言えば巨大なツタも持っているぐらいなのだから、
こんな細いツタはいくらでもあるのかもしれない。
下手に刺激したら、かえって危険な状態に陥ってしまう虞れもある。
「・・・巨大なツタの穴が見えるまでは、こいつには関わらない方がいいわね」
『・・・ラジャー、ですだっ』
再び私と雫が交代し、ツタに気付かれないように慎重に、出来るだけ早く通り過ぎる。



その後も、フォーオブ・ア・カインド以外にも色々な植物・・・だった生物兵器を見かけた。
蕾に擬態して、いきなり開いた花びらから強力な粘液を吐き出す物、
キノコの胞子に取り付かれ、しつこく追い回してきたカブトムシのような物、
当然、ここにもクモーレンやパウダストなんかもいた。

「はぁ・・・はぁ・・・っ、結構、多いもんね」
『う、うひぇ・・・胞子とか粘液がちょっと付いてるですだ〜』
「身動き取れなくなったり、菌類に寄生されるのは願ったり下がったりだわ」
それは私も同じである。
というより、それ以外の事も当たり前で嫌であるが。
「結構いろんな所を見回ったけど・・・、まだ行ってない所あるかしら?」
『その細い通路の先がまだですだ・・・』
この通路の先に扉が無かったら、後は元来た道を引き返すしかない。
ひょっとしたら、戦ってる最中に見逃した扉もあるかもしれないからだ。
「さて、扉は・・・あったわ」
確かに扉があった、が・・・何か嫌な予感が私の心の中を通過した。
『しし、シズクッ、ちょっと代わってほしいですだっ』
「?」
雫と交代して、扉の周りをよく調べる。
すると・・・、

「・・・や、やっぱりですだっ」
『え・・・何が?』
「パラシェイトから教えてもらった細いツタには、
 必ず壁穴の近くに『中心が真っ黒な、小さい黄色い花』が咲いていたのですだ。
 それでこの扉の、ここにっ」
確かに扉のすぐそばの壁に、その花が。
つまりこの扉の先に、あの細いツタと巨大なツタ達の本体がいるに違いない。

『こっ、これは・・・うかつに開けたら危なかったわねっ』
「パ、パラシェイトは確か8大カービィ型生物兵器の事を知っているはず。
 けど、この巨大なツタの持ち主の事は知らなかった所を見ると、
 恐らくこれは生物兵器カービィとは『別物』ですだっ」
ではこの扉の先が間違ったルートである以上、生物兵器カービィは別の所にいるのだろう。
雫と交代して私達は元来た道を戻り、左右の壁を見ながら探す。



「見つけた・・・あの花は、咲いてないわ」
黄色い花が咲いていない事を確認し、扉を開ける。
「・・・暗い部屋ね」
『こ、こ、こういう時は、天井に何かあるはずですだ』
上を見上げると、だらんとぶら下がったツタが沢山生えていた。
しかしそのツタは、あの細いツタとは別の色や形をしており、一番植物っぽい感じであった。
「あのツタは結構触手っぽくてやけにリアルだったけど・・・」
『! シズク、後ろに避けるですだ!!』
すぐに攻撃の気配を察知し、雫にそう叫ぶ。
雫もすぐに私の声に反応して、後ろに避けた。
上からぶら下がっていたツタのうちの1本が、急に薙ぎ払ってきたのだ。
そのツタの薙ぎ払いと同時に、何かが降りてきた。

〈・・・・・・〉
ナスビのような、いや、それ以上のあたかも毒々しい紫色をした丸い姿。
カービィ型生物兵器に、間違いなかった。
「植物のカービィまでも生物兵器だなんて、人材少なすぎな気がするわねっ」
〈・・・・・・〉
植物であるせいか、そのカービィ型生物兵器は全く喋らない。
そう言えば最初にパラシェイトに会った時に、名前を全員分教えてもらったのを忘れていた。
確か目の前にいるナスビ、というかアルラウネ型のカービィは、【エッグナー・ミストレウネ】である。
「喋らない分不気味ね・・・早いとこ、始末しちゃおうかしら!」
雫はエッグナーに銃を向ける。
それと同時に、危機を察したエッグナーがツタを使って天井へと身を引っ込める。
普段は天井に逃げる所が、テターニアと同じ戦法だ。
「テターニアの時は天井に行かれたらどうにも出来なかったけど、
 今回はこれがあるのよっ!」
雫はとっさに帽子の物入れから何かを取り出した。
それは、途中に落ちていた片目タイプの望遠スコープであった。
どうやら赤外線に対応したタイプであり、暗い天井も明るく見えるようになっている。

「よぉし、そこっ!」
暗闇の天井の中、見つけたエッグナーに銃を撃つ。
〈!ッガ!!〉
どうやら右手の当たりに命中したらしく、喋らないはずのエッグナーから声、
というよりも凶暴な動物の鳴き声がした。
〈ッッッ〉
何か唸り声のようなものをあげながら、
エッグナーに巻き付いていた4本のツタのうちの2本の先から、何かを飛ばしてきた!

「っ!?」
飛んできた何かが、床に『ベチャリ』という液体のような音をたてた。
『なっ、何ですだ!?』
「・・・溶けるような音はしてない・・・酸じゃないの・・・!?」
普通、こういった液体は大体捕食相手を溶かす酸性の物のはず。
だがこの液体は、酸によって起こるはずの蒸発するような音が全くしなかった

「・・・っ、酸じゃない・・・この匂いは、有機塩基性の物・・・!」
エッグナー自身がナスの生物兵器であり、かつ塩基性物質を持った物と言えば。
「・・・アルカロイド!? こいつ・・・薬漬けにでもしようっていうの・・・?!」
しかもこの液体の音からして、粘着性があるようだ。
アルカロイド粘液で対象を動けなくした所を、補食するのだろう。
『でで、ですがあのツタ、もう2本の方から染み出てるのは酸性らしいですだっ!』
震の言ったもう2本のツタ、移動用に使っている物からも、液体が滴になって少しだけ零れていた。
その零れた滴が床に着いた時、『ジュッ』という小さな音を立てたのだ。
「ナスは普通アルカロイドしか出さないはず・・・、
 生物兵器だから、どっちも出せるように改造されたって訳ね」
『とと、ということは、私達が動けなくなったら・・・』
「酸性って言ってもそんなに強くないから、動けるうちは効果が無いのかもね。
 だから、先にあのアルカロイドの液体を発射しているんだわ」
ならば狙いは、アルカロイドを発射している方のツタである。
酸性の方は全然飛ばして来ない所を見ると、この場面ではまず使って来ないだろう。


しかしエッグナーの攻撃は粘液飛ばしだけではない。
当然巻き付いているツタ以外にも、ぶら下がっていたツタを振り回してきたり、
あまり喋らないせいでわからなかったが、大きく開いた口から数本のツタを出してきた。
『く、口あったですだ!?』
「無かったらさっきのような鳴き声は出さないわっ。
 それにしてもあのツタも、切れ味は鋭そうねっ」
口から吐き出された方のツタは、暴れ回る生物のようにそこら中を薙ぎ払っていた。
「鞭でビシバシされるようなプレイは、あたしは好きじゃないわねっ!」
『それは私もですだっっ!』
冗談でも本気でも、とりあえず私は相づちを打った。
もうもはや、雫のこういった発言には少し慣れてしまっていたからである。
「っ、倒れろぉ!」
エッグナーのアルカロイドを飛ばす方のツタの片方が、千切れかけていた。
そのツタが私達に攻撃を仕掛けた時、雫はすでに引き金を引いていた。

〈ッ、ッッ!!〉
見事銃弾の当たったツタが千切れ、
もう片方だけのツタでぶら下がっているエッグナーの体は、斜めに傾いた。
「こうなったら後はこっちが優勢ねっ!」
〈ッ・・・!〉
まだ片方残っているツタからアルカロイドを発射するものの、狙いが定まっていない。
スコープでエッグナーの位置を確認し、落ち着いて銃口を向ける。



「チェックメイトッ!」
〈ッ! ガ・・・ッ!!〉
額のど真ん中を撃ち抜き、そしてすぐにもう片方のツタも吹き飛ばした。
地面の激突に耐えきれなかったエッグナーの体は、水っぽい『グシャリ』という音を立てながら割れた。

「ふぅ・・・アルカロイド漬けになる前に倒せてよかったっ」
『あぁぁ、助かったですだぁ・・・』
今回はほとんど雫ばかりが活躍してたというのに、私もどっと疲れを感じた。
・・・いや、雫と体を共有しているのだから、きっと雫はそれほど疲れているのだ。
何だかおどけた言い方をしている彼女でも、やはり大変だったのだろう。
「さぁーて・・・フルエ、あたし休むから・・・交代・・・」
『わわ、わかったですだっ』
エッグナーと戦ってる時に一度も交代しなかったのだから、
せめて帰る時くらいは私が行動をしなくては。
恐らく、外にいる生物兵器達は沈静化しているはず。
・・・もちろん、カードキーは忘れずに手に入れた。






「・・・あのツタ・・・」
黄色い花の咲いている穴からは、未だに小さなツタが私の方を向いている。
このツタの主は、もともとエッグナーとは関係なく自分の意志で動いているのだろう。
だとすると、帰りもこのツタに注意しないといけない。
「・・・、パラシェイトの言ってた巨大なツタの穴って、どこにあるのですだ・・・?」



ズゥンッ



そう言いながら歩いていた時、突然地響きがしたのだ。
「!? ななっ、何ですだっ!?」
いきなりの地響きに尻餅をついてしまった私は、すぐに体制を立て直す。
そして私は、目の前をたまたま通り抜けようとしていた1匹のフォーオブ・ア・カインドが、



巨大なツタに捕われ、穴の中へと引きずり込まれていく所を、始終見てしまった。
「・・・あ、あ、あれ・・・が・・・・・・」
行きの道にはあんな穴は無かった、ということは先程の地響きの原因は、間違いなくあのツタだろう。
それにしても、自分の体以上の大きさのあったフォーオブ・ア・カインドさえも、
あのツタを見た時は小さく感じてしまった。
それ程までに、巨大なツタの穴はポッカリと空いていたのだ。
「・・・・・・み、み・・・見つかりませんように・・・・・・」
警戒心を高め、今まで以上に生きた心地が全くしなかった帰り道を、私は歩いていた。






2枚目のカードキー、入手。



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