部屋の中にむせ返る程の、機塩基性気体の匂い。
その匂いを吸い込まないよう、私は出来るだけ息を何回も止めている。
「こいつのアルカロイド・・・! 結構毒性強いわねっ!」
『シズク、苦しくないですだっ?!』
苦しくないはずが無い。
だけど、震は私を心配しているからそう言ったのだ。

「フルエ、あたしは大丈夫だから・・・っ」
しかし・・・、この部屋に充満したアルカロイドが徐々に体を蝕んで来ているのが分かる。
さらに、相手のツタの攻撃等も避けないといけないため
激しい動きばかりをしていたので、呼吸回数も普通の時より多い。
〈ッッ〉
私を捕らえられない事で、エッグナーはまだアルカロイド粘液を出してくる。
床や壁に付いたその粘液が気化し、それらが全て空気中に溜まっていく。
換気機械が十分備わってないこの密室に、その匂いが充満するのは火を見るより明らかだ。


「はぁっ・・・はぁっ・・・!」
私もエッグナーに対して銃を何度も撃っているが、未だに相手は倒れない。
それ以前に、まるで猿のようにツタを器用に扱って素早い動きをするため、
狙いがあまり定まらない。
「く・・・そっ」
段々匂いがキツくなってきた。
少し息をしただけで、大量の有機塩基性気体が入って来ている感覚がする。
「げほっ・・・げほっ!」
『シ、シズク・・・、しっかり・・・!』
・・・先程から、震も少し声が弱まって来ている。
私の体が、アルカロイドに侵されてきているせいだ。
私のダメージと震のダメージは、肉体的な傷だけではない事は最初に説明した通りだ。
・・・震がこうして弱まってる、つまりそれは、私も弱ってきている事・・・。


「は・・・やく、倒さないと・・・!」
〈ッ、ッッ〉
ツタの攻撃よりも、アルカロイド粘液を出してくる頻度が高くなってきた。
恐らく、私がアルカロイド漬けになるのも時間の問題だと理解しているのか。
・・・植物のくせに、そんな知恵を持つ頭を持っているとは、私には思えない。
・・・だが、生物兵器だから、少なくとも小さな猿程度の思考を持っているのかもしれない・・・。



「っ・・・・・・ぅ・・・」
『シ、ズ・・・・・・ク・・・・・・』
ついに、限界が来た。
この部屋に充満したアルカロイドの匂いが、不快な感じから、少しずつ慣れてきてしまっていた・・・。
・・・麻薬成分を持つアルカロイドに、私の思考が、薄れてきた・・・・・・。
・・・震の声も、かすかな喘ぎ声しか、聞こえなくなった・・・。
「・・・ぁ・・・・・・・・・・」
『・・・・・・ぅぁ・・・・・・』

・・・目の前に差し出されたツタ・・・、
・・・私は・・・・・・私達は、ただそれを・・・見つめていただけ・・・・・・。
・・・・・・手が、動かない、
座り込んだまま・・・・・・何もせず、座り込んだまま・・・・・・、




・・・これ以上の事は・・・意識が朦朧として・・・わからなかった・・・・・・。






エッグナーのツタに捕われ、それとはまた違うツタから、雫に酸の液体が放たれた。
少しずつ、水のように溶けていく体。
その溶けた体は、あたかも植物の栄養となる培養水のようであった。




その培養水こそ、根に吸い取られて行く貴重な栄養分。






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