カーリムとの戦闘から少し経ち、ミカエルはウリエル達と合流した。
彼女は、戦闘用に姿の変わっていたレミエルの姿を見て最初は驚愕していたが、
彼らの方で起きた全ての事情を聞き、救護班からのテレパシーで内容を把握した。
「しかし・・・本当に雷の力を持っていたのですね・・・・・・
 雷のような色をした体とは、私自身そう言っていましたが・・・」
「力量もすさまじく、我ら3人が束になっても苦戦していた悪魔軍を、
 レミエルが自分1人だけで撃退したのです。
 ・・・しかし・・・・・・」
「?」
とミカエルが少し首を傾げる。
「・・・悪魔達が何度も叫んでいた・・・
『排除』と言う言葉を・・・覚えてしまったようで・・・」
「・・・・・・きゅっ・・・?」
ふと、先ほどと同じようにレミエルが何かに気付いた。
どうやらレミエルは、悪魔達の気配に敏感になっているらしい。
「レミエルちゃん、また気配を察知したの・・・?」
こくり とウリエルの方を向いて頷き、再び気配のした方向を向く。

「・・・排除っ・・・」
その言葉と同時に、我れ先とレミエルは翼を開き始める。
「?! ま、待ってよレミエルちゃんっ!
 対策とか考えないとっ・・・!」
再びウリエルの方を向いたレミエルだが、今度は頷かずにブンブンと顔を左右に振る。
表情こそ変わっていなかった彼女であるが、漏れ出していた憎悪の感情が取り巻いてるのがわかった。
「排除・・・排除・・・!」
どんどん発していた排除の単語が強くなっていく。
すでにウリエル達の声は聞こえておらず、今はただ悪魔達を排除する事で頭が一杯なのだろう。
左右の鏝には電光が見えていた。
「ウリエル君・・・レミエルちゃんを1人で行かすわけにはいきません。
 対策を考えるのが一番なのは確かです・・・が、恐らく時間は無いものと思われます」
「確かにこの戦争、長期戦になるほど好戦的な悪魔の方が有利になっていく・・・。
 今天魔界の穴を守っているのは、カイレル様とハーネル様、それに一般天使軍の数名・・・」
ミカエルのバックアップによってエリートの天使が天魔界の穴から離れてここにいる今、
その防衛ラインはあまりにも薄い。
そんな時に強力な悪魔軍達に天界へと侵出される訳にはいかなかった。
「レミエルちゃんの事もありますが・・・この戦いを早めに終わらす為にも、
 今は先に進む事を優先しましょう」
次のミカエルの命令は『一秒でも早く先へと進み、戦いを終わらせる事』。
きっとこれが最終命令だろう。
「了解しましたっ・・・では、行きましょう!」
その言葉と同時にレミエル、ミカエル、やや遅れてウリエル達の順に、再び魔界の空へと飛び立った。






「うぉーい2人ともっ、ついにあっちも動いたよーっ」
「マセガキに言われなくてもわかっている。
 さっさと皆殺しにてこの下らん戦争を終えて、それからてめぇらを始末する」
「その言葉、私も覚えておこう」
はしゃいでいるルシフェル、殺気をみなぎらせているベルゼブル、冷静に返答をするアスタルト。
先に言ったように三つ巴の関係であった3人ではあるが、飛び立ったタイミングは同時であった。
「あれ、そういえばボク達戦う相手決まってないよね? どーするの?」
「目の前に来た奴を片っ端からでいいだろうが」
「もしもタイマンになった時の話をしているのか、ルシフェルは?」
ベルゼブルにほど嫌気を刺しているわけではなかったアスタルトは、ルシフェルにそう言葉を返す。

「まーねー、ボクとしては相手はウリエルがいいかなーって思ってさぁ。
 でも戦えるかどうかわからないから、その時はジブリエルって子と戦おうかな?
 おんなじ水属性だからっ」
「ちっ、お喋りの長いガキめ・・・ならそいつらはてめぇにくれてやるよ」
「私も特に決まってはいないな。
 そもそも、天使達の名前はあまり覚えていない」
ルシフェルはもともと天使族の1人であったため、天使達の名前を少しは知っていた。
その中でもウリエルに特に好意を持っていたのだが、自分の性別にコンプレックスを持っていたらしく、
悪魔側に堕ちた際にサターンに性転換術で変えてもらい、再びウリエルに会うつもりでいた。
「ウリエルに会ったらどうしようかなー? ・・・くすすっ
(ベルゼブルほどではないが、やはりこいつは苦手だ・・・)
(サターン様の命が無けりゃ、こんなやつ今頃瞬殺しているとこなんだが・・・)
ルシフェルの怪しげな発言にアスタルトは少し身を引き、ベルゼブルはさらに殺気をみなぎらせた。






「・・・げほっ・・・」
先ほどの戦いで疲れていたのだろうか、ウリエルが少し重い咳をする。
「ウリエル、大丈夫か?」
「も、問題無いですっ。
 まだまだ動けますからっ」
土の能力を扱う天使は、天魔界でも知る限り恐らくウリエル一人だけである。
ここで貴重な戦力を失うわけにはいかないから と本人はそう思ったものの、
はたから見ても表情が少し苦しい感じをしているのがわかった。
「・・・ウリエル君っ、ちょっとこちらへ」
「?」
ミカエルが何やらウリエルを呼び寄せた。

「私にも出来るかどうか分かりませんが・・・
 メタトルム様の、『天使を生み出す能力』・・・やってみようと思います
その言葉に、レミエル以外の3人は驚愕する。
レミエルは恐らくわかっていなかったから驚かなかったのであろうが、
本来天使を生み出せる能力は、髪の生えた特殊な天使しか使えないからである。
悪魔は黒魔法で自由に生み出せる事が出来るが、天使は他の生命を生み出す事は範疇外のことであった。
何故なら、天使を生み出すのも髪の役目だったからである。
その生み出された天使の中で、メタトルムだけが特別的に生み出す能力を持って生まれてきた為、
ウリエル達を生み出す事が出来た。
「い、いくらミカエル様とはいえ・・・果たしてそんなことが出来るのでしょうか・・・?」
「・・・成功するかどうかは・・・ただ、メタトルム様のいない今となっては、
 私がやるしかないのですっ」
「ところで、何故ボクだけを呼び寄せたのですか?」
「媒体をウリエル君とし、同じ能力を持った天使を生み出すからです。
 ・・・多少、戦闘力面では劣るかもしれませんが」
4人はしばらく、しかしわずかにも思う時間の間黙っていたが、
ウリエルはこくんと頷いた。
「・・・お願いしますっ」
承諾したウリエルの額に、ミカエルが手をかざす。


かざした手をゆっくりとウリエルから離そうとする。
するとその手につられるかのように、ウリエルの体から光の物体が生み出された。
そして体から完璧に離れた光が、徐々に天使族の形へと変化していく。
最終的には、ウリエルと同じ色の体をした一体の天使が生まれていた。

「・・・成功・・・ですか・・・?」
心配そうにウリエルがその天使を見ていたが、
「・・・ふぁ・・・・・・」
突如、生み出された天使があくびをする。
それはつまり、呼吸をしたのだ。

「・・・・・・・・・うに??」
なんだか頼り無さそうな感じの声で、辺りを見回す天使。
「お目覚めですか? 意識は・・・はっきりしてますか?」
「・・・ミカエル様?」
その天使はかしげながらミカエルを見て喋る。
どうやら意識はハッキリしているらしく、目もはっきりと開いている。
「そうですよっ、えぇと・・・・・・
 名前をつけなければなりませんね・・・どうしましょう?」
「私の名前・・・? んーとね・・・『アムラエル』ッ」
「あらっ・・・それでよろしいのですか?」
本来なら名前をつけるのは生み出した天使長の役目であるのだが、
アムラエルと名乗ったその天使は、生まれてすぐと言うのにすでに名前を考えていたらしい。






「何だか戦争中とは思えない話をしているそうだな」
「!?」
ミカエルは、視線をアムラエルの方から声のした方へと変える。
「てめぇらに負けるような悪魔どもの弱さが知れんな・・・」
「ふっふっふー・・・また会えたねぇーっ、ミ・カ・エ・ル・さん?」
そこには、アスタルトとベルゼブルと、ルシフェルの3人が。
「また・・・? き、君はまさか・・・ルシフェルちゃん!?」
ミカエルが驚くのも無理は無い。
ルシフェルの姿も、ムルムルと同じように天使の面影を残していなかったからである。
しかし発する声は間違いなく聞き覚えのあるものであった。
悪戯好きで、絶えず他の天使達の迷惑をかけてばかりいた、あのルシフェルに間違いなかったのだ。

「ルシフェル・・・ッ! 何故天使を裏切り、悪魔などになったっ!!」
突如ラファエルが、怒りをあらわにしてルシフェルを睨みつける。
「ラファっちにはわかんないよねー、ボクはさぁ・・・破壊が大好きだから☆
 天使じゃそんな毎日も過ごせないしねっ!! あはははははははっっ!!!
到底、慈悲と平和を愛する天使とは思えない性格であった。
この性格が、天使の頃からあったものとはありえない。
悪魔にの身となったルシフェルは、心も本格的に悪魔へと変わってしまったのだ。
「・・・き・・・・・・貴様ぁあっっ!!
「・・・排除っ・・・・・・排除ぉっ!!!
ラファエルの叫びに続いて、レミエルが間髪入れずに電光を放つ。
しかしおもむろに発していた殺気に既に気付いていたのか、3人は難なく避ける。

「・・・まだ赤子だというのに戦争の場に参加させるとは。
 仕方が無いとはいえ、あまりにも愚かな・・・・・・」
「お人好しのボンボンは黙っていろ。
 オレは相手が赤子だろうが何だろうが、ぶっ殺す」
「ベルゼっちもアスタっちも、こんな時でもケンカ腰だよねぇ〜」
からかっているのがわかる喋り方で、ルシフェルが2人を嘲笑う。
「ルシフェル、お前はさっき言った通りでいいからここから離れてくれないか」
「てめぇら、こんな天使どもに殺されるんじゃねーぞ。
 オレはてめぇらを殺す事が目標だから、なっ!!」
ベルゼブルが爪を振り下ろす。
その衝撃波が、ミカエル達のちょうど真ん中を高速で通過する。

「くっっ!!」
「うわっ・・・!」
「きゃぁっ!!」
見事に6人とも、別々の方向へと分断させられる。
その間に、ルシフェルはウリエルとアムラエルの方へ、
アスタルトは同じ雷属性のレミエルと、ミカエルの方へ、
ベルゼブルは一番素早さの早かったラファエルと、ジブリエルの方へと向かう。



「まさか・・・別々に戦えって事!?」
「ピンポーンッ! ウリエル、会いたかったんだよーぅ?」
ニヤリ と笑うルシフェルの顔に、ウリエルは強力な悪寒と恐怖を覚える。
「さ、させませんっ!!」
突如、水の弾丸がルシフェルにぶつかる。
ジブリエルが、ウリエルに近づくルシフェルに対し攻撃をしたのだ。
「・・・へぇえ・・・嬉しいねっ、君の方から相手になってくれるなんてっ」
「え・・・!!?」
ルシフェルは攻撃対象をウリエルからジブリエルへと変える。
「ウリエルの前にまず君からメチャクチャにしてあげようじゃん!!



「ふん、バカなやつだ・・・あのガキを挑発するとは」
「どこを見ているっ!!」
ラファエルが真空切りをベルゼブルへと放つ。
その早さは、間違いなく回避困難なほどであった。
「遅い」
ベルゼブルの声。
気付いた時にはラファエルの後ろへと移動していた。
「・・・っっっ!!」
かろうじてラファエルはベルゼブルのなぎ払いを避ける。
「天界の天使の素早さなんぞ、たかが知れている。
 オレは『ハエ魔王』として有名な、南の悪魔准王だ。
 ・・・ただし、殺傷力の高い殺戮の蠅であるがな!!



(・・・スキが・・・見当たりません・・・!)
ミカエルは何とかアスタルトの弱点が見つからないか探していたが、
西の大公爵として天界でもその名が有名だったアスタルトと、
実際に出会ったのは初めてだったのだ。
「・・・はぁっ!!」
先に攻撃を仕掛けたのはアスタルトだった。
レミエルと同程度の雷の弾を放つ。
「・・・くぴっ!!」
それに反応したレミエルは、同じような雷弾で攻撃を相殺した。
「ミカエル様っ! 今のうちです!」
「えっ・・・ウリエル君、アムラエルちゃん!?」
ウリエルとアムラエルはこのスキにサターンの城へと向かおうとしていた。
しかしこんな状況で、あとの3人を放っておくわけには、ミカエルには迷いが生じていた。


「ミカエル様・・・!! 私達がこの3人をおさえておきます!!」
「私達でこの状況を脱出出来るというのであれば・・・っ、早く!!」
「くぴっ、くぴぃいいいっっ!!」
しかし、そこはこの3人。
ラファエルがベルゼブルを抑え、ジブリエルがルシフェルを抑え、レミエルがアスタルトを抑えている、
優先目的は、あくまでも『サターンを倒す事』。
「皆さん・・・・・・っ、絶対に、死なないで下さいよっ!!
「「了解っっ!!」」
いざというとき、感情に流されて迷いやすいミカエルを、天使達全員がカバーしている。
このチームワークを崩すには、悪魔達でも恐らく相当な苦労を要するであろう。
「あと、アムラエルちゃんは一度天界へと戻っていて下さいっ、
 こちら側は、私とウリエル君で何とか致しますのでっ」
生まれたばかりとはいえ、アムラエルの能力はウリエルとほとんど変わらない。
ここまでウリエルが無事でこれたのだから、まずそこらの悪魔に倒される事は無いと推測出来る。
今は、手薄な天界の宮殿を守る事も大切な事であった。
「わかりましたっ! アムラエル、頑張るっ!」
「・・・アムラエル・・・」
ウリエルが、アムラエルに声をかけた。
今ここで生まれたばかりの大切な妹に、突然なったばかりの兄の、最初にかける一言。

「・・・気をつけてねっ」
「・・・わかってるよっ、・・・お兄ちゃん!
強気な表情をウリエルに見せたアムラエルは、一同が通ってきた空を飛んでいった。

「では・・・行きますよ、ウリエル君!」
「はい!!」
続いて、ミカエルとウリエルの2人が、サターンの城へと向かう。






「1対1が3組・・・か。
 デスマッチとはまさにこの事だな」
「くぴっ・・・!! ・・・排除・・・!!」
光り輝く雷光が、ぶつかりあう。

「オレ的にはさっさとくたばってほしい所だが・・・気が変わった。
 ・・・じっくりと・・・楽しませてもらおうか」
「それは好都合。
 貴様等の足止めが出来るのなら、こちらとしては助かる」
渦巻く大風が、ぶつかりあう。

「これは普通の魔力じゃ骨が折れちゃうかなー・・・?
 特別に君には水の力を使っちゃおうっとっ」
「あなたも水の使い手ですか・・・!
 ならばこちらも・・・心を鬼にしましょう・・・!」
荒れ狂う水流が、ぶつかりあう。




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