「風」のごとく空中を高速で飛ぶラファエルとベルゼブルは、
レミエル達よりも早く攻撃を始めていた。

「どんなに足掻こうと、死ぬのはてめぇだ」
「そう簡単に、死ぬ訳にはいかない!」
ベルゼブルはラファエルと同じラインにとにかく移動する。
自身の素早さには絶対の自信を持っており、一度捕捉したターゲットは逃がした事は無かったからだ。
「てめぇ・・・天使のくせにちょっとはすばしっこいな」



ベルゼブルの放つ楔のように鋭い弾は、ラファエルと同じく弾速をメインとしていた。
一度に出せる弾数は少ないものの急に放ってくるその弾は、気付いた時にはすでに擦っている。
相手がいつ攻撃をしたのか気付かなければ、知らぬ間に体を切り裂かれてしまうだろう。
恐らく勝負は、長くは続かない。
「さすがに弾が多くないと避けられるか。
 ならばこれだ、『トリ・トライデントシュート』!」
ベルゼブルの必殺攻撃が始まった。
3方向に弾を1発ずつ放ってきたが、どの弾も全て途中で再び3方向に分離した。
「途中から弾が分離するとは、弾速だけでなく弾数も兼ね備えるか!」
どんなに同じ列から離れようと、ベルゼブルは圧倒的に速い動きですぐに列をあわせて弾を放ってくる。
大きく動けば外側の弾に擦り、かといって小さく動けば真っすぐ飛んできた弾に擦る。
タイミングを間違えばお陀仏だ。

「っ、だが切り返しの時だけ大きく動けば、それなりには当たらないなっ」
空間魔法の端にぶつかる際、反対方向へと戻る時だけは大きく避ける事で、正面から飛んで来る弾には当たらなかった。
自分を狙って来る弾は少し避けるだけでいいのだが、時には勇気を持って大きく避けるのも手である。
「ちっ、所詮は方向を増やしただけの技だからな。
 いい気になってんじゃねーぞ・・・」



トリ・トライデントシュートを解除し、何とベルゼブルは空間魔法を破って外へと出る。
「なっっ、空間魔法の外へ!?」
音速で空間魔法を突き破り、そしてすぐに中へと入り戻ると同時に弾を放つ。
「空間魔法なんぞ所詮なまぬるい制約、オレの速さなら魔法も無視して外へと出れるさ。
 ・・・もちろん、今ここでてめぇを無視する事も出来る」
ハッ、と気付くラファエル。
もしベルゼブルがレミエルやジブリエルの方に向かっていったら、
そう考えてすぐに空間魔法を自分も突き破ろうと試みる。
「だが今はサターン様の命令がある。
 あいつらはあいつらで止めているなら、オレはてめぇを止める」
ベルゼブルはどうやらサシでラファエルと戦うつもりだ。
少なくとも、これでラファエルはベルゼブルに意識を集中出来る。

ラファエルの弾はかろうじて、空間魔法の中と外を行き来するベルゼブルに擦る程であった。
もとより、自身の速さではまず間違いなくベルゼブルには勝てない、彼女はそう認識していたのだ。
ならばせめて弾数で勝負をしよう、今のラファエルがベルゼブルに勝てるのは、それしか無かった。

「次はちったぁ難しいぜ・・・『バックドラフトスティレッテ』ッ!」
ベルゼブルはやはり先程までと同じく、自分の正面へと放つ。
「なんのっ! ・・・何っ!?」
しかしラファエルが避けたその弾は後ろ側で拡散し、跳ね返ってきた!
後ろから来た弾のいくつかに擦り、ラファエルは体勢を崩しかける。
「後ろからとは卑怯なっ!」
「卑怯もクソもあるか、そんな事よりも・・・もう一度来るぜ」
さらに、後ろから跳ね返ってきた弾が全てベルゼブル側の端の空間魔法で跳ね返り、
もう一度ラファエルの方へと戻ってくる。
「まさかの3回攻撃とは・・・!
 列と列の間にも隙間があるおかげで、思わぬ場所を通る事は出来るが・・・!」
綺麗な列を作っているせいか、逆に等間隔に綺麗な隙間も出来ていた。
しかも、次の攻撃が来るまでにはすでに前の攻撃は終わっていたため、
一回手のうちさえ読めればそんなには苦労しなかった。
「弾自体が小さいのに速すぎるせいで逆に命中率も悪いってことか。
 やはりこの弾は使いづらいな」



バックドラフトスティレッテもすぐに解除したベルゼブルは、今までと違って普通の丸弾を放ってきた。
どうやら遊びはここまでのようらしく、そろそろ本気で殺しにかかってきたようだ。
「いつまで経ってもこれでは飽きる。
 ・・・殺すとするか」
丸弾を撃つ途中でベルゼブルはラファエルの方へと突進してきた。
ラファエルはすぐに避けたものの、ベルゼブルよりも圧倒的に遅い弾に危なく当たりかける。
「くっ、もはや速さも無視か!」
「お前を殺せるならどんな手だって使う。
 それが戦いの基本で、ルールだなんてのは単なる遊びについてくるオマケのようなものだ」
すでにラファエルを殺す事しか考えていないベルゼブルは、弾速のことなど気にしていなかった。
自身の速さとそれに対する弾速の遅さは、確かに事故を起こしやすく翻弄する。

「弾速は確かにオレにとっても重要要素、だが当たらないのなら他の手で行く。
 融通の利かない奴に勝ち目など無い」
ベルゼブルは次の攻撃の魔力が溜まったらしく、空間魔法にその魔力を放つ。
「今までのは瞬間的に真っ二つを狙っていたが・・・今度のはジワジワと切り裂いていく。
 いけっ、『フォーリナーブレイド』ッ!!」
すると、空間に放たれた魔力の塊が全てさっきと同じ楔の弾へと変化し、
今までとは比べ物にならない程圧倒的な、大きな滝のような勢いで弾が降り注いできた。
(っ、何だこの数は・・・!!)
ベルゼブルの攻撃方法の変化に、ラファエルが体を止めてしまった。
単調な攻撃からうってかわって、大量の弾を避ける攻撃へと変わってしまったからだ。
何とか逃げ場を見つけ出そうとしたが、あまりの数の多さに途中で回路が停止してしまう。

「死ね」
その言葉とともに、降り注ぐ弾の嵐にラファエルが飲み込まれる。
その中で本能的に避け続けていたラファエルであったが、
逃げ道を塞がれるほど弾が一箇所に固まっていた事もあり、その弾に身を少しずつ切り裂かれた。
「・・・・・・!!!!」
無数の弾の音によって、ラファエルの声はかき消される。
「ふん、やはりあっけないな」



フォーリナーブレイドが決まった。
そのはずだった。
「・・・まだ、だ・・・!!」
「っ、てめぇ・・・!!」
ラファエルはまだ、倒れていなかった。
あれほどの数の弾を喰らったはずなのに、何故立っていられるのか。
「貴様のフォーリナーブレイド・・・見切った」
「何だと・・・ハッタリもいい加減にしろ!!」
再び無数の楔弾を降り注ぐベルゼブル、そして再び弾の嵐に飲み込まれたラファエル。
だがよく見ると、ラファエルはその圧倒的な弾数の中でほんの少ししか動いていなかった。
「ばっ、バカなっ! 何故あれだけの弾を少しの動きだけで・・・!?」
「ハッタリは貴様の方だ。
 恐らく貴様は、このフォーリナーブレイドの弾の軌道を自分ですら理解してないのだろう。
 あまりの数の多さに最初は圧倒されたものだが、あのうちの8割程は、こちらには届かない」
そう、ラファエルは最初全ての方向から来た弾を見ていたから避けきれていなかった。
だが、フォーリナーブレイドは距離を取れば、実際は真正面の方から来る弾さえ見れば避けれるのだ。
「策士策に溺れるとはこの事だなベルゼブルッ、貴様にはやはり、単調な攻撃がお似合いだ!」
弾の嵐の中から、動きを止めていたベルゼブルに攻撃を当てつづける。
ベルゼブルはこの間、魔力を放った反動で動く事が出来なかったのだ。



「ちっ、く・・・しょうっ・・・、ふざけんじゃねぇ・・・ぞ!!」
フォーリナーブレイドの魔力を放つのを止め、再び自分のもとへと魔力を戻す。
「ならお望み通り、弾速で決着をつけてやる!!
 最終奥義、『スパイラルフライト』ォッ!!」
ベルゼブルは、最初の必殺攻撃でもある『トリ・トライデントシュート』のように3方向に攻撃を放つ。
しかし今度は、その弾がさらに3方向ではなく16方向へと分かれた。
「今度のはフォーリナーブレイドのように遅くはねぇ、分かれるタイミングも軌道も固定じゃねぇからな、
 てめぇの知らぬ間に体が切り裂かれるぜ!」
「切り裂かれる前に、貴様を倒す!」
速さを取り戻した弾、しかもそれはどこで分かれるかもベルゼブルには分からない。
16方向とはあまりにも多く、単純なトリ・トライデントシュートの強化版というには
いくら何でも強化のしすぎである。
それでも、ラファエルは弾の来ない隙間を見つけて逃げ切っていた。






「っ!」
ラファエルが、一瞬体を止めた。



逃げ場が、無い。
空間魔法の端に辿り着いた時、逃げようにも間にあいそうにないほどの、弾の壁が出来ていた。
・・・詰みか・・・・・・。



そう悟った時、ラファエルは目を閉じた。



弾が、ラファエルを切り裂いていった。
体こそ二つに裂かれなかったものの、羽は飛行出来るような状態ではなかった。
グラッ と、体勢を崩すラファエル。



空間魔法を解いたベルゼブルは、力つきて落下していったラファエルを見て、






ニヤリと、少しだけ笑った。




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