同じ「雷」の属性を使うレミエルとアスタルト。
レミエルの目の前にいるアスタルトは、何故か少し落ち着いた様子であった。
「・・・くぴっ・・・?」
流石に赤ん坊のレミエルとはいえ、相手の余裕そうな態度に違和感を感じている。
ひょっとしたら、スキを誘っているのでは無いのだろうか?
「どうした、攻撃して来ないのか?
 ・・・なるほど、攻撃をした瞬間のスキをつかれると思っているのか」

心を読まれた?
一瞬動揺したレミエルではあったが、その動揺のスキに攻撃はされなかった。
「・・・『火蓋を切る』という諺があったな。
 ならばお互い、戦闘開始の雷光を放つとしようか」
「きゅ・・・・・・」
一体、この悪魔は何を考えているのだ。
自分が今まで見てきた、卑劣でやり方の汚い悪魔とは少し違う。
「用意はいいか? 始めるぞ」
「・・・・・・っ」
レミエルもアスタルトも、微弱な電気エネルギーを溜める。

そして、



バチィッ!!



2つの雷光がぶつかって弾け飛び、一瞬どちらも眩しい光にさらされる。
光が消えた時にはすでにお互い無数の電光弾を放っていた。
レミエルの方は閃光のレーザーともいえる、黄金色の細長い弾を撃ち、
アスタルトの方はあたかも火そのものに見える、赤く光る電気の火花を撃っている。
レーザーと火花といった異なる2種の弾は相殺する事も出来ず、お互いに弾を撃ちながら避けている。

「中々強力な電力を持っているな・・・ならばっ」
アスタルトは帽子に付いていた左右の突起を分離させる。
するとその突起は別の意思を持っているかのように、アスタルトと同じく火花の弾を撃ってきた。
「くぴっ!」
分離させた時から予想はしていたため、レミエルはすぐに突起ビットの弾も回避する。
邪魔になるためビットから先に破壊しようとしたのだが、結構頑丈ならしく、効いてる気配はない。
「念のため言っておくが、どんなにビットに攻撃をしても無駄だ。
 倒したければ、私に集中砲火する以外に手は無いと思え」
わざわざそんな事を敵に教えるとは。
ますますもってアスタルトの考えている事が分からない。
だが今は戦闘中だ。
恐らく何かの罠があるかもしれない、油断は禁物である。



「そろそろ魔力も程よく溜まった。
 ・・・喰らえ、『バッテリーディストラクション』ッ!」
アスタルトの左右を浮遊していたビットが激しい回転をし始め、様々な方向に火花弾を放つ。
同時にアスタルトはレミエルと同じ列へと素早く移動し、レーザーでなぎ払ってきた。
レーザーはしばらくの間放たれ続け、逃げ場を分断されてしまった。
「くっ、ぴっっ!」
先程までの広いスペースではなく、レーザーによって移動出来る範囲を狭められた中で、
アスタルトと2つのビットの火花弾を避けなければならなかったため、
レミエルは出来る限り遅からず速からずの移動で回避する。
しばらくするとアスタルトの放っていたレーザーが消え、次の発射準備をしていた。

「そんな端にいていいのか? 詰むぞ?」
ハッ と気付いたレミエルはすぐに端から真ん中へと逃げる。
徐々にレミエルと同じ列に近づいてきているのだから、端にいれば空間魔法の壁に挟まれて逃げ場を失ってしまう。
だが逆に端の方にいた為、次に逃げたスペースでは火花弾を簡単に避けることは出来た。
同じ列に撃ってくるというのを逆に利用すれば、スペースが開くこともあるのだ。


(やはりまだまだ赤子・・・か)
バッテリーディストラクションの魔力が切れたのか、アスタルトは攻撃を中止し、
次の魔力を蓄える為に稚拙な攻撃に切り替える。
先程とビットのフォーメーションや動きが変化しており、今度はビットが正確にレミエルの方へと弾を放っていた。
「どうした、ただの狙い弾だぞ?」
ところがその弾の速度はあまりにも速く、一瞬でもタイミングが遅れれば当たるのではないかという勢いであった。
「くぴぃっ!」
負けじとアスタルトに集中砲火をするレミエル。
まだまだ電力は衰えておらず、余裕である事を誇示していた。

「そうでなくては張り合いが無い。
 ・・・お前はあまりにも若すぎて、勿体無い程だが」
「きゅ・・・っ、は、い、じょっ!!」
出来る限り、アスタルトが言う事には無視をしてしまおうと、レミエルはただ排除に専念した。
「・・・聞く耳は無しか・・・まぁ、仕方の無い事ではある。
 ・・・『コアトルスピアライナー』

レミエルはアスタルトの次の技の名前だけは聞いていた。
すぐに回避の事も頭に考える。
左右のビットが今度は真っすぐこちら側の壁へと向き、アスタルトの放っていたレーザーよりもさらに細い、
鋭そうなレーザーを放つ。
「今度は逃げ場を固定した。
 ・・・私も、一歩も動かない事にしよう」
そう言ってアスタルトは一定の場所に留まり、両手から火花弾を無数に放ってきた。
ビットのレーザーもそのまま動かなかったため、移動出来る範囲が狭い状態のままで避けることになった。
だがアスタルトが動かないという事で、出来る限り同じ列をキープしておけば弾が外れる事は無かった。
「排除・・・っ、排除・・・!」
攻撃を当て続けても、その場から全く動かないアスタルトに必死でレミエルは弾を撃つ。

自分をこんな目にあわせた、憎き悪魔達を排除するために、
ただひたすら持てる限りの力を、今目の前にいるアスタルト・・・悪魔に、容赦なくぶつける。
「・・・お前の弾は・・・」
「っ?!」
こんなに攻撃を当て続けているのに、全然余裕そうな声でアスタルトはレミエルに話しかけている。
「・・・あまりにも、憎悪で満たされている。
 だが、憎悪だけでは勝てるはずも無い」
「っっ、・・・排除ぉお・・・っ!!!」
レミエルの怒りはさらに増す。
自分がこんなにも憎悪で溢れかえっているのは、お前達が原因じゃないか。
そんな一心で彼女は、今の今まで憎悪を悪魔達に返しているのだ。



「確かに原因は私達だ。
 お前がそんな姿になってしまったのも、私達の仕業。
 今更どんなに謝っても、お前は到底許すはずも無い。
 ・・・ならば、私はお前の出来る限りの気持ちを、受け取るしか無い。
 ・・・それが例え、憎悪しかなくてもだ」
「・・・っ・・・」
今、自分が返しているのは憎悪だけなのか?
そんなはずはない。
自分の姿が機械化された不満、体が吹き飛ばされた時の痛みや、手術の時の不快感。
それらもまた、レミエルは返しているつもりなのだ。
だが、アスタルトはやはり言う。
自分が返しているのは、憎悪だけだと。

「お前は、相手をただ排除したい憎悪しか思っていない。
 存在だけを消したいのなら簡単、何も考えずにただ無意識のうちに行動して、相手を消せばいい。
 だが、不満や痛みなら、それを誇示しながらでなければわかるはずがない。
 ・・・今の私はまだまだ余裕だ。
 だからこうして、お前の弾を全て受け止めながらも、平気で喋っている。
 余裕が無くなってくれば・・・例え私でも・・・」
淡々と喋っていたアスタルトの声に、少し変化が。
攻撃をしながら喋っている間に、いつのまにかコアトルスピアライナーの技が解除されていたのだ。
「喋りすぎたな・・・そろそろ、倒すとしよう」
コアトルスピアライナーを解除したばかりだと言うのに、アスタルトはすぐ次の攻撃準備ができていたのだ。
恐らく、魔力を余裕に残した状態で維持していたのかも知れない。

「いくぞ・・・『クローズンクロスボルト』
空間魔法の中央へと移動したアスタルトがビットを帽子に再び装着し、
体に膨大な量の電気を纏う。
この電力では、恐らくレミエルの攻撃が届く事は無いだろう。
纏っていた電気エネルギーを十字へと放ち、細くはないが長いレーザーを放つ。
「耐久攻撃・・・お前の体力次第だ」



攻撃手段の一つに、『耐久攻撃』と言うものがある。
通常の魔力量よりもさらに越えた攻撃は、相手の攻撃を完全に防御しながら攻撃出来、

攻撃の間は一方的に有利になる。
ただし耐久攻撃は自身の体力も大幅に削るため、多用は出来ない。
熟練すれば相当長い間攻撃が出来るし、短い時間であればその分だけエネルギーを集中して
強力な耐久攻撃を放つ事も出来る。




アスタルトのクローズンクロスボルトは、自身を中心として十字にレーザーを放ち、
ゆっくりとした回転や移動をしながら無数の火花弾を放つ単調な攻撃ではあったが、
耐久時間が長めであり、レーザーの軌道に沿って逃げようとすると、
回避先に火花弾が撃たれていて事故を起こしやすかった。

「きゅ・・・!!」
攻撃を当てたかったレミエルであるが、相手が耐久攻撃である以上無駄である。
今は回避に専念し、攻撃をすることを控えていた。
だが、レミエルはそれが我慢ならなかった。
積もる憎悪が彼女を突き動かしていたのだ。
「・・・っ・・・っっ!!」
どうしても、相手を排除したかったから、レミエルはアスタルトに弾を放つ。
その弾は全て、体に纏われていた高電圧エネルギーによって相殺され、効いてはいなかった。
「愚かな・・・」
レミエルは集中していた回避を怠り、次々と火花弾に当たってしまった。
クローズンクロスボルトが切れた時には、先程と立場が逆転していた。

「・・・まだあと1つ技が残っていると言うのにな。
 その前に力尽きるか?」
アスタルトはビットを分離し、とどめを刺そうとする。
ビットはまたもレミエルの方を正確に向いている。
「・・・くたばれ」






いやだ。

あのとき いたかった。

あのとき くるしかった。

あのとき こわかった。

あのとき にくかった。

あのとき



なきたかった。







「排除・・・!!」
「っ?」
アスタルトは一瞬怯む。
今まで憎悪の気持ちで溢れかえっていたレミエルの、『排除』とは違う声。
まるでそれは、



『自分の受けた全ての感情』を、涙を流しながらも相手にそのままぶつける、ありのままの声。



『ディセントエンケルドス』!!」
子供の言う擬音言葉でも、排除、でも無かった。
紛れも無くそれは、必殺攻撃の名称。
レミエルの槍状の両手から放たれたのは、レーザーを丸く収縮させた雷の塊であった。
「ぐ・・・・・・っっ!!!!」
いきなりの強大なエネルギーにアスタルトは火花弾を撃って対抗するが、
先程のクローズンクロスボルトでレミエルの攻撃が効かなかったのと同じように、
ディセントエンケルドスは、火花弾で破壊出来る攻撃ではなかった。

「まずい・・・っ、直撃する!!!」
次の瞬間、
アスタルトは雷の塊を真っ向から喰らい、全体を包み込まれて感電した!



「ーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
攻撃を受けたアスタルトは激痛による悲鳴を叫ぶ。
それでもなお、アスタルトはこの状況を打破出来ないものかと、必死で対抗策を頭の中で回転させた。
(この電力と魔力を・・・利用・・・して・・・・・・!)
アスタルトは受け止めていた電力を自分の魔力に何とかして変換する。
レミエルの力を逆利用し、自分の必殺攻撃にしようとしたのだ。

「最・・・後の・・・攻撃だ・・・!! っ、『プレイストリリオン』!」
雷の塊の中から何とか分離されたビットが、レミエルの左右へと移動する。
攻撃に集中していたレミエルは回避出来る状況ではなく、それよりもアスタルトを倒す事を優先していた。
お互い、もはやすでにノーガードで戦っていた。
どちらの魔力が先に尽きて倒れるかが、勝負の分れ目となった。



雷の塊の中で、ただひたすら攻撃を堪えていたアスタルト。
ビットと本体の攻撃を受けながらも、電力を維持していたレミエル。



決着が、着いた。






「・・・クローズンクロスボルトの時点で・・・すでに限界だったか」
アスタルトが、その場にいた。
レミエルはディセントエンケルドスの魔力が尽きて、魔界の大地へと落下していた。




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