「水」同士が激しくぶつかりあう、ジブリエルとルシフェル。
とぼけた顔で余裕を見せるルシフェルに対し、ジブリエルは焦りながらも落ち着いて対処している。
「ふふふふふっ、変則的な弾は嫌いかなぁ〜?」
「弾の軌道が読めません・・・どうすれば・・・!」
ルシフェルの撃つ弾にはカーブ弾や速度変化弾が多く、とてもトリッキーであった。
真っすぐ飛んできたかと思えば思わぬ所であさっての方向へと飛んでいったり、
思わぬ方向から角度を変えて飛んできた弾が向かってきたりと、全体を見て避けなければならない。



「イタズラって好きだったんだけどね〜、天使じゃそんなことも出来ないでしょ?
 だから・・・悪魔になってウリエルにイタズラしようと思ったのさっ」
弾を撃ちながらジブリエルに私情を話すルシフェル。
だが、ジブリエルにはそんな話を聞いてるヒマは無かった。
ただただ敵の攻撃を避ける事に集中し、反撃をする。
「さぁて、ショータイムの時間だよ!」
ルシフェルが魔力を自身の目の前に溜める。

「止まるか動くか! イッツ、『シグナルゲーム』!」
必殺攻撃の合図と共に、ルシフェルの目の前には緑色の大きな弾が。
そして、
「っ、囲まれた!?」
ジブリエルから少し離れた8方向から、緑色の小さな弾が挟み込むように飛んでくる。
かろうじて隙間から抜け出すが、ルシフェルの目の前の大きな弾も、ジブリエル目掛けて飛んでくる。
「シグナル・・・緑・・・、まさか」
ジブリエルは隙間から抜け出した後、他に弾が飛んで来てない事を確かめて動きを止める。
「おっ? そんな所で止まってていいのー? 次の弾が出るよっ!?」
再びルシフェルが魔力を溜める。
次に現れた大弾は、先程と違って赤い色をしていた。

「!」
「あちゃぁ・・・読まれてたかっ」
ジブリエルの読みは正しかった。
少しでも動けば接触してしまうぐらい近く、自身の周り8方向に小さな弾が出現したのだ。
弾自体に速さは無くても、魔力の衝撃エネルギーが含まれているため
こういった設置型の弾に触れてもダメージは来てしまうのだ。
「さぁて、大弾が飛ぶよぉ!」
しかしこの挟まれた状態で大弾をどうすれば避ける事が出来るのだろうか。
現状を打破出来ないものかと考えていたが、しばらくすると小弾が大きく離れた。
「っ、何のつもりですかっ? わざわざ逃げ道を開けるだなんて・・・」
大きく離れた隙間から逃げ、ジブリエルは飛んで来た大弾も回避する。
あのまま閉じ込めておけば逃げる事は出来なかったのに、何故小弾を離したのか。
「これはボクとキミとのゲームなのさっ。
 キミはボクの放つ弾幕の逃げ道を探すため、動きを駆使して回避すること。
 もちろん間違えたら・・・お陀仏だよっ」
ルシフェルにとって、この戦いはあくまでも遊びとしか考えていない。
そういえば今放っているこの弾幕の名前だって、『シグナルゲーム』。
ゲームなのだ。

赤の攻撃の後に再び赤の攻撃。
さっき見た攻撃であるため、ジブリエルは弾が離れるまで待つ。
もちろん、その後に飛んで来た大弾も難なく避ける。
「緑と赤の攻撃軌道さえわかれば、あとはわかりやすいですねっ」
「そう思う?」
緑と赤だけの攻撃、そう思ってた矢先黄色の弾があらわれる。
「なっ・・・き、黄色!?」
流石に黄色まであるとは思わなかったジブリエルは一瞬怯む。
「ほーらほら、もう弾がキミの所に来てるよ〜」
周りを見回すと、空間魔法から無数の黄色い小弾が集まって来ている。
さらに、大弾が他の緑や赤と同じようにジブリエルの方へと飛来する。
「大弾は全て私の所に来るのですから、上手く誘導すれば・・・!」
「はいここでバラけてーっ」
ルシフェルの声の合図と共に大弾の動きが突然失速し、バラバラの方向に飛ぶ。
「そして再び向かってーっ!」
さらにある程度飛んだ後に再びジブリエルの方へと戻って来た。
ルシフェルの攻撃には先程からこのような撹乱攻撃が多く、戸惑ってしまう。
そして大弾のおかしな動きのせいで、まだ飛来したままの小弾にかなりかすってしまっていた。



「これでこの技の内容は全部明かしたよっ、次の攻撃行ってみよーうっ!」
シグナルゲームの魔力が解除され、すぐに次の攻撃へと移る。
しかし、解除時間があまりにも早すぎる。
本来ならば次の攻撃の魔力を溜める為に長く攻撃をするところであるが、
戦いをゲームとしか見立てていないルシフェルにとっては、同じ技の繰り返しは嫌いらしい。
「そんなに必殺攻撃をすぐ解除していると・・・すぐにタネが尽きてしまいますよっ」
「ふふーんっ、別にボクはキミだけにこの技を見せる訳じゃないからねっ。
 そう・・・ウリエルにも同じ事をして、驚かしてやるのさっ!」
ルシフェルの真の相手はジブリエルではなく、ウリエルである。
つまり彼から見た彼女はただの障害物、本番前の余興にすぎないのだ。
「まだまだ面白い技はいっぱいあるんだから、簡単に倒れちゃ困るよ〜?」
「でしたら、私があなたを手早く倒すとしましょう!」
ルシフェルの放つ棒状に形成された列弾を避けながら、一心不乱に水弾幕を放ち続ける。
なんとしてもルシフェルを抑えねば。
ウリエルも、ミカエルも、天界の天使達もみんなが危機にさらされてしまう。
レミエルとラファエルが必死で戦っている、ジブリエルもまた、必死で戦っている。
だから自分も、命を懸けてでも戦わなければならない。

「そんなに早く倒そうと思っても無駄無駄無駄っ。
 えー次の攻撃はー、『ラルスクラシロストリス』ッ!」
ルシフェルは自分の後ろ側の空間魔法へと魔力を放出する。
空間魔法から飛び出して来た弾は、あたかもウミネコのような形をしていた。
楔の弾の集合体であるにもかかわらず、弾で一つの形を作り上げていたのだ。
「さぁウミネコよ、渡りのときだ!」
シグナルゲームのときと同じく、ルシフェルの合図と共に大量のウミネコ型の弾が放たれる。
その中のいくつかはしばらくして直角に曲がり、同時に小さな弾を飛ばして去って行く。
「くっ・・・ウミネコさんはこんなに凶悪ではありませんよ!」
「なーに言ってるのか、渡りの時にぶつかってもおかまいなしなんだよ?
 ほらほら、ぶつかっちゃうよー?」
ジブリエルを直接狙ってくる弾は無かったものの、圧倒的に数が多い。
直角に曲がって飛び去って行くものはまだしも、そのままこちら側に突進してくるものは
小さな弾とともに回避しなければならなかった。

「水の流れはその時の気分次第で変わるもの。
 そして潮風も天候と空気次第で変わるもの。
 風の強さが変われば、当然渡り鳥達が飛ぶ向きだって変わるものさっ」
ルシフェルの生み出すウミネコ型の弾は、殺気をむき出している幻覚が見え隠れする。
まるで、自分が渡りの風を邪魔しているせいでウミネコ達が凶暴化しているようにも見えた。
「『激流起こす北の堕天使』・・・ルシフェルさんの二つ名は伊達じゃないのですね・・・!」
「そうさ! それにこの次がボクのメイン攻撃となる!」



シグナルゲームと違って単調な技の繰り返しであったせいか、
ルシフェルは先程よりもかなり早めに、ラルスクラシロストリスの魔力を解除する。
「・・・? 魔力を溜め続けている・・・?」
ルシフェルは今までのトリッキーな攻撃とは違い、単純に真っすぐ飛ぶ弾を出し続けている。
省エネでもしているのだろうか?
だとしたら、次の必殺攻撃の魔力は相当な量であるに違いない。
「さぁ・・・激流の惨劇が、今から始まるよ!
 来たれ、『ノアの方舟』!!」
ルシフェルは1つの小さな粒弾を生み出す。
しかしその弾からは、先程のシグナルゲームの赤い弾と違って衝撃エネルギーを出してる気配が見られない。
しばらくするとその粒弾は動き、ジブリエル目掛けて小さな弾を放って来た。
だがそのスピードは到底遅く、少し動けば全て避ける事が出来る程であった。
「ど・・・どういった攻撃なのですか・・・?」
ジブリエルにはますますわからなかった。
一体、この状況のどこが激流の惨劇であるのか。



フィーンッ フィーンッ フィーンッ



突如、空間内にけたたましい警報音のようなものが鳴り響く。
「なっ、何がっ!?」
折角救いの方舟があらわれたのに・・・御愁傷様
・・・え。
ジブリエルが聞いたルシフェルの言葉の後、



激しい勢いの津波が、空間内全域を襲いかかった!
「・・・・・・・・・!!!!!!」
突然の予想外の出来事に、ジブリエルは波にさらわれてしまう。
そのまま空間魔法の端まで叩き付けられ、未だに激流の津波がジブリエルを押しつぶしている。
(こ・・・こんな攻撃・・・どうやって避ければ・・・!?)
津波がひく。
かろうじてジブリエルは生きていたが、この一撃だけで体力の半分以上を奪われてしまった。
さらに津波がひいた後、間髪入れずに先程の粒弾があらゆる方向に小弾を撃つ。
「ボクはついさっきヒントを言ったよ?
 だけどその意味がわからない限り・・・次の津波にも飲み込まれるね」
どういう事だ。
空間内全域を覆い尽くす激しい津波、そして絶えず動きつづける粒弾。
しかし、その粒弾からは全く衝撃エネルギーが出ていない。



フィーンッ フィーンッ フィーンッ



「2度目の警告、今度こそキミはゲームオーバーかなっ?」
タネがわからなければ、今度こそ次の津波でお陀仏だ。
落ち着いて、津波が来る前に視界全域を見回す。
「・・・っ? 粒弾が」
先程まであったはずの粒弾が、いつの間にか大きな泡の弾となっていた。
「まさか!!」
ジブリエルはとっさに泡弾の方へと近づき、思いきって体当たりする。
・・・全く痛くない。
この泡弾からは衝撃エネルギーが出ていない。
その直後、津波が前方と左方向から襲いかかって来た!

ところが、この泡弾がバリケードとなっていたのだ。
泡弾は津波の流れに影響される事無く、激しい勢いの水流の衝撃をかき消していた。

「これが、『方舟』なのですね!」
「よーやくわかったようだねっ、面白い攻撃でしょー?」
津波が去った後、泡弾が再び粒弾となってあらゆる方向へ弾を撃つ。
その弾を避けた後、津波の警報が鳴り響くとともに泡弾の中へとジブリエルは身を隠した。



「中々ここまで・・・変則的な攻撃も珍しいものです」
「これをウリエルに見せてやりたくってね、じゃあそろそろトドメを刺すとするかな?」
ノアの方舟の魔力も解除し、改めてジブリエルとルシフェルが対峙する。
「けれどボクも魔力の限界が近づいて来てるんだよねぇ・・・、
 これ以上キミが攻撃を避け続けてたら、こっちの身が持たないんだ・・・」
さっきから余裕な表情を見せいたルシフェルが息をあげている。
疲労がたまっているのは、何も攻撃を受け続けていたジブリエルだけでは無かったのだ。
それもそのはず、連続して必殺攻撃を見せ続けたあげく、
ノアの方舟のような膨大な魔力を放つ攻撃を出しては、流石のルシフェルでも限度がある。

「お遊びはここまで、とお見受けしますが?」
「なぁに・・・、ボクはいつでも、戦いを遊びとしか思ってないからね。
 出来る事ならさ・・・、この戦争が終わった後にもう一度・・・遊ぼうよ?」
戦争中という状況であるにもかかわらず、そして相手が敵対している悪魔であるにもかかわらず、
ルシフェルのその子供のようなノリに、ジブリエルはつい笑みをこぼしてしまう。
「丁重に、お断りしますっ」
「それは残念・・・それじゃあ、最後の攻撃行くよ!」
ルシフェルが翼を広げる。
あの攻撃の後だというのにまだ魔力が残っているとは。
正直感服しましたと、ジブリエルは心の中でそう思った。

「これでトドメだっ! 『ネイビーアビス』ッ!!」
ルシフェルの体が黒く染まり、シグナルゲームの黄色弾と同じように様々な方向から弾が飛んでくる。
しかしその弾は全てルシフェルに集まっていき、発射される気配が見当たらない。
「弾を集めている・・・? この攻撃も、一体どういう・・・?」
「なぁに、直にとんでもない攻撃になるからさっ」
直後、ルシフェルに集まっていた弾が綺麗な円を描いた形となって発射される。
密度があまりにも濃い上に弾速があり、翼をどうしてもかすめてしまう。
「う、後ろから弾が来ると言うのに!」
「前と後ろの2重攻撃、挟まれちゃえっ!」
前から来る弾の隙間を見つけながら後ろから集まってくる弾を回避していたが、
ノアの方舟の時のダメージが激しく、ジブリエルは移動が鈍っていた。
(く・・・! やっぱり、さっきの攻撃で翼が・・・!)
その事もおかまい無しに、ルシフェルはさらに魔力を溜めていく。
時間をかける毎に弾の密度が濃くなっていき、






ついにジブリエルは回避する暇もなく、前からも後ろからもくる全ての弾に当たってしまっていた。
徐々に、彼女の反撃の力は弱まっていき、ついには水弾も出さなくなった。
そしてジブリエルの体が傾いた時、ルシフェルは呟いた。



「チリも積もれば山となる、滴も溜まれば池となる。
 ・・・ボクの大好きな格言さっ」



ルシフェルがそう言った時にはジブリエルは既に気絶しており、魔界の大地に体を伏せていた。




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