「えーっとこの部屋には・・・ん〜、これくらいしか無いか」
今喋っているのは、私じゃなくってシズクである。
生物兵器達に対抗出来る武器を探して、今の部屋に何か得物が無いか探していた。
銃器等があればよかったのだが、サバイバルナイフぐらいしか見つからなかった。
「一応こっちから攻撃すれば、相手の攻撃も弱まってダメージは受けないでしょうけど。
 でも出来る限り、ナイフよりは銃が欲しいところね」
『かか、体を共有って事は、受けるダメージも共有されるですだ?』
「あったりまえじゃない。
 体の動いてる感覚はないにしろ、痛みとかは脳も共有してるから感じるわよ。
 ・・・ついでに、死ぬ時も同様だけど」

雫は怖い事をペラペラと喋るので何だか不安になる。
もしかして、彼女は『死』を全く恐れてないのだろうか?

「・・・こんな状況で一々怖がってちゃ、体が持たないじゃない?」
・・・え。
あ、そうか、今は私とシズクは体を共有していて脳も共有しているのだから、
自分が考えている事はシズクだってわかるんだ。
・・・と、いうことは・・・。
「さっきから、あんたがあたしに対して『不安』だって思ってる事とか、
 あらゆる考えはお見通しよ。
 ・・・たまーに心が読めないときはあるけれどさ」
やっぱりですか。
・・・出来る限り、余計な事は言わないでおくべきか。



「さぁーて、近くに練習用のネズミとかいないかしら?」
『ネネ、ネズミって・・・あの巨大な?』
「そう、【オーガマウス】っていうポピュラーな実験体。
 あんなのまだ可愛いモンよ? あたしは他の生物兵器も色々見てるんだから」
そうしてシズクと会話していると、そのオーガマウスが単体で姿をあらわした!



〈シギャァアアアッ!!〉
「単体なんて命知らずねっ、かかってらっしゃい!」
『でで、出来るだけかかって来て欲しくないですだぁああ〜〜〜っ!』
臨戦態勢のシズクに対して、私はつい弱音を吐いてしまう。
「フルエは黙っとく! どうせ今体を動かしてんのはあたしなんだから!」
自分の意思に反して動く体、目の前に素早いスピードで襲いかかってくるオーガマウス。
シズクは、向かって来た相手の動きを利用してナイフを振る。

ナイフで切り裂かれたオーガマウスの口が裂け、そこから血が噴き出す。
これだけでも私にとっては卒倒モノだったが、彼女が頑張っているのに
何もやっていない自分が倒れるわけにはいかなかった。
「見るのが辛いなら別に目ぇ瞑ってていいのよっ?
 もちろん、寝たりしたら承知しないからね!」
『わわ、わかっていますだああ〜〜っっ!』
口の右側を裂かれたというのに、未だにオーガマウスは自分の体目掛けて襲いかかってくる。
あの口では痛みも想像しきれない程なのに、実験改造された生物兵器とはどれほどタフなのだろうか。
何回もオーガマウスの体に切り傷を付けているうちに、ついに額に渾身の一突きを繰り出す。
大分弱っていたらしく、ついにその巨大な体は動きを止めた。

「ふん、あっけないわね」
『あ、あ、あれであっけないのですだ・・・??』
私にとっては、いつ食べられてもおかしくないと思ったのだが。
シズクもシズクで、これはほとんどお遊びに近いようだった。
「そうそう、このオーガマウスって実は食用としても使えるのよね。
 ちょっと剥ぎ取るとするか」
『なな、何ですとだ!!?』
「何よ・・・こーいう状況なんだから仕方ないでしょ?
 それとも、あたしと仲良く餓死するつもり?」
勿論餓死なんてゴメンに決まっている。
諦めた私に対し、シズクはオーガマウスの肉の一部を切る。
まさか物入れの中にこんな物を入れるハメになるとは。
メガネとは別の、もう1つの物入れの方に入れられた。

「今のは単独だったからちょろかったけど、複数来られたら厄介だわね」
『わわ、私達2人だけでもまだ不安があるですだ・・・』
「ん〜〜・・・、でもあたし達以外生き残りはいないんじゃないかしら?」
『そそ、そんなキッパリと〜・・・』
シズクは私を協力してくれているが、いちいち落ち込ませる発言ばかりする。
こう、少しだけでもいいから元気づけてくれるような発言はしてくれないものだろうか・・・。
「なによもう、現実逃避なんてしても結局現実がこれなんだから、前向きなさいっての」
『・・・・・・』
また、考えている事を読まれてしまった。
「・・・フルエさぁ・・・もしあたしに会えてなかったら、どうしてたのよ」
『そ・・・そ、それはっ・・・』
シズクの急な、それも的確な所をつかれた質問に、私は答えるのに戸惑ってしまった。
「・・・ま、会えてなかったら、っていうルートはもう終わっちゃったんだから考えもつかないか。
 今は私がフルエの体に寄生して共に行動しているんだから。
 ・・・だから、私と共にいる『今』を見ておくのよっ」

シズクの言う事は、正論だった。



さっきのオーガマウス、シズクがいなかったら名前だって知らなかったし、
食用になる事だって知らなかったし、他の生物兵器よりもマシだってことも知らなかった。
それでもマシだとは言え、私にはどうする事も出来なかった。
それを、シズクが倒してくれたから。
今、シズクがいるからこうして生きているのだ。




『わ、わ・・・私・・・・・・っ』
「・・・現実受け入れるのが難しいって言うのは、あんたのような年頃じゃそうだろうね。
 もっとも、あたしは歳だとか何だとか気にしてないけれど。
 ・・・老けるのはゴメンだけれどね」
『くすっ・・・何それですだ・・・』
ついさっきまで自分は落ち込んでいたのに、シズクの言う事がおかしかったものだから、
ちょっとだけ笑ってしまった。
「あらっ、ちゃーんと笑えるんじゃないの。
 もっとあたしみたいに余裕ぶちかました笑いでもすればいいのに」
『しし、シズクは油断し過ぎなんですだっ』
彼女のこの油断大敵な性格が不安ではあるが、それでも生物兵器に立ち向かえる強い心には安心出来た。



「この辺りは敵の姿を全く見ないわね・・・」
『そそ、それならばっ、私と交代するですだっ』
「オッケーッ」
突如、シズクが目を閉じる。



「・・・おおっ、『私』ですだっ」
『当たり前じゃないのよ・・・、一応あたしスリープモードだから・・・
 何かあったら・・・・・・心の中に直接叫んでちょうだい・・・・・・・・・』

シズクはどうやら、自分の脳の中で寝たらしい。
「なな、なるほどっ、こうして私とシズクが交代すればいいのですだっ?
 ・・・私も頑張るですだっ・・・あ、メガネメガネ・・・」
シズクとの交代の時に物入れに入れられたメガネをかける。
警戒心の強い私なら、きっと後ろから生物兵器が来ても対応出来るはず。
・・・対応とはいえ、逃げるだけなのだが。



(・・・? あんな所に、普通のカービィ?)
震達の後ろから、群青色をした魔法使いのようなカービィが見ていたのだが、
影の体であるせいか彼女達は気付いていなかった。




「・・・・・・」
静かな、細長い通路。
耳を澄ましても特に足音はしない。
自分は忍び足に近い歩き方で、出来る限り足音をたてていなかった。
聞こえるとすれば、どこからか遠くから微かに聞こえる機械の稼働音ぐらいしか。



(・・・やっぱり、生物兵器じゃないカービィだ・・・、何でこんな所にいるのかな・・・)
群青色のカービィは、震達の後をついてきていた。
空中浮遊をしていたため、足音をたてていない。
彼女達が気付かないのも、無理は無い。




「なな、何だか大きな広間に出ましただ・・・」
天井まで高さのある、大きな円形の部屋へと着いた。
この部屋にも、見た所生物兵器は存在していなかった。
一応天井や壁をあちこちに放置されていたが、今は開ける気にはならなかった。
「・・・とりあえず、ここで私も休憩するべきですだ・・・」
全てのドアにロックをかけ、簡単に入って来れないようにしておく。
「・・・ここまでは順調ですだ、けれど・・・・・・」



[不安なのねっ]



「うう、うわっ!?」
急に誰かに声をかけられる。
この部屋には今は私しかいないはず、
シズクも今は寝ているから、だとしたら一体誰の声なのか。

「こんばんわぁ〜っ」
「うっひゃあぁぁあ!!?」
後ろからつつかれて驚いた私の目の前に、群青色のカービィが。
魔法使いのような帽子に、ボロボロのマント。
何よりも、ただ単に群青色をしているわけではなさそうだった。

「だだ、誰ですだ!!?」
「私は、『Ms.パラシェイト』
 この研究所じゃ、『影寄生少女』って言われているわ〜」
この子も生物兵器なのだろうか。
見た目は何だか魔女のコスプレをしたような普通の少女にしか見えないのだが、
『影』というだけあって、体がほんの少しだけ透けていた。
「何だか普通のカービィと会うのも久しぶり〜っ、寄生本能がそそるわぁ〜!」
「それを言うなら帰省本能ですだっ!?
 と、いうか君も寄生能力を持っているですだっっ!?」
思わず彼女の間違いにツッコミをしてしまうも、すぐに警戒態勢に戻る。
「? 『も』、って事は他にも寄生生物がいたのかなぁ・・・?
 まぁそれはそうと、あなたの体にレッツイーンッ!」
いきなりパラシェイトが私の体に飛びかかる!
シズクが寄生した時と同じような、しみ込むような感触が再び伝わってきた。

「ちょ、ちょ、ちょ、待つですだぁあっ!!」
「無理無理、影の体だから拒否は不可能よっ。
 それに実体を持つ私の体は、普通なら他人の肉体に入る時に
 宿主に痛みや不快感が来るものだけど・・・、脳内をいじくる事でそれを阻止出来るのよっ」

脳内をいじくる、という言葉にゾッとする。
そんな事をされたら、下手をすれば自分の心を完全に支配されてしまうのでは。
抵抗する事も出来なかった自分は、このまま彼女に寄生されてしまうのか。



「・・・あれぇ?」
突如、彼女の体が止まる。
『・・・ちょっとあんた、この体はとっくに先客がいるのよ』
「しし、シズクッ!」
自分の心の中でシズクが目を覚ましたのだ。
入り込もうとしていたパラシェイトの体を、心の中のシズクが追い出そうとしている。
『確かにあんたは影だから、体で直に触れる事は不可能かもね。
 けれど寄生体として脳の中に入って来たんなら、あたしみたいな同じ寄生体でガード可能よっ!』

「わわわぁっ!!」
体の中に入り込んで来ていたパラシェイトが、すぐ追い出された。
『もう、助けて欲しいならすぐ心の中に叫べばよかったのに』
「ごご、ごめんですだっ、パニックになっててつい・・・」
追い出された事があまりなかったためか、驚いていたパラシェイトが話しかけて来た。
「あなた、とっくに寄生されてたのかぁ・・・、ちょっと残念」

『フルエ、ちょっとこいつと話をしたいから、交代』
「え? え? あ、わかったですだ」
スリープモードを解除したシズクと交代をする。

「現状が現状だからねっ。
 あんた、今この研究所がどうなっているか知らない?」
シズクがパラシェイトに強く問いかける。
「えぇっと、研究所内の生物兵器達が暴走を起こし始めて、
 生物兵器を製造しているカービィがいる部屋のカードキーが、
 8体のカービィ型生物兵器に配られたってことくらいかな・・・」

『なな、何だかいきなりキーパーソンを入手してしまった気がしますだ』
当然私は今は心の中に待機しているわけなので、パラシェイトに聞こえる訳が無い。

「ま、簡単に会えればすぐ終わるんだろうけど、そうはいかないわよね・・・」
「それは難しいわよ・・・私だって、影の体でなかったら今頃死んでたに違いないもん。
 そのカービィ型生物兵器、全部攻撃的な性格だしさ・・・。
 寄生能力しか無い私はとても太刀打ち出来なかったわ」
どうやら、カービィ型生物兵器には他の寄生体に寄生されないようなプロテクトが施されているらしく、
パラシェイトは寄生能力を発揮する事が出来なかったようだ。


『そそ、そんなのに私達こそ太刀打ち出来るですだぁ・・・??』
「成せばなる、成さねばならぬ、何事も。
 いきなり重大事項を聞いたんだから、ある意味ラッキーじゃないのよっ」
相変わらずポジティブなシズクである。
ふと、シズクは辺りを見回し始める。
『? どうしたのですだ?』
「ここ結構ダンボール箱あるじゃないのよ、開けてなかったの?」
『なな、中に何が入っているかわからなかったから・・・』
ハァ、とシズクがため息をつく。
「中に武器があるかも知れないじゃないのよ、開けるわよっ」
『ちょっ、ちょっ、そんないきなり!?』
警戒という言葉を全く知らないかの如く、ダンボール箱を片っ端開けていく。
ほぼどれも、実験用に使われてそうな怪しい粉やら訳の分からないガラクタばっかりであったが、

「あったあったっ!
 こーいうのがあるのよフルエッ、覚えておいてっ!」
最後のダンボール箱に、何故かリボルバー銃が入っていたのだ。
ご丁寧に弾薬もある程度入っており、しばらくはこれで乗り切れそうである。
『わわ、私は銃器の使い方なんて知らないですだ・・・』
「あー、そっか。
 しかもあんたが銃の反動とか耐えきれるかわからないものね。
 ・・・ってか、この体が反動に耐えきれるかしら」
「下手に撃ったりしたら、敵に見つかっちゃうかも知れないものね〜」
まだいたのか、とシズクがパラシェイトに厳しいツッコミをする。
とりあえずパラシェイトは、私達に協力してくれる姿勢を見せてくれた。
「私もこの影の体を上手く利用して、行ける範囲の偵察とかしてみせるわ。
 情報が手に入ったら、あなたと会った時に教えてあげるからっ」
「ご丁寧にどうもっ。
 ・・・ところで、そのカービィ型生物兵器はどこにいるの?」
肝心な事を忘れていた。
生物兵器を製造しているカービィの部屋が8大カービィ型生物兵器の持つカードキーで封印されているのなら、
嫌でもそのカービィ達に会わなくてはならない。

「この部屋がほとんど中央に位置しているのよね。
 その先の扉から様々な所へ行けるんだけど、
 今はとりあえず、向かって一番右の通路を真っすぐ進んでいくのがいいわ」

『むむ、向かって一番右の通路を・・・?』
「何かオススメって訳?」
沢山ある道のりの中で、何故それを勧めるのだろうか。
「なんというか、他と比べてそんなに危険度が少なそうだからって思ったのよ。
 ・・・別に他の所も行っていいんだけど、あまりオススメ出来ないわ」
カービィ型生物兵器が弱いのか、はたまた道中にトラップや凶暴な敵がそんなにいないのか。
パラシェイトはとりあえずその道を勧めた。



「よぉし、それじゃあ一応の武器も取得出来たし」
『しゅ、しゅ、出発ですだっ!』
「私も出来るだけ手助けするわよ〜っ」






私達とパラシェイトは別行動を始め、それぞれの目的を果たす事にした。



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