「よし、次の停泊地まであと少しだっ」
ミラスカを仲間にした日から、すでに4ヶ月は経った日の事。
順風満帆の海賊生活を暮らしていたジュエリオ海賊団一行は、
次に停泊する港町へ進路を向けていた。

「お兄、なんだかいつもより楽しそうだけど?」
港町に着く事はもう2桁ぐらい経験しているのに、
今回はシャニアの顔がかなりウキウキとしていた。
「何を隠そう次の港町、チョコレートの名産地なんだよ。
 それすなわちチョココロネだって色々売ってるに違いない! って訳でねっ」
「シャニアは相変わらずコロネ好きだなっ」
おちょくるようにして笑うミラスカ。
そして、「言ったなぁ」と笑いながらおちょくり返すシャニア。
本当にこの2人、テンションがシンクロしている。






「ほんじゃま、いつも通り自由行動ってことで!」
「了解っ!」
「はーいっ!」
シャニアだけでなく、全員は完全に遠足気分であった。
ミゥシーもパレットもチョコは嫌いな訳じゃなく、むしろ好きな方であったし、
パレッタは外を歩くよりは、自らすすんで船番になって武器の手入れを、
ミラスカも、持ち前の飛行能力で港町の上空から見下ろしたり、
ついさっきまでの航路を展望したりしていた。



「おおー、売ってる売ってるっ」
主にチョコパンをメインとしたパン屋さんへと、シャニアは足を運んでいた。
もちろん、目当てのチョココロネも沢山売られていた。
「これは迷うなぁ?、ミルクたっぷりの白チョコタイプもあるし、
 一口サイズなんてのもあるんだなぁ」
色々と見ていたシャニアの目に、また1つ珍しいものが。
「へぇ、ビターチョコ入りのコロネか。
 チョココロネなのに大人の雰囲気、ってのもいいな」
シャニアがそのコロネへと手を伸ばす。






「あ」
「む」


・・・ほぼ同時に、同じくチョココロネに手を伸ばしてきたカービィが。
「・・・お先にどーぞっ」
手を退いたのはシャニアの方であった。
「ん? あぁ・・・すまないな」
見たところ、水色混じりの鼠色の体をしたそのカービィは外国の者であった。
本来、カービィ族には無いはずの髪の毛が、生えていたのだ。
ボサボサしたツンツンヘアーで、その髪型に似合うかのようなクールな顔つきをしていた。

「髪の毛が生えてるなんて、随分珍しいカービィなんだね」
「・・・オレにしてみたら、
 髪の毛の生えてないカービィばかりという方が、よっぽど珍しい」
鼠色のカービィの発言に、シャニアも「だよなぁ」と返答した。

「・・・それにしても、猫のような口をして笑ってばかりとは、
 ・・・・・・変なだな」
「や、オレ、だよ?」
「・・・・・・・・・は・・・?」
シャニアの『男』発言に、鼠色のカービィは半分呆れたような感じで驚いた顔をする。

「それにその発言、同性の人相手に失礼だと思わない?」
そう、ツンツンヘアーと一人称が『オレ』ではあったが、このカービィは女性だったのだ。
だが普段からバレていなかったからなのか、
シャニアに全て見透かされた時、半分呆れた顔も完全な驚きの顔となった。
「・・・何でバレるんだ」
「んー・・・、ま、君の発言に対するオレの返答と同じ感じ」
「真逆だ、と言う事か」
鼠色のカービィがため息をつき、チョココロネを買おうとレジに並ぶ。

「買うもん一緒だからさ、レジで一緒に清算しよ?
 今ちょっと行列も出来てきてるしさ」
「・・・もちろんお前も金払えよ?」
「そりゃ当たり前でしょっ」



店から出た後も、2人は別れずに何故か並んで歩いていた。
片やコロネが1つだけ入った小さな袋を、片やコロネが5つ分くらい入った大きな袋を提げながら。
「・・・お前、すっかりオレと知り合い気分になってるだろ」
「コロネを買った仲ってことで」
「言っておくが、ナンパするつもりだと言うのなら、今すぐにでも引き離すぞ」
「いやいやいや、しないって。
 第一女顔をしたような男のナンパに引っかかる女の人って・・・、・・・いるもんなの?」
「・・・さぁな」
噴水のある広場へと着き、ベンチに並んで2人が座る。

「青空の下で食べるチョココロネもオツだね〜」
「全く・・・男だというのが嘘に聞こえてくるほどだな」
「そーいう君も、コロネを食べるって可愛いところがあるじゃないか」
「いや、オレは別にコロネが好きって訳じゃない。
 むしろ・・・苦いものが好きなんだ」
ふーん、とシャニアが感嘆してすぐ、鼠色のカービィは話を続けた。

「オレの名前は、『ビター』
 ・・・まぁちょっとした事で、旅をしてる」
「苦いもの好き、って理由が分かったような分からないような。
 あ、オレは『シャニア』、シャニア・ジュエリオって言うんだ」
ビターから名前を教えてもらったお返し、ということでシャニアも名前を明かす。
「名前だけ聞けば、中々の物なのにな。
 実際に会った者達は面を喰らうんじゃないか?」
「喰らってました、HA HA HA」
シャニアのとぼけ笑いにつられ、
ビターも口の端をわずかに上げてフッと笑った。
「お前は不思議なやつだ。
 その柔らかな顔を見ていると、オレも何故かつられてしまう。
 ・・・ガラでもないのにな・・・」
『笑う門には福来たる』ってやつだよ、ビター」
チョココロネを先に食べ終えたシャニアは、ビターの右足に目が入った。
「? そーいや、右足のその・・・小さな入れ物には何があるの?」
「・・・これ、か?」
ビターがキョロキョロと辺りを見回した後、その入れ物の中に手を入れる。
そして、





ガチャリ。



「銃、だ」
「・・・・・・物騒だねぇ」
恐らくは冗談のつもりなのだろうが、シャニアに銃口を向けて見せた。
一瞬だけ驚いたそぶりを見せたシャニアだが、やはりすぐに普段の顔に戻る。
「構えなかったな」
「冗談か殺気むき出しかくらいはわかるさ、
 何たってオレ、海賊やってるんだから」
「・・・お前も物騒じゃないか」
呆れたツッコミと共に、ビターは銃を再び入れ物へと戻す。
「そういえば、ビターは1人で旅してる訳?」
「まぁな、1人だ。
 というより、1人旅の方が楽しいからな」
「・・・あいつに似てるやっ」
あいつ? と、ビターが疑問を投げかけ、シャニアが答える。

「ふぅん・・・海賊って言うから結構な数を従えてるって思ったんだが。
 お前を除いたら4人しかいないのか」
「君に似てる、って言ったミラスカは4ヶ月前に入ってきたばかりさ」
雑談をしているうちに、ビターもチョココロネを食べ終える。
流石に食べ終えてすぐには動く気にはならなかったのだろう、しばらく座ったままでいた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

お互い、特に何の話題も見つからない。
というより、2人は会ったばかりの赤の他人であるはずなんだから、このまま立ち去ってもよかったはず。
だが恐らく、それすらも忘れていたのかもしれない。
「・・・えーとさ・・・」
とりあえず、先にシャニアが口を開いた。
「・・・旅って、何の旅してるの、かな?」
「・・・・・・特に、何も・・・」
「・・・・・・」



シャニア、何かとにかく次の話題が出てこないかと、必死に考えている。
ビター、もう少し具体的に何か言えば良かったかと、少し反省している。




「・・・じゃぁ、今度はオレからの質問だ」
「ん、あ、ああ、うんっ」
今度はビターから質問をする。
「そういうシャニア達は、何のために海賊をしているんだ?」
「ん〜〜〜・・・何というか、説明しづらいんだけど・・・。
 まず、海賊を始めたのは、オレと妹の2人だけだった」
妹がいたのか、とビターはシャニアに相づちをうった。
「両親が亡くなったからね、死ぬ間際に父さんに、
『お前の昔からの夢だった、海賊をやってみないか?』って言われて、
 それがオレの海賊を始めるきっかけになったんだ」
「・・・そうか、何というか・・・聞いて悪かったな」
「いや・・・、海賊やってて楽しいし、
 それに、仲間もいるし、妹もいる。
 父さんも母さんもいなくなった時は・・・そりゃぁ、寂しかったけどさ」
先ほどのビターの短い答えに対し、シャニアの方は長い答えを喋っていた。

「仲間、か」
ビターがベンチから立ち上がり、リュックを背負い始める。
「悪くないかもしれない。
 ・・・けど、決心がつくまではしばらく、1人旅を続けようと思う」
「それは人それぞれだからねぇ、ビターはビターで旅を楽しめばいいと思うよっ。
 強要は、しないしさ」
「ふっ・・・結局、仲間にしようと思ってたってことは、
 ナンパするつもりだったんじゃないか」
「違うからっ」
シャニアの最後のツッコミに、ビターも去り際に最後の笑顔を見せた。

いつも通りのクールな目つきだったが、どこか、わずかに緩んでいるようにも見えた。






『不思議なやつ』、って言われたけどねー。
 ・・・オレから見ても、君は『不思議なやつ』に見えるよ」
そして、シャニアは船へと戻る事にした。




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〜〜※この話についての注意書き〜〜
今回登場した『ビター』は、猫丸 八さん宅のゲストオリカビです。
管理者様からのコラボ許可は得ています。

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