「逃げたぞ、追え!」
「そりゃぁ逃げるさっ!」
シャニアがビターと出会う数ヶ月前。
黄色の体をした、左目が×マークのレンズになっていたカービィが、
何やら灰色のカービィに乗りながら何かから逃げていた。

その灰色のカービィは、あきらかに口が無かった。
目かと思われる巨大な空洞、その目はモノアイである。
しかも2つの足が付いているにもかかわらず、その足を動かしていない。
体からクモのように長細い何かが4本、足の代わりとなって地を走っていたのだ。
その見た目は、誰がどう見てもメカであった。



「くそっ、逃げられたか!」
「いや・・・どうせアレは機械化してる失敗作だ。
 我々は、あんな機械に頼らず自立する生命体を生み出すのが目的だ」
「・・・しかしあの未完成のカービィが数日前にまた暴れて、
 研究所の警備が手薄になっていたところに、
 まさか今日あんな盗人が乱入してくるとはな・・・」
よく見ると、追っていたそのカービィ達は何やら白衣を思わせる物を着ていた。
『研究所』と言っていたから、恐らくは何かの研究員なのだろう。



「へへへっ、これは結構な収穫だぜっ!
 完全なメカのカービィを奪えたんだしなっ」
「・・・コクウ、カンゼン、チガウ」
「・・・・・・あれ、ひょっとしてこいつ・・・」
黄色の体のカービィは、
何でも自分の命令通りに動くカービィ型のメカを手に入れたと思っていたらしいが、
どうやらその灰色のカービィ、『コクウ』は自分の意志を持っていたようだ。
「なぁんだ、サイボーグかよ・・・にしても、完成度高けーなオイ」
「・・・サッキハ、コクウ、ニゲルタメ、キイロ、ノセタ。
 ・・・キイロ、ナマエ、ワカラナイ」

黄色、まず目の前の黄色の体のカービィの事を言っているのだろう。
「キイロって言うな、僕の名前は『ゲンム』ってんだ。
 それにしてもコクウ、お前は完全なメカじゃねーんだな」
「コクウ、アンドロイド、ノチ、サイボーグ」
「・・・天気みたいな言い方するな」
「?」
本来、ゲンムは100%機械で作られたカービィを手に入れようとしていたのだが、
コクウは元はアンドロイド、つまり人工的に作られたカービィであって、
その後に機械化されたものであるため、少々がっかりしていた。

「ちぇっ、だけど今更返すのも勿体ないし返せなさそうだし。
 ・・・報酬ってことでもらっていくか」
「ヨロシク、ゲンム」






そして話はビターと別れた後から続く。
「今日はここで停泊するかなっ、チョココロネも美味しいしっ」
シャニアはこの港町で買ったコロネがよっぽど気に入ったらしく、
しばらくの間ここに留まる事にしたようだ。

「たっだいまー」
「おー、おかえりシャニア。
 何だかちょっと遅かったなっ」
「ん? コロネ買ってちょっとこの辺りを散歩してただけだけど?」
「・・・さてはナンパk」
ミラスカが言い切る前にシャニアの曲刀がミラスカの顔前でピタリと止まる。
「ミィーラァースゥーカァー?」
「・・・しっつれいしましたぁー・・・」
顔はいつも通り笑っているシャニアだが、
明らかにその笑い顔がマジではないと言う事を、ミラスカは瞬時に悟り謝った。

「ところでさぁ、シャニア。
 この船って『船大工』っていないのかよ?」
「・・・んー、そういえばそうだなぁ・・・。
 一応パレッタとパレットの2人が一応修理してくれてるけど、
 2人は別に大工って訳でもないし・・・」
専門の船大工が船員にいないのは少々厄介なものである。
パレッタもパレットも、本職はどちらかといえば戦闘員。
パレットの方は、ミゥシーの料理等の手伝いも兼ねているが。
「折角今ここに停泊している事だし、ダメ元でも探してみないか?」
「いやいやいや、流石にこんな所に都合良くいる筈が・・・」
「チョコレートの名産地だし、こう手がもの凄く器用な奴とか仲間に出来ないものかなぁ・・・」
「うーん・・・、・・・せめて修理機械みたいな感じの、
 便利な道具か何かあればいいんだけどねー・・・・・・」
とりあえず外に出るシャニアとミラスカ。
しかし、

「あ痛っ?!」
シャニアは何か目の前の硬い物にぶつかった。
「な、何が・・・?」
目の前にいたのは、カービィの形をした何かと言っていいもの。
異質な存在に思ったシャニアであったが、すぐに全体を観察し始める。
「・・・カービィ型のメカ・・・?」

「メカじゃねーんだよな、これがっ」
「!? 喋った!?」
「喋ったのはそいつじゃなくて、ボクの方だっ」
死角になっていたため見えなかったが、その声の主は後ろの方にいた。
「そいつはサイボーグアンドロイド、略してボーグロイドの『コクウ』
 で、ボクが現在の主の『ゲンム』
「コクウ、メカ、チガウ」
今度こそ聞こえた声は目の前の存在、コクウのものであった。
「へぇー、でも喋るんだなっ」
ミラスカがコクウに触れようとした時、ゲンムが何かを飛ばして来た!
「どわっ!? く、釘っ!?」
釘はミラスカの目の前スレスレを横切り、地面にチャラッと落ちた。
「ったく、気安くコクウに触らないでくれるかなっ!
 一応、ボクがそいつの主なんだからなっ」
「う・・・すまねーな・・・」

(釘に、ボーグロイドか・・・この子ひょっとしたら・・・)
「えっと、ゲンムっていったっけ。
 ゲンムは何かを修理するとかいうのは得意なのかい?」
「あったり前さっ!
 ・・・実はさぁ、コクウは元々ボクの所にいた訳じゃないんだっ。
 とある研究所からかっぱらって来たんだけど、
 あ、最初ボクはコクウの事をカービィ型メカだと思ってたから取って来たんだけどさっ。
 そしたらアンドロイドのサイボーグだったから、結構ガッカリしたんだよね・・・。
 まぁ今更返す訳にもいかないし、行く宛もこれでほとんど無くなってさぁ・・・。
 ・・・で、今の言い回しだとアンタが船長?」

ゲンムがシャニアの事を、口を少しほくそ笑んで見直し問いかける。
「! ・・・バレちゃった?」
「船から出て来た事はわかっていたし、
 何よりそっちのカラスに釘を投げようとした時、
 アンタがボクに対して鋭い目線で睨みつけてきたのを見たからねっ」
「そりゃまぁ、船員の危機となれば船長が守らなくっちゃね。
 でもすぐに『わざと外す』っていうのがわかったから、手出しはしなかったけど」
「・・・もし当たってたらどうしてたんだよっ」
「・・・うーん、それはなかったしいんじゃね?」
よくねーよ、というミラスカのツッコミを入れられながら、
シャニアはゲンムから続きの会話を聞いた。

「って事でさ、よければアンタの船に乗せてくれない?
 ボクとコクウならアンタの言う通り、修理、いわば『船大工』として活躍出来るよ?」
「ふーむ・・・、・・・でも、ゲンムも特に根っからの船大工って訳じゃないんだよね」
「まーね、でも修理する事なら誰にも負けないって自信は持ってる。
 コクウのアタッチメントで、大工用に改造する事も可能さっ」
「コクウ、ナニカナオス、ガンバル」
ゲンムだけでなく、コクウも頑張る姿勢を見せてはいる。
それにお目当ての修理屋がちょうど今、あちらの方から仲間になりたいと願っている。
これ以上の勧誘のチャンスは、まず無いだろう。

「・・・よし、わかったっ。
 そっちの方から入団する事を願っている訳だし、それに修理屋勧誘していたのは確かだからねっ。
 期待しているよっ、ゲンム、コクウ」
「ん、よろしく!
 ・・・ってそういやボクら、まだアンタらの名前聞いてないぜ?」
あぁそういえばっ、とシャニアが『いっけねー』という顔をして名乗る。
「オレはシャニア・ジュエリオッ」
「で、オレがミラスカ」
「あとの船員については中にいるからっ、そこで会ってっ」












そして、シャニア達がチョコレートの名産地の港町を離れ、半年過ぎた頃。

とある海底の宮殿にて。
「・・・どこへ行く! おい!」
「アテはねーが・・・少なくとも、こんな所にいつまでもいられねぇ。
 そして、祭りの出席なんかも興味は無い」
顔にイレズミを刻んだカービィが、宮殿を後にしようとしていた。
「何を言っておるのだ!
 今年で隣領海におられる幻の種族の末裔とされるお方の、2年目の誕生祭があるのだぞ!
 この領海の名誉のためにも・・・!!」
「所詮あのクリオネは、祖先の分家に過ぎん・・・。
 そして未来・・・、あいつは何かしらやらかしてこの海を混乱に陥れる。
 ・・・そんなやつと同じ姓など、持ちたくもないな」
このイレズミのカービィは、どうやら言い争いの主である一領海の王の息子であるらしく、
隣の領海に住まう者の誕生祭への出席を断ろうとしているらしい。
「なっ・・・!?
 キサマッ! あのお方になんという無礼な言葉を・・・!!」
「ジジイ、オレはテメェに付き合いきれねんだよ。
 海の王とかほざいてやがるのに、幻の種族の末裔とかいうやつには頭上がらねぇのか。
 ・・・そんな落ちぶれたやつの子孫だと思うとオレは・・・、何もかもぶち壊したくなるぜ。
 ・・・だからそうなる前に、オレからここを出て行くって言ってんだ、・・・・・・あばよ」
「おい!? 待て、パシェイドッッ!!!



「テメェの未来は間違いなく絶望。
 ・・・巻き込まれる前に、オレはオレの道を勝手に進んで行くさ」






そしてシャニアの海賊船。
ゲンムとコクウが入団し、船員として慣れて来た頃である。
「修理っていっても、そこまで酷い傷を受けてるとこは無かったな・・・。
 主に主砲とかその辺りの調整がボクの仕事になってね?」
「まーねっ、航海士だってちゃんといるしっ」
「シャニアー、言っとくけどオレ航海士違うから、海の旅ガラスだからっ」
「ミラスカさん、思いっきり役立ってるじゃないッスかっ」

「ミゥシー、サラアライ、カンリョウ」
「コクウのその4本の長細いの、助かるわぁっ」
「触手・・・いや、コードなのかな??
 どっちにしてもそれ、足の代わりにもなって便利ですよね」



最近の海は少々荒れた天気が多かったものの、何とか乗り切っていた。
しかし、荒れた天気でもないのに突然大きな波も襲いかかって来た事もあり、
船内ではたびたびこんな会話が飛び交っていた。
「ポセイドン様がお怒りなんじゃないかなぁ」
「お兄、私達特にそんな事はしてないと思うけど・・・」
「しかしいきなり波が来るなんて、どう考えても海が原因だと思うッスけどね」
「むしろ、不安で不安でグラついた心がそのまま反映しているとかだったりしてっ」

パレットの発言に一同、それもどうだろうかなぁと言った所で、外からミラスカの呼び声が。
「シャニア! 前方から高波が来ているぜっ!」
「おぉっとそりゃまずいっ!」
すぐに波の圏外へと逸れるため、会話をやめて舵取り等をし始める。
「おいおい、逃げ切れるのか!?」
「コクウ、スコシ、タメス」
えっ?
とその場にいた全員がコクウの方を振り返り、コクウは船の一番後ろへと移動する。

そして、モノアイに何やら青白い光が集中する。
「・・・おーい、まさか」
「ハッシャ」
言い切る前にコクウが特大のビーム砲を発射し、船がその勢いで加速した。
と、同時に放たれたビームは高波にぶつかり、割れて弾け飛ぶ。
「・・・タカナミ、ショウメツ」
「・・・逃げた意味が無いような気がするんだけど・・・・・・」
「センチョウ、ナミノナカ、ダレカキタ」
「誰か?」
改めて波の方を見てみると、割れた波の合間から1人のカービィがこちらに向かって来ていた。
「うぉおっ!?
 い、今のビーム明らか喰らってたよね・・・?」
「・・・っ!」
そのカービィは距離があったにもかかわらず、
あっというまに船に追いつき、乗り込んで来た。
「・・・テメェら、今の波を砕くとはやるじゃねーか」
「あ、波起こしてたのアンタが原因なのね」
しかしよく見ると、波ごとビームを受けた筈の体は全くの無傷であった。

「オレの名は『パシェイド』・・・元々この領海の王子だったものだ。
 だが気が変わって、オレはアテもねぇ放浪の旅に出た」
「この領海の王子・・・、・・・おいおい、
 って事はアンタ正真正銘の『ポセイドンの子』じゃないか・・・」
「よせ・・・オレはもうあんなやつとは縁を切った。
 実力も無ぇようなやつに、王の称号はあまりにも勿体ないからな」
何という言われよう、
『ポセイドンが不安で不安で』というパレットの考えが当たっているではないか。

「しかし波を砕くビームが扱えるのか、今の陸のカービィは」
「いや、それ出来るのそこのコクウだけだから」
ウィーン、と動作音で返事をするコクウ。
パシェイドは、コクウを見るなりすぐに爪を立てて高速で近寄った!
「!?」
「オレはこの海を誇りに思っている。
 だから誇りも無いポセイドンにも、海に住まわない地上のテメェらにも、
 オレの誇りの強さはまず敵わないだろうっ!!
コクウは防衛行動のためすぐに電子頭脳による突発回避を行った。
後ろに退いたものの、鉄で出来ているコクウの体に、パシェイドに切り裂かれた爪痕が少し残る。
「ッ、コクウ!!」
「! あの爪・・・鉄より硬いのか!?」
「さぁどうした・・・、
 船なんぞを使って海原を威張り散らしながら突き進む、陸の輩。
 ・・・キサマがこの船長だな?
シャニアの方を瞬時に見て、パシェイドが問いつめる。

「最近オレが船長だって事、すぐにバレるよね」
「それほどお兄が強いってオーラを醸し出しているんじゃないのかな?」
「あー、なるほどっ、HA HA HA」
「・・・っ!!」
ふざけるな、と感情をそのままむき出したパシェイドが、シャニアに飛びかかる。
「っと!」
シャニアも、爪が当たる直前で曲刀でガードする。
「ほぉ・・・あの速度に反応するか。
 さっきの機械のやつよりも速いとはな」
「コクウはメカじゃなくって、サイボーグだからねっ」
一度、パシェイドがシャニアから離れ、お互いが臨戦態勢を整え直す。

「・・・オレが仲間になった時も、こんな感じだったなっ」
「そういえば、ミラスカさんは戦って仲間になったんでしたっけ」

「・・・パシェイド、だっけ?
 行くアテが無いとか言ってたよね。
 アンタの誇りよりオレが上回ると証明出来たら、仲間になってくれないか?」
「一方的だな・・・。
 オレはもとよりつるむ事なんざ苦手なんだ。
 第一、陸のカービィごときが海のカービィに勝てる筈も無い」
「よぉし、だったらオレがその海のカービィに、勝ってみせるさ!!」
次はシャニアが先にパシェイドに攻撃を仕掛けた。
余裕でパシェイドは爪でガードをするも、俊敏なシャニアはガードと同時に次の振りかぶり行動に移る。
その次の行動もまた、パシェイドはガードをする。
時折、パシェイドはガードを兼ねた切り裂きをするも、シャニアの曲刀に防がれ、
お互い攻防一体の戦いを見せている。
「レベルたけーなぁ・・・」
「縁を切ったとはいえ『ポセイドンの子』なだけあるッス。
 天性の才能に加えて、自分の力も相当鍛錬しているんスよっ」
ミラスカとパレッタがのんきに会話していたが、パシェイドの爪の衝撃波の流れ弾がギリギリ隣を擦る。

「こらっ! 見物ならもっと遠くからにしてくれっ!」
「・・・了解」
すぐさまシャニア以外の全員は避難し始め、出来るだけ攻撃の届かない所から見届ける。



力においては誰にも負けない自信を持っていたパシェイドであったが、
シャニアが互角な戦いをする事が予想外であったためか、少々疲れを見せ始めていた。
(・・・こいつ、ふざけたナリや言動に反して・・・、相当できるな!)
シャニアを弾き飛ばしたところでパシェイドが爪を交差し、X字の衝撃波を作り出す。
「おぉっと!?」
流石にこれは曲刀では防げないと察知したシャニアはジャンプで回避し、
着地と同時にパシェイドに向かって突っ込む。
「!!!」
かろうじてガードし、シャニアはその反動で後ろへと飛ぶ。
「よっ! まだまだぁっ!!」
が、そこでシャニアは再び急反転をし、再び曲刀を振りかぶって飛んで来た!
(なっ、何なんだコイツの俊敏性と器用さはっっ!)



曲刀が当たる直前で、シャニアは攻撃をやめる。
「っ、・・・テメェ、何のつもりだ」
「これが刃の方だったら負けていたよ?」
「・・・戦に情けをかけるのか。
 ならいっそ、最後まで攻撃を仕掛けろよ」
「んー・・・・・・、それじゃぁ」
と、急にシャニアがパシェイドの体をつかみ、ともえ投げをした!
「っ!? ぐっ!」
「攻撃は仕掛けたよ。
 ・・・これで、文句無いだろ?」
「・・・・・・ちっ、どうもテメェは苦手だ」
すぐにパシェイドは起き上がり、シャニアの方を振り向く。
「言っておくが、協力はしないぞ。
 あくまで、オレはこの船に勝手に乗っているだけだからな」
「ま、一応そう解釈しておこっかっ」



仲間になったかどうかはわからないが、パシェイドはシャニアの船に居着く事となった。
これで、シャニアの海賊船のメンバーは、シャニアを含め8人。
ゼネルの見た写真を見る限り、残る仲間は1人。






シャニアの海の旅は、もうしばらく続く。




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