ジュエリオ海賊団を結成し、パレッタとパレットを仲間にして早10ヶ月。
2人を仲間にする工程で、シギリヤ海賊団をたった1人で全滅させたシャニアは、
当然の事ながら他の海賊達にも有名となっていた。

その時に、コロネを食べながら総数40以上の海賊団員を全員倒した事から、
付いた二つ名が『コロネのシャニア』
本人はその名を聞いた時、何だか微妙な喜びと呆れの顔をしていたそうな。






その後も様々な事があった。
無人島に上陸し、色々と木材や食料を補給している最中に、
大昔の商船の宝箱が漂着していた物を見つけた事もあった。
料理の担当は始めはミゥシーだけであったが、パレットもいつしか手伝うようになった。

もちろん、時たまに同業者である海賊達と戦った。
ミゥシーはボウガンで、パレッタはブーメランシックルで、
そしてパレットはというと、
自分の身を自分で守る為にという一心で作った、お手製の携帯式小型キャノン砲を使っていた。
だが戦闘は専らシャニアとパレッタの2人で、
ミゥシーとパレットが戦うとなると、よほどの大乱闘であった。






そんなトラブルも乗り越えてきた、ある日の事。
この日は快晴で絶好の航海日和、夕陽も綺麗な1日であった。
「あ〜〜今日も平和だったっ、風も涼しくていいねーっ」
舵の操縦を交代し、甲板に休憩しに来たシャニアが背伸びをする。
「もう1年経とうとしてるのかぁ・・・、何だか早いような早くないような」
とりあえず甲板をうろうろ歩き回り、ふと山吹色の空を見上げる。
途中立ち寄った町の図書館で海の生物を調べていた時、1つだけ印象に残っていたことがあったようだ。
「・・・そーいや海には『ウミガラス』ってペンギンみたいなのがいるんだっけか。
 ペンギンみたいな姿って知らなかった時は、烏の仲間かなぁとか思ってたんだけどなぁ」
HA HA HAと笑っていたシャニアの眼中に、甲板のヘリに座っていた1人のカービィの姿が。
後ろを向いており、背中に翼が生えている事が分かった。



「夕陽を浴びるオレ、ロマンだよなぁ」
何だか独り言を喋っており、シャニアには全く気付いていないようだ。
「なーんて、これじゃナルシストじゃん!
 オレはロマンチストなんだってば、そうだろー!?」

「そうだなぁ」
そのカービィは恐らく独り言で言ったはずなのだが、
シャニアの返事が聞こえて足を滑らせた。
「どっわぁぁぁああああああああ!!!?」
滑らせた方向は甲板側であったため、おもいっきり体を打ち付ける。
強く打った背中をさすりながら、そのカービィはシャニアの方を見た。
「あぁなんだ・・・この船、人がいたのかよ?」
「いなかったら何なのさ」
「ん〜・・・幽霊船か難破船かなぁと」
「いやいやいやいや、こんな綺麗な幽霊船はおろか難破船なんて無いってば」
何だかノリが自分と似ているなぁ、と少し笑いながらシャニアは思った。

「で、お前は一体何者なんだい?」
「よく聞いてくれた! オレは海の旅ガラス『ミラスカ』
 まぁこの船をちょいと羽休めの場所にしてたんだっ」
とりあえず話を聞き終えて、シャニアが一言。
「ウミガラスってペンギンじゃなかったか?」
「海の旅ガラス! イコールただの海鳥っ!
 旅ガラスとは家無しの流浪人のこと!! 把握した!?」

「ん、把握した」
やっぱりこのハイテンションな喋り方、自分に似ているなぁともう一度シャニアは思った。

「アニキー、何やってんスか? そんなとこで」
先程のミラスカの大声の説得が聞こえたのか、パレッタがやって来た。
「あー、ちょっと休憩がてらの雑談」
「・・・誰ッスか」
「たまたまここを休憩場にした旅ガラスだってさ」
ふーん、とパレッタはあまり興味の無さそうな返事をしてその場を立ち去った。






「・・・・・・」
夕陽も沈み、そろそろ晩飯の時間。
ミラスカはまだ、ヘリに座って休憩していた。
「や、旅ガラスさん」
そう言って、ミラスカの隣にシャニアが座る。
「休憩したらやっぱすぐに飛び立つつもり?」
「そりゃそうさ、ここは羽休めのために停まっただけだし。
 流浪人である以上、同じ所に長くいたら変だろ?」
「・・・旅ガラスっていうけど、何の為の旅?」
シャニアがそっと呟いた、一つの疑問。
何らかの訳があって旅をしていなければ、わざわざ苦労して流浪人をしないはず。
自分達は親を亡くし、そして自分は長年の夢を叶える為に海賊になった。
理由はあるはず、無ければそれこそ不思議だ。
「ははっ、痛い所をつかれたなぁ・・・。
 実は意味なんて特に無いんだ。
 ただ何て言うか・・・、人と違った生き方してみたいなって思っただけ」
「! ・・・ふっ、あはははははっ!」
その言葉を聞いて、シャニアは思わず大笑いをしてしまう。
「お、おいおい・・・何もそんな笑う事はないだろ」
「いや、お前とオレさ・・・なーんか似てるなぁってずっと思ってたんだ。
 ・・・『人と違った生き方』、かぁ・・・」
? とミラスカは理解出来ずに首を傾げる。

「むしろ、オレの父さんに似てるよ。
 父さんも結構破天荒だったからさっ。
 で、オレもどうやらその血を引いてるんだとさ。
 妹にもよく言われる」
ミラスカは、シャニアのその一文で理解出来た事があった。

父親はいない、恐らく母親もいないから、こうして海賊をしているんだ。
生き残った妹と。

「・・・大変だな、お前も」
「なーに、大変だけどさっ、海賊は自分の長年の夢でもあったし。
 やりたい事や楽しい事なら、大変でも続けていけるよ」
今度はミラスカの方が、ハハッと笑いを零した。
「さっきお前、『お前とオレが何か似てる』って言ったよな。
 確かに思考回路シンクロ率400%だなっ」
「はははっ、なんだそりゃ」
そんな雑談をしているうちに、ミゥシーとパレットが晩飯を作り終えたらしく、呼びに来た。
「お兄ー、晩飯出来たよ・・・ってどちら様?」
「ああ、この船にちょいと停まってる、旅ガラスのミラスカだって」

「何だかシャニアさんが2人になったみたいですね・・・、
 仲間になったら心強そうですが」

パレットのその一言に、シャニアとミラスカが目を少し見開く。
そして、同時にお互いの方を見る。
「・・・ふーむ・・・」
「・・・えーと・・・」

ちょっとした沈黙の後、先にシャニアが問いかけた。
「・・・一つ質問がある」
「・・・何かな」
「どうしても流浪人として続けていきたい?」
「・・・まぁ、これはオレの生き様ってことだから」
「・・・・・・賭けに乗る?」
「・・・『仲間になるか、ならないか』・・・で?」
「わかってらっしゃる」
ミゥシーとパレットにはボソボソ声しか聞こえなかった為、当然今の会話の内容も分かっていない。
「えーとさ、ミゥシー、パレット。
 悪いけどオレ、晩飯は後回しにしとく」
「えぇぇ? ・・・あ、うん、わかったわ」
どうやらミゥシーはこれから起こる事が分かったらしく、先に戻っていった。
パレットはというと、ミゥシーと一緒に戻らずにその場に居残った。



「1人で旅をしてるんだ・・・腕は立つよね?」
「当たりまえだのくらっかー」
何だか気分の抜けるミラスカの返答に対し、シャニアが曲刀を持つ。
この勝負でシャニアが勝てば、ミラスカは仲間に入るという条件を出したのだ。
「シャニアさん・・・」
助けられたあの時から今日に至るまで、シャニアの強さをずっと見て来たパレット。
だが、相手のミラスカも明らかにただものではなさそうだ。
だから、今回ばかりは心配してしまう。

「よし! 行っくぜ!」
行動を先に始めたのはシャニアの方だった。
まずは素早い足の速さでミラスカとの距離を詰める。
曲刀は今回、斬れない方を向けているため当たり判定が僅かに速い。
ちなみに、いつもの斬れる方では逆に僅かに当たり判定が遅いのだ。
「っとぉ!」
ギリギリで空中へと逃げるミラスカ、しかしシャニアの動きはそこで止まらなかった。
「逃がすかっ!!」
相手が空を飛べるにも関わらず、シャニアは空高くジャンプした。
これには流石のミラスカも面を喰らう。
「うぉお!? きゅ、急降下っ!」
振りかぶりが当たる前にミラスカはすぐに地上へと着地する。
「空を飛び回るのは反則、なんて言うとでも思った?」
「っ、まぁ・・・半分予想はしてたつもりだけど」
嘘付け、とシャニアは笑いながら再び構えを取る。
ミラスカもすぐに余裕の表情に戻り、
「じゃあ今度はオレの方からだな!」
間髪入れずにすぐに攻撃態勢に入った。
思い切り羽撃く事で強風を起こし、さらに鋭い羽根も同時に飛ばしてくる。
「おいおいおい、よく見かけるパターン攻撃じゃないかっ。
 こーいうのは・・・」
シャニアは最低限飛ばされない程度に足に力を入れて踏ん張り、
残った力で曲刀を使って、飛んで来た羽根を切り落とす。
「普通なら羽根に気を取られて飛ばされるからな。
 力の配分は大切だねっ」
「・・・流石っ、おとぼけ顔をしてても船長をしてるだけあるな」
「HA HA HA、もぉちろんさぁ」
ミラスカもシャニアもまだまだ余裕である。
「長引いちゃ時間が勿体ない、早めに決着つけようぜっ」
「出来る限り・・・そうしてほしいねっ!」






「・・・あいつ〜・・・」
2人が戦っているその頃。
その2人が粒程度に小さく見える位の距離の上空を、1人のカービィが滞空していた。
「どこをバサバサ飛んでるのかと思ったら、何ちょっかい出しているんだわさ?・・・」
姿を見る限り、女性型のトビウオのハーフカービィと思われる。
「いきなり『もっと強くなってから帰って来てやるよ』なんて言うから、
 かなり遠いとこに行ったのかと心配したわさ・・・」
トビウオのカービィは、どうやらミラスカを追ってここまで来たらしい。
「・・・ま、あいつの事だわさ。
 あたしも期待して、待ってみるわさ」
少し微笑みながらそう言うと、トビウオのカービィはその場から飛び去った。






「・・・・・・っ」
「・・・・・・!」
すぐだったようにも思えたし、意外と長くも感じられた。
最後のお互いの一手は、シャニアの曲刀がミラスカに当たる直前であると共に、
ナイフの様に武器化されたミラスカの羽がシャニアに当たる直前でもあった。

つまり、引き分けである。
「・・・この場合、賭けはプラマイ0って事だね」
「そのようだ・・・が、1つだけプラスった事があるぜ」
? シャニアが少し顔をかしげる。
「1人旅なんかより、
 お前達と一緒の旅の方が何十倍も楽しそうだなっ!」
ミラスカが、八重歯を見せる程のニカ笑いをする。
それに対しシャニアは、いつもの猫口をしたおとぼけ顔に戻り、
「楽しいだけって訳でもねーぜ?」
「そりゃそーだろっ?」

ミラスカとシャニアがハイタッチをした。






「あ、お兄!」
「ミゥシー、すまないなっ。
 晩飯は残っているかな・・・?」
よく見ると、暖め直しの晩飯がシャニアの分だけでなく、もう1人分ある。
「お兄なら絶対、ミラスカさんを仲間にするって思ってたからねっ」
「・・・お見通しってことかぁ」
「それにオレ達、実はまだ食べてないんッスよねっ」
パレッタの発言にミラスカもシャニアも驚いた。
3人とも、自分たちの戦いが終わるまでずっと待っていたらしいのだ。
「おいおいおい、先に食べててもよかったのに」
「それは新しく仲間に入るミラスカさんに失礼ですってばっ」
それもそうだなぁ、とシャニアは改めてミラスカの方を見る。



「そんじゃ新しい仲間、ミラスカの入団を祝って!」
「乾杯ー!!」






また1人、ジュエリオ海賊団に賑わいが増した。




続きを見る

戻る