「さて、海賊といえば仲間だ」
「仲間?」
シャニアがいきなりそう言ったので、ミゥシーは少し理解していなかった。
「そう、仲間さ。 いくら何でもオレ達2人だけって骨だろ?
 そこで、オレ達の海賊船に何人か乗船希望でもって思ったんだけどさ」
「ん??・・・私達別に何か目的があるわけじゃないんだけど?
 例えば、世界一の秘宝を探しているとかじゃないし・・・」
ミゥシーの言い分ももっともである。
自分達はあくまでも、シャニアの夢を叶えたうえで、海の上の生活をしているのだから。
何の理由も無しに仲間なんか集まるのだろうか?
「ミゥシー、海賊船はマイホームみたいなもの、
 そして新しい家族を迎え入れるのも可能な船。
 クルーはすなわち家族も同然っ。
 船に乗りたい人がいるのなら、乗りたい人が来るさっ」
なんというか理論的すぎな気がしないでもないが、
シャニアがそういうのならいるのかもしれない・・・多分。



「とりあえず物資補給ってことで、近くの港町に停泊するぜっ」
「近くって行っても3日はかかるんだけど・・・」
それなら出航前にあらかじめ物資補給してた方がよかったのでは、というツッコミが多そうだ。
それでも常時ポジティブマイペースなシャニアは特に気にしないだろう。






3日後。
特に他の海賊船の襲撃や天候のトラブルもなく何気ない日々を送り、
昼頃には目的地である港町が見えて来た。
「今は船の留守番役がいないけど、
 ・・・まぁ船の中には無くなって困るものはこれ以外は特に無いかな」
シャニアは、自室の奥に置いていたトンファーを持ち出していた。
このトンファーは格闘家の母が持っていた武器の1つで、大切な形見であった。
しかし2人は他の形見の武器を選んでおり、
カマキリの鎌のように大きく曲がった曲刀をシャニアが、ボウガンをミゥシーが装備していた。
「母さんは何かこのトンファーがしっくりきてたようだけど、オレらはこれがいいかな」
「私は近距離戦が苦手だから、遠距離武器を選んだわっ」
持っていく物を用意した2人は船を港につけると、すぐに町を探索し始めた。



「大きいとは言えないけど、盛んな港町だよな」
2人の暮らしていた所も港町であったが、そこよりは少し盛んであるくらいで、
あとは特に代わり映えのしない場所だった。
「えーと、買う物買う物・・・?」
シャニアがあちこちを見ていた時、ふと何かの影が目に映った。
他にあまり人が通らなさそうな、路地裏の陰に。
「・・・子供、と・・・あの人らも海賊か・・・?」
赤い帽子を被った子供のカービィと、茶色の体の子供のカービィが、
何やら4人程の海賊カービィ達と言い争っていた。
「お兄、どうしたの?」
「しっ・・・、何も喋らずに、付いて来て」
ミゥシーは兄の発言を聞いて口をすぐに塞ぎ、言われた通りついていく。






「てめぇら、ガキのくせにオレ達に歯向かうつもりか? ん?」
「うっせーなっ! オレらを甘く見んじゃねーぞっ!」
「そ、そうだそうだっ! 兄さんを怒らせたら怖いんだからっ!」
どうやら2人の子供カービィが、海賊カービィ達に目を付けられていたらしい。
先程の発言から、茶色の体の方が赤い帽子のカービィの兄のようだ。
「シギリヤ海賊団の恐ろしさも知らねぇで、
 ガキ共にそんな事言われたって何も怖くねぇなっ、ひゃっははは!」



物陰から様子を伺っていたシャニア達。
ミゥシーは困惑して、シャニアに話しかける。
「お、お兄・・・どうするのさ?」
「まぁ待つんだ、この後の行動にもよる」

しばらく見ているうちに、後から現れた海賊の船長らしい者が、
茶色の子供カービィをつまみ上げた。
「わっ!? こっ、この!」
茶色のカービィはじたばたと暴れたが、無駄な抵抗であった。
「ラ、ラブダ船長」
「時間をかけるさせるな、お前ら。
 なんならこの子供を連れて行って、どっかに身売りさせりゃいい」
「! に、兄さんを離せぇっ!」
赤い帽子の子供カービィが、船長『ラブダ』に飛びかかり、必死で引き剥がそうとする。
「生憎2人も連れて行くスペースは無いんでね、お前とこいつは今日、ここでお別れだ」
しかしすぐに振り払われ、ラブダ達海賊カービィがその場を去る。
「パレットォォオオオッ!!」
「兄さんっ! 兄さぁあん!!」
叫ぶ言葉も空しく、子供2人は引き離されてしまった。



「にいさん・・・っ、・・・どうしよう・・・!」
兄が連れて行かれ、泣き始めてしまった帽子のカービィ。
離れ間際に呼ばれた名前は、『パレット』

「一部始終を見ていた。 オレ達と同じ所の港の方だね」
不意に呼ばれたパレットが、声のした方を振り向く。
「海賊ってのはタチの悪い奴らが多いんだ。
 君達は、それをわかって彼らに近づいたのかい?」
物陰から様子を見ていたシャニア達が、パレットに話しかけたのだ。
「っ、ボク達は・・・・・・」
目に涙を浮かべたままであったが、泣き顔から少し強気を見せようと必死になった顔になって、
パレットは事情を説明し始めた。

「親に捨てられた孤児なんだ・・・。
 だから、追い剥ぎとか盗みでもしないと生きていけなかった。
 ・・・海賊を相手にした事だって、あるさ・・・」
相手にしたといっても、何かを盗みさえすればあとは相手が諦めるまで逃げ回る事であった。
そういえば、兄の方は何やら変わった形の刀を持っていた。
恐らく過去に海賊か何かから盗んだ、戦利品なのだろう。
「・・・今回は、相手が今までと全然違った。
 数が多いだけじゃなくて、1人1人の足も速くて、逃げ切れなかった。
 ボクはいつも兄さんに助けられてばかりだったから・・・・・・、
 ・・・だから・・・・・・」
「抵抗出来なかった、か・・・」
パレットから色々と聞いたシャニアが、突如背を向ける。
「お、お兄?」
「ミゥシー、ちょっくら買い物を続けてくれ。
 オレちょっと・・・行ってくるわ」
シャニアの言葉をすぐに理解したのはミゥシーだけではなかった。
パレットもミゥシーと同じく、これから何をしに行くかわかったシャニアを引き止める。
「ストップ、ストップ、ストップ!! お兄、1人で行くつもり!!?」
「ちょっ、まっ、い、いくらボクでも理解したよ! それは無謀だよ!!」



突然引き止められたシャニアが驚き、2人にちゃんと説明する。
「おまっ、せめてオレのおやつのコロネ買う時ぐらいゆっくりさせろよっ」
「・・・・・・・・・・・・」



沈黙。






「意味がわからないよっ! もうっ!」
結局さっきの爆弾発言でしばらく気が抜けていたせいで、シャニアを引き止められなかった2人。
特にパレットの方は怒りをあらわにしていた。
兄は連れ去られ、自分達の惨めな過去をばらして、結局は損な事ばかりなのだから。
「っ、・・・あの、あなた・・・いつまでそこに・・・いるつもり、なんですか?」
シャニアの後をついていかず、ただ立ち尽くしていたミゥシーに、
パレットは一応今の立場を弁えつつ話しかけた。
「えぇっと・・・、正直言うと私も、お兄の行動はたまにわからない時が、あるんだっ」
「・・・そう・・・です、か」
ミゥシーの場合は母親の遺伝なのか。
奇怪で破天荒な父親の特徴は、どうやらシャニアに全て受け継いでしまっているらしい。
「・・・でも、今回の行動は本当に私でも分からない・・・。
 ・・・・・・あの、さ」
「・・・なんでしょう?」
パレットは怒りをあらかた開放したからか、彼の兄・『パレッタ』が連れて行かれてしまった時のように、
再び落ち込んでいた。

「えぇと・・・、連れて行かれて悲しいのは分かるわ。
 けど、ここで何もしないのは・・・どうかと・・・」
「っ・・・あなた、さっき聞いたでしょう?
 ・・・海賊に立ち向かった事のあるボク達でも敵わなかった相手だって・・・。
 ボクは、兄さんを助けたいけど・・・・・・、・・・けど・・・」
そこから先は、言葉が詰まった。
だが、ミゥシーは彼が詰まっている言葉が何なのか、何となくわかっていた。
きっと、今まで2人で生きて来たのだから、言えないのだろう。
「・・・お兄を探そうよ!
 そして・・・・・・言いにくい事は、わかってるよ?
 けど、意地を張ってる時間は無いわよ!」
ミゥシーの叫びを聞いていたパレットの口が、ぴくり、と動いた。



「・・・、・・・けて・・・」
微かに、聞こえた。



「・・・助けて・・・兄さんを、助けて・・・!
 力を、貸して下さいっ!
泣きながらも、ミゥシーに聞こえるほどの声で助けを求めた。
「当ったり前よ! お兄がいなくっても、私だって何とかしてみせるわっ!」
ミゥシーは右手にボウガンを装備して準備を整える。
そして、空いている左手をパレットに差し伸べた。
「ほらっ、行くよ!」
「・・・っ、はいっ・・・!」






パレッタを連れ去ったシギリヤ海賊団達は、すでに自分達の船へと戻っていた。
今はどうやら、残りの仲間達が帰って来るのを待っているらしい。
「ラブダ船長、結局収穫はあんま無かったですねぇ」
「・・・五月蝿い子供なら、捕獲したがな」
あの後パレットは手をロープで縛られ、ガムテープで口も塞がれ、倉庫の隅へと追いやられた。
完全に誘拐された子供も同然である。
「あいつの持ってた刀、何か変な形してたから使いづらそうだったんスよ。
 ありゃぁ使い物になりゃしませんぜ」
せっかく報酬があったと思ったのにあーあ、と愚痴をこぼした下っ端の海賊。

「そりゃぁお前の腕次第で使えるんじゃないかな?」
次に聞こえた声は、シギリヤ海賊団の船長であるラブダの声では無かった。
「!? 誰だてめぇはっ!」
「オレらに一体何の用だ!?」
船の入り口に立っていた声の主に、全員が臨戦態勢を取る。

「どーもー、ルーキー海賊なんで挨拶に来ましたっ」






「もう、お兄は一体どこに行ったのよ!?」
ミゥシーとパレットは必死になって、町の中の店と言う店を見回りながらシャニアを探していた。
「コロネを買い終えたのなら、あと行く所ってどこか心当たりは・・・?」
「ひょっとして先に船に戻っちゃったのかしら・・・?!」

船?
パレットが少しその単語に引っ掛かった。
「あ、あの、ひょっとしてあなた達・・・」
「ん? あぁえっと、お兄の趣味・・・というか夢を叶えたって事でやってるだけだけど、
 一応私達、3日前に海賊になりたてなのっ!」
「海賊!? しかも3日前!!?」
驚く事が2つもあって、パレットは思わず叫んでしまった。
そういえば先程のシャニアとの会話では、一度も彼らは『自分達も海賊である』事を言っていなかった。
「パレット君のお兄さん、パレッタ君、だっけ!?
 そのパレッタ君を連れて行った海賊達、私達の船の止めてる所と同じ方向だってお兄言ってたから・・・!」
そうこう話しているうちに、船の泊めている港に着いた2人。
シャニアの船からそう遠くない、目に見える距離にもう1つ海賊船が。
「あの船ね・・・?」
「・・・けど・・・静かですよ?」
先に自分達の船の中を一通り調べてみたが、シャニアはどこにもいなかった。
と、いうことは。

「お、お兄・・・まさかとは思うけど・・・」
「あんなこと言ってましたが・・・、ひょっと、して・・・」






「・・・てめぇ・・・一体、なにもんだ・・・!?」
「ん? コロネ大好物な普通のルーキー海賊だけど?」
ミゥシーとパレットがシギリヤ海賊団の船の中を見て、まず始めに見た光景。
海賊の下っ端達はどうやら全員気絶させられており、船長のラブダは息を切らしていた。
それに対抗しているシャニアは、平気な様子で口にコロネを頬張ったまま戦っている。
「むー、やっぱ食べながら激しい動きをするのは行儀悪いな。
 それに横っ腹も痛くなるだろうし」
「ふ、ふざ・・・けん、な・・・!!」
全くもって余裕なそぶりを見せるシャニアに、ラブダは一矢報いて突進した。
「てなわけで・・・ごちそーさまっ」
頬張ってたコロネを全部飲み込むとほぼ同時。
突進をするりと最小限の横移動で避け、曲刀の斬れない方を思い切り振りかぶり、
ラブダの後頭部を強打した。
もちろんその攻撃をモロに喰らったラブダも、下っ端達と同じく気絶してしまった。

「いっちょあがりっと、おやつも食べたしいい運動もしたしねっ」
「お、お兄・・・」
およっ、とシャニアは後ろを振り返る。
そこには、さっきのように2人が呆然と立ち尽くしていた。
「なーんだ、いるんなら声かけてくれてもよかったのにさぁ・・・」
「い、いや、今来たばかり・・・で・・・、あ、あの・・・」
パレットが呆然とした状態のままシャニアに話しかける。
「ん? あー、お近づきの印にコロネ持っていって挨拶しに来ただけなのにさぁ、
 それを無視して襲いかかって来たから、ちょっと懲らしめた」
どう考えても倒れている下っ端の数は40以上。
その数を、シャニアはどこにでもある曲刀で、単独で全員を倒したのだ。
「あ、そうだ・・・あいつらの海賊船なら君のお兄さんがいるはずだよね。
 それじゃ、探すとしましょーかっと」
このおとぼけぶり、もはや何も言うまい。
結局2人の心配は杞憂であった。






「兄さん!」
「パレットッ!」
拘束を解いてもらったパレッタは、パレットと再開出来た。
シャニアは一件落着といった表情で2人の顔を見て、再び背を向ける。
「あ、あの・・・!」
「ん??」
今度は、パレッタがシャニアを引き止めた。
「あの、助けてくれて・・・ありがとうッス。
 ・・・その、あの・・・」
「兄さん・・・はっきり言おうよっ」
ミゥシーに教えてもらった、『はっきりと言う事』。
パレットはすでに、言いたい事が決まっていたようだ。



「オレ達も、仲間にして欲しいッス!」
「がっ、頑張りますから!」

シャニアはどうやら、この事は予想外だったようだ。
その証拠に、驚いた顔を見せている。
しかし、驚いた顔からすぐにまた普段のおとぼけ顔へと戻り、
「海賊ってけっこう、大変だよ?」
「それでも、ついていきたいッス!!」
パレッタの熱意をもう一度聞いたシャニアは、



満面の顔でウィンクをした。
「・・・よしっ、それじゃあよろしく頼むよっ!
 パレッタ! パレット!
「はい!!」






パレッタとパレットが、ジュエリオ海賊団へと入団した。




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