「・・・・・・」
先ほどから喫茶店で楽しそうに話を続けているウォールとシャニア。
しかしメーザにとっては特に興味の無い話であったため、
喫茶店から出ようとしていた。

「あれっ、メーザ? 戻るのか?」
「・・・すまないな・・・どうも私には・・・な」
「・・・じゃあ、プリス達見つけたら『喫茶店にいる』って伝言してくれねーかな?」
「・・・わかった」
何だかメーザは疲れていそうな感じがしていたのだが、
その原因がウォールのカリスマブレイクだったと、ウォール自身が気付く訳は無いだろう。






「・・・今帰った」
宿へと帰ってきたメーザに、パラドがお帰りを言う。
「あれ、ウォールは? 一緒に行ったはずだろ?」
「ああ・・・喫茶店で何だか、ファンの元海賊船長と楽しく話をしてる。
 ・・・私には特に興味の無い事だから、パラド、行ってくるか?」

行ってくるか?
の一言にパラドが目を輝かせる。
留守番係になって退屈にしていたから、外に出れる事が非常に嬉しくて仕方なかったのだろう。
ぃやったあっ!! サンキュー、メーザ!
 あ、その喫茶店の場所ってのは?」
メーザから喫茶店の場所を教えてもらい、すぐに部屋を出る。
「うわっ!?」
「おっと、プリスかっ」
危なくぶつかりそうになったプリスに、パラドはさっき教えてもらった喫茶店の事を話す。
情報収集の事は後回しにして、同じくプリスも向かうことになった。



亜狼雲がゼルフィと、ゼネルがチロッコと話し終え、2人もまた合流していた。
その後にゼネル達とプリス達も合流し、4人が揃った。
「メーザが言うには、『いつものウォールじゃない』んだとか」
「あのウォールにまさかファンがいるとはな〜っ」
「あ、喫茶店ってここの事じゃないかな?」
プリス達が見つけた喫茶店は、間違いなくウォールとメーザの入ったところであった。






「そういえば君達、旅をしているんだっけ? 2人だけで?」
「あ、2人だけじゃないですよ。
 他にもあと4人ほどいて・・・そのうちの1人の・・・まあ旅に同行しているんです」
ウォールはプリスの旅の理由をシャニアには話さなかった。
H・Pの事は、自分が他人に話すような事ではないと思ったからである。
話すのならプリスが話すだろう。



カランコロンッ



喫茶店のドアが開いた音だ、ということは、
「あ、いたいたっ、ウォールッ」
「おっ、プリス達全員いるなっ。
 ・・・って、パラドもいるのか」
「なんだよ、オレはここに来ちゃダメなのか・・・?
 ちゃんとメーザと留守番は交代してきたんだから、文句は言えないぜ?」
順番にプリス、パラド、ゼネルと入ってくる。
「へぇ、この子達が一緒に旅している仲間なんだね?」
楽しそうな顔で、シャニアが入って来るプリス達を見ている。



そのはずだったのだが。
「おお〜、ここが喫茶店なりっ? 綺麗な所なりね〜っ」






「っ、ミゥシー!!?」
「!!??」





・・・・・・。
突然叫んだシャニアに、そばにいたウォール、入ってきたプリス達、
喫茶店にいた何人かの客も、喫茶店のマスターも驚いていた。

「・・・あ・・・・・・」
シャニアはすぐに、アハハと軽く笑って誤摩化す。
そのため、他の客達は何事も無かったかのようにテーブルへと顔を戻したが、
ほんの一瞬であったが、ウォールは見た。
シャニアの、彼のいつものおとぼけ顔では無く、何か思い詰めたような、必死な顔を。



「え、えーっと? オイラが何か・・・?」
シャニアが叫んだのはちょうど亜狼雲が入ってきた時だったため、
恐らくは亜狼雲に何か関係があるのではないかと思った。
「あ、ははっ、ごめん、君がオレの妹に似てたもんだからさっ。
 緑系統の色の体に、矢を武器にしているのと、あとその垂れている・・・耳かな? がねっ」
「妹さん・・・シャニアさんがさっき言った、ミゥシーさんでしたっけ?
 子供の頃読んだ新聞で、顔は見た事ありましたけど・・・」
ウォールはとにかく、ジュエリオ海賊団の事に詳しかった。
シャニアを含めて船員は9人であった事、その彼には妹がいた事、
彼の好物故に付いた二つ名は、『コロネのシャニア』である事。

「ところで・・・何でそんなに驚いたんですか?」
プリスが気になっていた質問をシャニアに言う。
「え? あ、そのさ、妹は喫茶店には来ないものだからさっ、
 ここに来るなんてどうしたんだろう? って思っちゃった訳で」
シャニアの訳を聞いてとりあえず一同は全員納得したようだ。



先程の事などすっかり忘れ、色んな事を楽しく話していたRPGとシャニアとマスター。
話の間に、ゼネルはトラスフォルムになってチロッコを助けた事を、
亜狼雲は海岸に打ち上げられていたゼルフィを助けた事を、
プリスは落ちてきた水色のカービィを助けた事を、それぞれ話した。
「ゼネルもトラスフォルムが出来たって事は・・・やっぱりみんなも出来るのかも」
「トラスフォルム? 聞いた事はあるけど、オレは一回もなったことないなぁ」
シャニアはどうやら、トラスフォルムが発動した経験は一度も無いようだ。
「それよりもチロッコ君とゼルフィ君を助けてくれたんだね。
 オレ、その子達とは結構前から友達なんだっ」
「結構前から友達・・・ってことは、長くこのハバードにいるってことですか?」
海賊業をやっているシャニアには、恐らく陸の上の友はそうそういないはず。
確かに物資補給などで寄り道をする事もあるかもしれないが、
それでも転々と目的地を変える海の旅の中で、そんなに長い間陸の上にいるものだろうか?
「・・・それは、・・・まぁねっ、オレ、ハバードの都が結構お気に入りだから、
 もう少しここにいたいなーって、ね」

「・・・・・・」
ゼネルがシャニアの事を黙って見ていた。
さっきから、彼の挙動が少し怪しかったからである。

「・・・あ、ごめんねっ、オレ用事を思い出したよ。
 今日のところは悪いけど、また会えたら話をしてあげるよっ」
シャニアがカウンターから席を離れようと立ち上がる。
「マスター・・・あの子達の分も、先に払っておくよ」
注文でカウンターから離れていたマスターに代金を払い、シャニアが喫茶店を出た。
「? ゼネル?」
「シャニアさんの『用事』って言葉でオレも思い出した。
 宿に忘れ物して取りに戻ろうとする前にプリス達と合流したからさ、取りに戻る」
シャニアに続き、ゼネルも席を外して喫茶店を出て行った。






「ゼルフィ君」
「っひゃ、シャニアさん? ・・・またあの島へ行くのっひゃ?」
喫茶店を出たシャニアは、いつもゼルフィが泳いでる海岸へと行っていた。
ただでさえよく打ち上げられるというのに、ゼルフィは砂浜の浅瀬でよく泳いでいるのだ。
「あぁ・・・あの子達と会って、思い出しちゃったから・・・さ」
「そういえばシャニアさんの妹さんに似てる子がいたっひゃね〜」
「亜狼雲ちゃん・・・だったっけ、君を助けたそうだね」
「いやぁ、あの子はとっても優しい子だったっひゃっ。
 妹さんも、やっぱりあんな感じだったのかなっひゃ?」



あんな感じ『だった』
何故、過去形なのか。
2人の会話を陰からこっそりと盗み聞いていたゼネルは、
さっきから予想していた事が的中したのでは? と思っていた。

「うん・・・まるであの子は、ミゥシーの生まれ変わりなんじゃないかなぁ、
 とか思っていたけど、それじゃ年齢がつりあわないからね。
 けれど、あの子が優しい事には変わりない、そうだろう? ゼネル君・・・だっけか?」
「っ、あんた・・・気付いてたんだな」
ゼネルはさっきまでとは違い、結構馴れ馴れしくシャニアに話しかける。
「オレ達の会話を全部聞いてたのなら、君も予想はついているんじゃないかな?
 ・・・これから行くとこに、ついてくる?」
「・・・ふぅん、ま、行ってみようじゃん」
ゼネルは、シャニアについて行く事にした。
ゼルフィの触手に捕まる事で海中でも呼吸が出来るようになった2人は、
ゼルフィに連れられて、とある離れ島へと泳いでいた。



その島はハバードのビル群が少し見える程度の距離であり、森林の生い茂る無人島であった。
「無人島じゃないか・・・こんな所に何かあるのか?」
「ついてくればわかるよ、もうすぐさっ」
海岸で泳いで待っているゼルフィと離れ、ゼネルとシャニアは外周の砂浜を歩く。
しばらく歩いていると、ちょうど森林地帯の入り口のような分れ目があった。
「ここが、ジュエリオ海賊団の・・・最後の場所」
そこにあったのは、8つの大きな細長い石であった。
これは、どこからどう見ても間違いなく・・・

「・・・墓・・・だよな」
こくん、とシャニアがうなずく。
8つの石にはそれぞれ1つずつ、
『パレッタ』『パレット』『ミラスカ』『ゲンム』『コクウ』『パシェイド』『セセラギ』
そして、『ミゥシー』と書かれてあった。
「・・・このうち、パレットとコクウとパシェイドには、中身が埋められてない。
 ・・・埋めようにも、見当たらないからね・・・」
「・・・行方不明なだけで、生きているって事は?」
「それはないよ・・・、海に沈む前に彼らは死んだ・・・・・・
 ・・・打ち上げられていた仲間達も・・・・・・」
ゼネルはとうとう、疑問に思っていた事を口にした。



「海賊団、何で壊滅しちまったんだ?」
質問の後しばらく、シャニアは黙っていた。
次にその口を開いた時、やはり先程と同じく、おとぼけ顔ではなくなっていた。



「簡単に要約すると・・・オレとミゥシーは親を亡くした。
 遺産はそこそこあったけど、そのままじゃ生きていくのも難しかったんだ。

 だから海賊になって、まず最初に出会った、パレッタとパレットの兄弟を仲間にした。
 その後次々と、海ガラスのミラスカ、機械工作士のゲンムにサイボーグのコクウ、
 ポセイドンの子のパシェイドと会っていった。

 最後に仲間になったセセラギは、もともと赤暁月の村にいた子供だったらしいんだけど、
 人身売買によって遠い島へと売られていたんだ。
 たまたま彼女は、密航する船を間違えてオレ達の海賊船に乗ってしまった訳だけど・・・、

 そこで、オレ達はセセラギを赤暁月の村へと送る為に、ちょうど位置的に星の反対側にあった
 海上都市、つまりハバードへと向かおうとしていたんだ。
 ・・・つい最近知ったけどね、赤暁月の村が何かの集団に壊された事は・・・」



本来、長い話を黙って聞くのは苦手なゼネルであったが、
シャニアが今話しているのはもともと自分自身が質問したからであるため、
責任を持って最後まで聞く事にしたのだ。

「・・・セセラギと出会ったのが10年前・・・、
 ・・・これが、オレ達が最後に撮った集合写真だよっ」
渡されたその写真は、昔であるという証拠であるセピア色に色褪せていた。
その中に1人、シャニアの隣でウィンクをしている、
シャチのようなヒレが垂れてる帽子を被っていたカービィがいた。
「・・・この子が、あんたの妹・・・ミゥシーか」
「・・・自慢の妹で・・・・・・両親を亡くした時も、
 泣きそうな顔をしてたのに、『お兄、元気出して』って、励ましてくれた。
 ・・・心の、支えだったさ」
シャニアは思い出す。
今までの事を、壊滅してしまったあの日の事も、集合写真を撮った時も、
セセラギのためにハバードへ向かう事になった日の事も、
数々の船員を仲間にしてきた日の事も、時々戦って、時々色んな事を話し合って、
ミゥシーと共に海賊業を始めた日の事も。






「アニキッ、次の場所はどんなとこッスかねっ?」
パレッタ、
「次の場所・・・か」

「船長〜、今日の晩ご飯決まりましたよー!」
パレット、
「君の作る飯はとっても・・・うまかったな」

「シャニアって好きな奴いるんだって? うらやましいね〜」
ミラスカ、
「お前とはよく、バカやってたっけなぁ・・・」

「シャニアー! ジュエリオ海賊団ってもしかして無敵なんじゃね!?」
ゲンム、
「ジュエリオ海賊団は、簡単にくたばったりしないさっ・・・そうさ・・・」

「センチョウ、フネノ、シュウリ、シュウリョウ」
コクウ、
「サイボーグであれアンドロイドであれ、君もクルーの1人だよ・・・」

「何が嬉しくててめぇについて行かなきゃいけねーのか・・・」
パシェイド、
「そう言って、本当は内心嬉しかったくせに・・・・・・」

「シャニアさんっ、あの・・・私、がんばります!」
セセラギ、
「絶対に送り帰すって・・・・・・約束・・・したのに・・・」



「お兄、今日も一日頑張ろう! ねっ!」
ミゥシー、
「・・・頑張っているさ・・・・・・今日も・・・・・・」

全てを振り返ったシャニアは、ゼネルとともにハバードへと帰る事にした。



帰った時にはすでに夕方になっており、喫茶店にいたプリス達は既に出ていって宿へと戻っていた。
「忘れ物で取りに戻っていったんじゃないのっ!?」
「ったくー、心配したんだぞ? 本当はどこ行ってたんだっ」
もちろん宿に戻ってきたゼネルは、全員から怒られていた。
そしてさっきまでの事を一切話さずに、ただ単に「町中を色々うろついてただけ」と誤摩化した。
恐らく、シャニアの最愛のファンでもあるウォールだって、海賊団が壊滅している事は知らないだろう。
その事を話すわけにはいかず、シャニアの過去を知るものは、RPGの中ではゼネルだけとなった。



シャニアは、今はハバードの目立たない場所に建てられたマンションに住んでいた。
眠りについた夢の中でシャニアは昔の事を思い出していたが、
それはまた別の話。







〜APPEAR WORD IN NEXT STORY〜
「今日も駅員さん、暴走しているね・・・」
「おかしいな・・・この空欄に、誰がいたのか思い出せないなんて・・・」
「桜の木、キノコの森、妖精の住処は、ユグドラシルの管理下にあるとの噂??」
「そうか・・・ハバードにいるのか・・・」



〜TO BE CONTINUE......〜




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