ルツボが失敗作を作ってしまい、暴走し始めてから1時間後。
亜狼雲の読み通り、すでにルツボは自己不満の暴走をストップしていた。

「いやあすまないねぇ、私も結構注意はしているんだが・・・」
「もー、父ちゃんはオーバーすぎるなりよっ、もっとこうリラックスしないと」
ルツボが亜狼雲の言葉を聞いて申し訳無さそうな顔をしている。
結構この親子はバランスが釣り合っているようだ。

「そうそうところで・・・君達は何の為に旅をしているのかな」
話を戻してルツボが質問をして来た。
RPGのリーダーとしてプリスが、これまでの旅の経緯を答えることになった。


H・Pに自分の住んでいた村を壊された事、
パラドやゼネルを仲間にした事、
赤暁月の村に立ち寄った事、
そして、大切な1人の姉を取り戻す為に旅をしている事。


「・・・ボクは、どうしてもH・Pが許せない。
 お姉ちゃんにどうしても、会いたい。
 ・・・だから、仲間を集めて立ち向かおうとしているんです」
ルツボと亜狼雲は、真剣になってプリスの話を聞いていた。
「『H・P』・・・数年前に赤暁月の村を崩壊したとかいう元凶は、その者達だったのか」
「確かに許せないなりね・・・。
 オイラよりも小さい子が、何でこんな苦しい目にあわなきゃならないなり・・・」
そして、ウォール達も続けて口を開く。
「このままでは明らかに戦力不足で、H・Pに立ち向かえるわけも無い。
 ・・・オレ達、少しでもプリスの力になりたくて、共に旅をしているんです」
ルツボがその言葉を聞いた時、何かを理解したらしい。
顔を少し下に向けて、『むぅ・・・』と考え始めた。
「・・・そこで・・・『弓の扱いの上手い亜狼雲を仲間にしたい』・・・ということかな?」
「っっ」
ここが一番の問題だ。
今日いきなりこの家に来て「そうですか、では同行させてもいいでしょう」
などといった返答が来るわけが無い。
ルツボが親である以上、一人娘の亜狼雲をそんな簡単に旅に出させるわけも無い。
5人は5人とも全員そう考えていたのだ。


「・・・少し亜狼雲と話がしたいな・・・」
「・・・え?」
予想していた答えとはまた違い、そして意味ありげな一言が。
亜狼雲と話が? どういうことなのだろうか?
「な、何なりか父ちゃんっ。
 ・・・いつもの・・・あの話なりか・・・?」
「・・・確かにそうだ・・・重要な話だから、聞いてほしい。
 亜狼雲・・・お前は将来、『商人』になるのか『弓使い』になるのか・・・
 ・・・考えは、『弓使い』から変わらないのか・・・?」

「・・・・・・・・・」
今の今まで、RPGがこの家に来るまではずっと『弓使いになる』と即答していたのだろう。
だが今目の前にいる亜狼雲は、困惑した表情のままだんまりとしていた。

「弓使いになりたいのは分かるが・・・むぅ・・・
 ・・・狩りの人生と働く人生・・・・・・、狩りをして生きて行くのは、
 難しい事なのだよ・・・・・・?」

「・・・『商人』・・・稼業を継いで行くのも確かに考えていたなり。
 父ちゃんが働いているおかげで、オイラもちゃんと生きている。
 ・・・恩は返したいなり」
今度はRPGが、ルツボと亜狼雲の2人の事情を黙って聞いていた。
忘れていたけど、弓使いである亜狼雲の父親は確かに商人として生きている。
ルツボはきっと、『娘が商人として継いで生きていく』、その答えを聞きたいのだろう。


「・・・父ちゃんの気持ちもよくわかるなり、けど、オイラは・・・
 ・・・オイラは・・・どうしても弓使いで生きたいなり!
 自分の人生なり・・・だから、自分が弓使いである事を誇りに思いながら、
 生きていきたいなりっ!

・・・RPGが来たこの日も、亜狼雲の導き出した答えは.........『弓使いになる』

「・・・そうか・・・・・・」
ルツボはその言葉を聞き、その場を立ち去ろうとする。
「と、父ちゃん?」
部屋から出ようとした所で立ち止まり、こう一言。
「・・・その意気は本物だという事だ・・・・・・
 なんというか・・・少し、安心したかな・・・・・・
 ・・・安心したら眠気が出て来たから、私はもう寝るとしよう」

「あ・・・あの・・・・・・?」
プリスは少し戸惑ってルツボに問いかけた。
が、メーザはすでに察していたらしく、プリスの発言を止めた。




「・・・娘を・・・よろしく頼んだよ・・・」
小声が、聞こえた。







「今日はもう遅いなりから、みんなオイラの部屋で寝るなりっ!
 ・・・ふとん、1つしかないけど」
亜狼雲が空笑いをした後、真っ先にゼネルとパラドが寝場所を確保する。
その後すぐにウォール、プリス、メーザの順にふとんへと入った。
「なんとか全員分入ったねー」
「・・・こうして寝るのも・・・悪くはないな・・・」
「枕投げ出来ないのは残念だけどなぁ」

「・・・・・・」
すっかり合宿気分になってる6人の中で、ウォールだけがほんのわずか難しい顔をしていた。
「? どーしたのさウォールッ」
「・・・そーいやオレ達ってさ、いつから目標とか決めてた?」
「・・・・・・はい?」
いきなりの現実的すぎる質問にパラドが間の抜けた相づちをうつ。
「ちょっと思っただけ。
 ・・・師匠・・・元気にしてるかな・・・」
「えっ」
プリスとメーザが少し驚く。
「えっ、て何だよ・・・オレに師匠がいなかったらきっと剣術使えてないっての」
「だ、だって師匠がいただなんて知らなかったんだもん」
それもそのはず、ウォールに師匠がいた事なんて今まで聞いた事が無かったからだ。
メーザの師匠の話はプリスもウォールも知っていたが。
「・・・そういえば私も・・・モリメーラ殿はどうしているか・・・。
 ・・・魔法の事を教えてもらった・・・ディアリーと・・・一緒に・・・・・・」
「・・・ディアリーか・・・あいつとお前の因縁の関係とやら、わかんねーけど・・・・・・」
ウォールとメーザがいち早く寝始めた。
「オレは特になー・・・・・・・・・ぐー・・・」
「考えた事も無いな・・・もともと格闘術・・・好きだったし・・・・・・ぐぅ・・・・・・」
ゼネルはもともとスイレンと別れてから自由生活だった為、特に考える事もなかった。
パラドの場合は格闘道場も全て親から継いだものであった為、亜狼雲と真逆と言っていいだろう。
プリスが回復や防御の魔法を覚えたのは、戦いの苦手な自分がせめてサポートに回れるよう、
自らすすんでメーザに教わった賜物である。

「・・・聖職者(プリースト)・・・・・・ボクの名前を付けてくれたお父さんは、
 僧侶のように優しい子に育ってほしいって言ってたんだっけ・・・・・・
 ・・・お父さん・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・・・・」
H・Pに襲撃されたあの日を思い出して、プリスは涙が出そうになったのだが、
『姉に会うまでは決して泣き言は言わない』、プリスは自分にそう言い聞かせていた。
泣く事よりも、今は眠りにつこう。
プリスはそう考えて、強く目を瞑った。



亜狼雲以外の5人が寝息を立ててる中、暗闇の中で亜狼雲は、
さっきルツボと話し合ってたあの場面を頭の中でもう一度再生していた。
「・・・父ちゃん・・・・・・」
そう言った直後に睡魔が走り、亜狼雲もまた眠りについた。






「とうちゃーんっ! ただいまーっ」
「おお、お帰り亜狼雲。
 また今度は何を見つけて来たんだ?」

「へへへーっ、四葉のクローバー見つけたなりっ!」
「これはまた珍しい物を見つけたんだなぁ・・・
 ・・・きっと、母ちゃんも喜ぶと思うよ・・・」

「・・・かあちゃん・・・そうなりねっ!
『かぜうぃるす』なんて、かあちゃんの前じゃチョチョイのパーなりね!
 それにこのクローバーは幸運の象徴なり!」
「亜狼雲は物知りだなぁ、四葉のクローバーが幸運をもたらすとか」
「かあちゃん、このクローバーの幸運で、早く風邪が治るといいよねっ」
「はっはっ、何せ私の妻なんだからな。
 絶対負ける事はないさ・・・・・・絶対に・・・」







「・・・・・・あんな事もあったんだよなぁ・・・」
ルツボはまだ寝ていなかった。
自分の部屋にあった仏壇の前で昔の事を思い出していたのだ。


亜狼雲の母親、いわゆるルツボの妻はその昔、症状の重い風邪のウィルスによって倒れ伏せていた。
絶対に治る。
そう信じていた2人の思いも空しく、彼女は呼吸困難によるショックでこの世を去ってしまったのだ。
その後の家計は、ルツボがその時からすでに趣味で製作していた陶芸品を売る事で暮らしていた。
ルツボが陶芸を始めたのも、幼い頃から見て来た壷や皿の美術に目を奪われた事で始めた事であった。


「・・・亜狼雲・・・あの時はよっぽど辛かったかもしれないのに・・・
 変に意地っ張りだから、泣く事を無理に堪えてたなぁ・・・」

ルツボが陶芸を稼業として始めると共に、亜狼雲はすぐに弓矢の知識を覚えた。
世の中には『ハンター』と言った仕事もある事を、本で読んで学んだ為である。
少しでもルツボの役に立ちたくてという、彼女なりの精一杯の努力だったのだ。
「・・・それがいつの間にか、もう一流とも言える弓さばきを持っていたんだな。
 ・・・・・・ならば・・・私が引き止める理由は、無いか。
 そうだろう? お前・・・・・・」

フッ という溜息を出したルツボはその後、布団の中へと潜った。








「起きるなりぃーっ!!」
「起ぉーきろぉー!!」

「ひゃああっっ!!?」
「うぉお!?」
既に起きてたウォールとメーザと亜狼雲が、まだ寝ていたプリスとパラドとゼネルを布団ごとひっくり返す。
「珍しいなー、パラドとゼネルはともかくプリスまで寝坊助になってたとは」
「ともかくってなんだ、ともかくって!!」
「う、あ、えーと、ちょ、ちょっと二度寝したからだよ!」
実際には、夢の中でも昔の事を真剣に考えていたからであるが。
ちなみにパラドとゼネルについては正真正銘の寝坊助である。


「うむ、みんなおはよう・・・もう出発するんだね?」
「ハイッ、お世話になりましたっ」
ルツボとRPGは別れの挨拶を済ませて旅立とうとした。
「亜狼雲、これを」
呼びかけに足を止めた亜狼雲に対して、ルツボは何かを投げる。
受け取った亜狼雲が見た物は、壷でも皿でもない、陶器で出来ていない、
一羽の赤い鳥を連想させるような形の弓であった。
「・・・誕生日に渡そうと思っていたが・・・これを渡そうか、私はずっと悩んでいた。
 だが、長い旅をするというのなら・・・立派な弓を持たなくてはなっ」

「父ちゃん・・・、ありがとうなり!」




「いいのか? 本当に」
「自分で決めた道・・・狩りをする人生に、後悔はしてないなりっ。
 ・・・よろしく頼むなりっ、みんなっ」
「・・・うん! よろしくね、亜狼雲!」
こうしてRPGにまた1人、仲間が増えたのだった。







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「『トラスフォルム』っていつでも使えるのかな?」
「病気は回復呪文じゃ消えない、これは常識でしょっ」
「そうそう、何かネコの耳と尻尾を付けた子について行ったのよ、1人だけ」
「見えて来たぜっ、あの大きなビル群・・・間違いない!」


〜TO BE CONTINUE......〜




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