「さて・・・マフィトゥの村から結構歩いたけど・・・」
「ようやくこの広い平原も終わりだねっ!」
四方を山に囲まれ、その中には木が所々ポツンと生えている大きな平原を、
RPGの一行はようやく反対側の一番端へと到着した。

「で・・・赤暁月の村へは、
 この山のトンネルを抜けなきゃいけないのか」
「トンネルを出てすぐの所に、村があるらしいぜっ」

ちなみにメンバーが5人になった一行は、
前を歩く戦闘組3人の少し後ろを、待機組2人がついていくようにしていた。
現在の戦闘組は、プリス・パラド・ゼネル。
待機組は、ウォールとメーザだった。

「とりあえず、このトンネルは何の変哲も無い天然の道のはずだから、
 危なっかしいトラップとかは無いと思うけど・・・・・・」
地図で確かめたところ、トンネル自体はごく普通で
むしろトンネルというよりは亀裂の裂け目の間を抜けるような感じであった。
「中・・・結構広いな〜」
「天井まで高さあるし・・・よくこんな亀裂、
 自然の力だけで出来上がったよねぇ・・・・・・」
内部はそこらの洞窟のように多少は入り組んでおり、行き止まりも多くあった。
当然こんな場所にも、暗い場所を好んで生息する魔物があちこちをうろついてる姿が見られた。


「・・・あれって、宝箱?」
「どう見たかって、あのデザインは宝箱だな」
「・・・・・・天然のトンネルに・・・何故?」
ある行き止まりの奥に、物々しいデザインの箱がポツンと置かれていた。
・・・誰かが作ったのであろうが、一体誰がなのだろうか?
「罠・・・かなぁ?」
「とりあえず、前衛のオレ達で開けて見るしかないだろっ」
未だに疑問に思っているプリスを置いといて、パラドとゼネルは勢いよく箱を開けた。
「お、おいおいっ、不用心だなっ!?」
「大丈夫大丈夫、ガスとか炎とか出なかったし、普通の宝箱だったよ。
 ・・・えーっと、中身は?」

【スイングシャープ】 斬撃攻撃力+7 素早さ+11

「おっ、結構いいもの手に入れたなっ!」
「この装飾品を装備出来るのは・・・ウォールとゼネルぐらいだね」
プリスのその言葉を聞いたとき、ウォールとゼネルが突如にらみ合った。
「ウ、ウォール? ゼネルッ??」
2人の口は笑っているものの、闘気のようなオーラが妙に強く感じられる。
「よぉし・・・ジャンケンで決めるか」
「いやいや、ここは指相撲で決めようぜっ」

どうやら、装飾品をどちらが付けるか決める戦いを提案した2人らしいのだが、


「指・・・あるのか・・・?」
メーザのその一言で断念。
「メ、メーザ・・・・・・それは言わないお約束だよっ」
結局、ウォールが付けていたお下がりの『スイングフォース』をゼネルが装備し、
ウォールが新しく手に入れた『スイングシャープ』を装備することになった。
「装備品の有効な活用方法・・・だと思わないか?」
「へいへい」
ウォールはともかく、ゼネルはかなり気が抜けたような感じで返答した。


1つ目の宝箱を見つけてからも、暴走した魔物を倒していきながら、
行き止まりに突き当たって引き返したり、また別の宝箱を見つけてアイテムを補充したり、
一行は予想以上に広かったトンネル内を、いまだに歩いていた。
「もう丸1日かかってないか?」
「1回ここで野宿しちゃったもんね・・・」
「ま、あらかた行き尽くしたし・・・
 あとはここの道、まだ通ってないからな」

しばらく歩いていると、奥の方にかすかに光が。
まぎれも無く、太陽の光である。
「よっしゃ! 出口発見!!」
「あとはこの長い通路を通るだけだねっ!」
一行はすぐに出口の光へと駆け始めた。


ところが、


バサッ! バサバサバサバサッ!!!

「!? うわぁっ!」
出口まであと半分というところで、突如巨大な蝙蝠の魔物が急降下して来た!
その魔物は、あたかも『通さないぞ』と言わんばかりにRPGの行こうとしている方向を塞ぐ。
「蝙蝠・・・ミッドバットか!?」
「いや・・・・・・この大きさは、
 マフィトゥに行くまでにいた物とは大違いだ・・・」
マフィトゥの村に着くまでに、パラドが戦ったミッドバットとよく似ていたが、
明らかにこの魔物は大きさが3倍ほどあった。
「って事は・・・・・・
 ミ、ミッドバットの親玉!?」

【ナイトグライダー】:足の代わりに生えているロープ状の尻尾が特徴のミッドバットだが、
このナイトグライダーの尻尾は、トライデントのように3つに分かれている。
主に、山の中の洞窟等に生息しており、ミッドバットの成体では無いかと言われている。


「いわゆる所ボス戦かっ、燃えて来たぜ!!」
例の如く、パラドが波動で先制攻撃を仕掛ける。
暗闇の環境に慣れて眩しい光が苦手なナイトグライダーには、
気光波動の光が弱点になっていた。
「光属性に弱いのかっ、これは楽勝・・・かなっ?!」
そう言いながら、ゼネルもソードのコピーでナイトグライダーに攻撃する。
プリスも忘れずに、パラドとゼネルの能力を呪文で上昇させて援護していた。

ナイトグライダーの3つ又の尻尾は、打撃防御力を上昇してようやくマシなダメージだった。
つまり普段の打撃防御力で尻尾の攻撃を喰らってしまえば、致命傷は免れない。
プリスはその辺りをちゃんと注意して、パラドとゼネルにかけた援護呪文が切れれば
すぐにまた呪文をかけるよう心がけた。
「よしっ、状況はオレ達の方が優勢だっ!」
このまま一気にトドメを刺そうと、2人は必殺技を繰り出そうとした。


だが、

ギュイイイイイイイイイイイイッッッ
「「!!!?」」
突如ナイトグライダーの発した奇妙な音が、上昇した打撃防御力を無視して襲いかかった!
「し、しまったっ! 打撃と関係ない攻撃かっっ・・・!!」

パラドとの戦いでも似たような事があったはず。
あの時は、攻撃力を低下されたはずのパラドが、
『打撃攻撃・斬撃攻撃の能力しか通用しない』ところをついて波動を放ち、
ウォールにそのままのダメージを与えた。

今回の場合も同じく、プリスがかけていた『ハーデス』の呪文も
『打撃攻撃・斬撃攻撃の能力しか通用しない』のであった。
発した音は、恐らく『無属性』の攻撃に値する。
この場合は『属性が無い』ということで通常の魔法と同じく、
『マハーデス』の呪文で対応しなければならない。

しかし、今のプリスはマハーデスの呪文を覚えていないため、
ナイトグライダーの音の攻撃を和らげる手段が無い。
その音を真っ向に喰らってしまったパラドとゼネルは、大ダメージを受けたのだ。
今までの道のりでダメージが積み重なっていたため、体がまともに動かないらしい。

「・・・くそっ・・・! ゆ、油断したか・・・!」
「パラドッ、ゼネルッ、オレ達と交代だっ!」
「す・・・すまない、後は頼んだっ」
「・・・まかせろ・・・・・・」
2人は待機していたウォールとメーザに交代し、
ナイトグライダーの攻撃が届かない場所で体を休める事にした。
「音は仕方が無いが、あの尻尾は出来るだけダメージを減らしたいな。
 プリスッ、引き続き援護をっ!」
「わかったっ! 『ハーデス』!!」
何度も同じ呪文を使って来たからだろうか、いつの間にかプリスは
ハーデスの呪文を詠唱時間無しで唱える事が出来るようになっていた。

本来、精神を集中して呪文の成功率を上げるのに不可欠なのが『詠唱』なのだが、
熟練の魔法使いともなれば、同じ呪文を唱える際に精神を集中させる時間も短くなり、
最終的には『詠唱無し』で、ほぼ自由に呪文を使いこなす事が出来るようになる。


「敵は1体・・・だが、光が弱点と言うのであれば・・・
 □◇‖・・・『ショック』!!」
メーザの唱えた光属性魔法『ショック』は、
覚えたてであるため唱えるにはまだ詠唱時間が必要である。
だが、詠唱しているスキに攻撃をされる危険性もあるため、
出来るなら早めに詠唱無しで唱えられるよう、日ごろから練習をしておいた方がいいのだ。

「ショックの呪文が効いてるようだ・・・
 ・・・・尻尾の攻撃が少し外れて来ている・・・」
ちなみにショックの呪文は、衝撃風を引き起こす時の眩しい光によって
敵の目を眩まし命中率を低下させる効果も持っていた。
ナイトグライダーの尻尾は、たまにありもしない方向を攻撃する。

「あの音が来る前に仕留めるぞっ! 『熊蜂巣』!!」
ウォールは、先程の音波攻撃に警戒して出来るだけ素早くナイトグライダーを切り裂いていく。
『熊蜂巣』、『水平斬』、『鉄降下』、
とにかく自分が今仕える剣技を、思う存分繰り出した。

「! ウォール、後ろだッ!」
「!?」
メーザの声に反応し、ウォールは体をとっさに動かす。
ナイトグライダーが尻尾を後ろから突き刺そうとしてきたのだ。
尻尾は、ウォールの体をかすったものの、ギリギリ直撃はしなかった。

「サ、サンキュ・・・、・・・ッ?」
着地のとき、ウォールは頭が揺らぐ感覚がした。
そういえば、尻尾のかすった所が妙に激しく痛む。
・・・それどころではない。
その痛みが少しずつ、自分の体を蝕んでいっているような感覚もしたのだ。
「ぐぁ・・・っ!? かっ・・・体が!?」
「ウォール!?」
プリスがすぐにウォールに駆け寄る。
先程尻尾がかすった箇所をよく見ると、傷口が少し腫れていたのだ。
更に言えば、傷口の周りの皮膚が何やら紫色に変色していた。
「これ・・・は・・・どうやら毒を・・・盛られたようだなっ」
幸いにも毒の量は、猛毒性分を含む物による作用で血を吐くほど酷いものではなく、
体に鈍い痛みが走る程度の物だった。
それでも、この痛みではまともに戦うには難しい。

「ウォールッ、『病消し』を飲んでっ!」
本来、体力を回復する呪文とは別に状態異常を直す呪文もあるのだが、
プリスはまだその呪文を覚えていなかったため、
道具袋から『病消し』を取り出した。
粒状の薬であったので、『薬水』と併用して使う事にする。
「んぐ・・・・・・、少しは楽になったが・・・」
「ウォールッ! あとはボクとメーザで何とかするから・・・!!」


ギュイイイイイイイイイイイイイイッッッ
「「な・・・、・・・この音はっ!」」
戦っている場所から遠くに避難していたため音は少し小さかったが、
プリスとウォールは例のあの音波を確かに聞き取った。
そう、一番近くで音波の衝撃をメーザが喰らってしまったのだ。


「しまった・・・近寄り・・・・・・すぎた・・・か・・・・・・」
普段のメーザなら、音波の攻撃を受けても多少は平気であるはず。
だが、もとから体力が他のメンバーに比べて少なめの彼女は、
他のメンバーと同じくダメージが積み重なった状態で、さらに一番間近で音波を喰らったため
メーザは気を失ってしまった。
気絶状態からすぐに意識を取り戻す事が出来る呪文も存在はするが、
今のレベルではまず覚える事が出来ないくらい難しい。
つまり今は、自然に目覚めるのを待つしか無いのだ。

「メーザ! メーザッ、しっかりっ!!」
「全滅確定ってか・・・・・・? 大ピンチじゃねぇか・・・」
ナイトグライダーの弱点を突ける技や呪文をもっていたのだが、予想以上の強さによって
状況が一気に最悪と化した。
ウォール、パラド、ゼネルの体力はすでに無いに等しく、メーザは戦闘不能。
つまり今、まともに動けるのは、プリスだけである。


勝機を確信したのか、ナイトグライダーがじわりじわりとプリスに近寄ってくる。
「プリス、ダメだ! ここは一旦退くぞっ!」
「・・・イヤだ・・・っ!!」
「な・・・!?」
プリスの口から発せられた意外な言葉に、ウォール達は目を丸くさせた。
「バッ、バカヤロウッ! 早く逃げないとお前も・・・!!」
「1人だけでどうやって戦うんだよ!?」
パラドもゼネルも、戦いが好きである2人でさえすでに戦意を失っていた。
だがプリスは、2人の声を聞いてもなお、ナイトグライダーの前に立っていたのだ。

「H・Pを倒しにいくのに・・・こんな所で全滅なんか・・・!!」
「プ・・・プリス・・・?」
プリスの周りを、普通とは全く違う空気が渦巻く。
その空気に触れたのか、ゼネルが一瞬体をゾクッとさせた。
「? どうしたんだよ、ゼネ・・・・・・」
「何なんだよ・・・こ、この感じ・・・・・・
 ・・・覚えている・・・・・・確か、オレが魂の状態でいた時だ・・・」
「魂? ・・・何だよ、それ・・・」
「お前達には話してなかったな・・・諸事情で、オレが一度死んだとき・・・
 魂の姿でいたオレが、今のあのプリスと同じ感覚を受けたんだ・・・・・・
 ・・・スイレンの・・・あの姿、あの感情、あの・・・・・・」
そう。
ゼネルを助けようとして、怒りのオーラを具現化させた、


一部のカービィ族にのみ使える、特殊能力。


「全滅なんかして、たまるもんかぁっっ!!!」
その叫び声を発した瞬間、プリスの周りを渦巻いていた空気が眩しい光を放つ。
その眩しさでナイトグライダーが翼で眩しさを防ぎ、
ウォール達もまた、自分の手で目を覆い隠した。
「す、すげぇ光だっっ、オレの波動よりも・・・!!」
「何が起こったんだよ!? おい、ゼネルッ!」
「・・・・・・!」
ゼネルは一体どんな事を思っていたのだろうか。
口を少し開けたまま、言葉を何も喋れずにいた。


その眩しい光が消えたとき、プリスは、

手にしていた杖も、被っていた帽子も、足の模様も、すべて様子が変わっていた。
「プリス・・・その姿は!!?」
「・・・こ・・・れは・・・?」
プリス自体も、自分の姿が変化した事に驚いていたようで、自分の今の姿を見ていた。
全く分からないウォールとパラドをよそに、ゼネルがようやく口を開いた。

「『トラスフォルム』・・・・・・」
「ト、トラスフォルム・・・?!!」
「もともと、普通の種族として弱い部類にいた『カービィ族』。
 ・・・だが、一部のカービィ族は他の同種を守るため、
 感情や気持ちを具現化して姿を変え、一時的に能力を劇的に高める特殊な能力を持っていた・・・。
 それが『トラスフォルム』、つまり『真の形態』って意味だ。
 ・・・・・・スイレンも使っていたが、まさか・・・プリスも使えるとは・・・」

ナイトグライダーが眩しさにようやく慣れたのか、
姿の変わったプリスに多少戸惑いながらも突進をする。
「うわっ・・・」
突進に驚いてたプリスだが、自分でも想定していなかったほど今まで以上の俊敏さで、
尻尾の攻撃さえもことごとく避けていく。
中々当たらないため、ナイトグライダーがついに得意の音波を発してきた!

「しまった! プリスッ!」


・・・プリスは確かに、音波をまともに喰らったはず。
だが、あたかも喰らっていないかの如く、
ナイトグライダーにそのまま杖を振りかぶって攻撃した。

プリスの杖がナイトグライダーにヒットし、ナイトグライダーは後ろの壁へと叩き付けられる。
パラドの打撃攻撃力と、ほぼ同等とも言える。
「す、すげ・・・まさに劇的・・・だな」
プリスとナイトグライダーの激しい攻防戦を、ウォール達はただ漠然として見ていた。
ナイトグライダーは体力が無くなりかけてきたのか、高度がついに床スレスレになっていた。
だが、それでもまだしつこく突進して襲いかかってくる。

突進して来たナイトグライダーに対して、プリスは持っていた杖を目の前の床に突き刺す。
『陽光は天を被さる全てを貫き、一つの柱が大地に叩き付けられる・・・』
よく見ると、プリスがいつもの雰囲気と違っていた。
プリスの体の周りを、光が薄い膜のように覆っていたのだ。


『必殺!! ピラーソル・クリアアァァッッ!!!』
プリスの必殺技・『ピラーソルクリア』が、ナイトグライダーの丁度真上から放射された!
放射された光の柱がナイトグライダーに直撃し、その高温によって体がどんどん焼き尽くされていく。
その光は天井を破壊してはいず、外から貫通しているようであった。
つまり直接ではないとはいえ、その光は正真正銘本物の太陽光かと思われる。

光が消えたとき、ナイトグライダーの姿もまた跡形も無く消えていた。
「・・・た、倒したのか・・・アイツ・・・1人で」
「・・・・・・だな」
プリスの体から光の粒が舞い上がり、元の杖と帽子に戻っていた。
その次の瞬間、プリスは体をそのままの状態で横に倒れる。

「?! お、おい、プリス!?」
いきなり倒れたプリスに、気絶しているメーザをパラドが抱えながら3人は駆け寄る。
「ふぅ・・・・・・結構これ、体に響くね・・・・・・」
どうやら、トラス・フォルムで一時的に能力を上げた反動が来たらしく、体力をほとんど使い果たしたのだ。
本人が言うには、疲れた以外に特に別状等はないようである。
「ビ、ビックリさせるなよ・・・全く」
「まぁ何にしても・・・これで先に進めるなっ」
「とりあえず外に出ようっ・・・赤暁月の村は・・・・・・もうすぐだよっ!」
目的地がもうすぐなためか、疲れているはずのプリスが出口に向かって走り始める。
「お、お〜いっ! ・・・意外と元気じゃん・・・」
「あー、でもっ! 村に着いたら思いっきり休んでやる〜〜!!」



『RPG』が、赤暁月の村に到着する・・・。







〜APPEAR WORD IN NEXT STORY〜

「だからツンデレラって言うなぁあ!!」
「ふっ・・・今丁度、その『策』を作ってる最中さ・・・」
「・・・・・・『ヤツ』の子孫・・・・・・忌々しい・・・!!」
「・・・・・・おと・・・うと・・・?」



〜TO BE CONTINUE......〜




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