黒い箱の正体である『バッドネスキューブ』にゼネルが捕まり、
スイレンは大急ぎで残りの4体のボスも倒していった。
そのボスの中には、スイレンよりも先に現場に向かっていったメタナイトもいた。
メタナイトが取り込まれてしまうぐらい、バッドネスキューブは強いという事が分かる。
そして全てのボスを倒したスイレンは、キューブの占領地となったナチュラルランドの中心へと向かう。
中心へ向かう際にスイレンは、同じく異変の調査をしていた分身の4人と合流した。
「バッドネスキューブ! ゼネルを返してっ!!」
『望み通り、帰してやる・・・』
そういうと、バッドネスキューブの上蓋が開き、中から・・・



邪悪なオーラを纏い、目に光が無い冷たい表情で、
スイレンをじっと見ているゼネルが。



「・・・・・・・・・」
何も言わず、ゼネルの沈黙が重圧となってスイレン達5人にひしひしと伝わってくる。
「ゼ・・・ネル・・・?」
スイレンが口を開ける。
それと同時に、ゼネルの右手にはソードが突然現れ、いきなり切り掛かって来た!
「スイレン、危ない!!」
「今のあいつ、どう考えても正気じゃないよっ!」
赤い色のカービィ、『コウヤ』に腕を引っ張られ、スイレンはかろうじてソードの餌食にならずに済んだ。

「このっ・・・! トルネイド!!」
緑色のカービィ、『アサギ』がトルネイドの能力でゼネルに突進していく。
本来、高速回転によって一切の攻撃を受付ないはずのトルネイドだが、

「・・・・・・」
無言のままのゼネルが、トルネイドで回転している状態のアサギにホイールで対抗して来た。
そのホイールは、トルネイドの無敵状態を無視し、アサギに直撃した!
「うぁっ!! む、無敵のはずのトルネイドが・・・!?」
「完全ガード無視かっ! こーなりゃノーガードで行くのみ! オラオラオラァ!!」
黄色のカービィ、『イエミチ』はレーザーの能力でゼネルに無数の光線を放つ。
しかし直撃しているはずなのに、ゼネルは苦痛の顔を全く見せない。
「こ、こいつ化け物かよ!? 本当に攻撃喰らってるのか?!」
レーザーを何発も当てるイエミチに、ゼネルがハンマーの一撃をお見舞いした!

「っ、スイレン!! 何ボーッとしているのっ!?」
青色のカービィ、『ソラ』もアイスの能力で必死に対抗している。
だが、肝心のスイレンは先程コウヤに庇われて以降、微動だにしていない。
動かないスイレンに気付いたソラが、必死で叫ぶ。
「スイレン! ゼネルを止めなきゃ、こっちがやられちゃうよっっ!!
 キミもゼネルを止めてよ!! ねぇ!!!」
「・・・や・・・だっ・・・!」
「ス、スイレンッッ!!?」
スイレンの様子がおかしい。
いつもの、明るく強気で真っすぐなスイレンではない。
体が震えており、目は完全に絶望している。



「そんな・・・全力で攻撃したら・・・・・・
 ゼネル・・・が・・・ゼネルが・・・!」
「そんなこと言ってる場合かよ!
 スイレ・・・・・・ッ!!?」
コウヤの発言が、途中で途切れた。
ゼネルのソードがコウヤの右頬付近を切り裂き、斬られた時の衝撃で吹き飛ばされたのだ。

「コウヤ!! ・・・ってめぇ!!」
「闇の攻撃が・・・!! うああっっ!!」
イエミチとアサギも対抗するものの、
闇のオーラが先程より濃く染まっているゼネルの攻撃に、
2人はたった一撃で地に伏せられた。

「スイレン! このままじゃスイレンまで・・・!
 動いてよっ!! ねぇっ!!!」
「ゼネ・・・・・・ル・・・ッ」
スイレンは、まだ動けなかった。
目の前で起きている事を、まだ現実として受け入れる事が出来ていなかったのだ。
ソラはスイレンを必死に説得するが、動く気配が全く無い。
「・・・・・・・・・」
「っ!!?」
スイレンの方を向いていたソラは、ゼネルが既に自分の近くに来ているのに気がつかなかった。
ゼネルの右手には、コウヤを切り裂いて赤い血がべっとりと付いたソードが。
ソードを持ったその手が、振り上げられる。
腰を抜かして、ペタリと座り込んでしまったソラは、その状態から逃げる事が出来なかった。
「い・・・や・・・っ・・・!!
 スイレン・・・!! 助けてっ!! 助けてぇええ!!!」



「ゼネル・・・・・・ッ・・・、
 ・・・ゼネルゥゥゥウウウッッッ!!!!!!」
スイレンはコピーパレットからファイターの能力を発動させ、
ゼネルの名を叫びながら彼に飛びかかる!
「・・・!」
ソラを切り裂こうとしていたゼネルは油断をしていたのか、
スイレンが飛びかかって来るのに気付くのに一瞬反応が遅れた。

「うおりゃあああああああっっっ!!!」
スイレンが、渾身のスマッシュパンチを一発、ゼネルに叩き込んだ。
その衝撃でゼネルの体が空高く飛ばされ、地面へと落下した。



「はぁ・・・・・・はぁ・・・
 ・・・ゼネル・・・、・・・ゼネルッ!!」
頭が混乱していたスイレンがようやく落ち着きを取り戻し、
すぐさまゼネルのもとへと駆けつける。
強力な攻撃で気絶していたコウヤとアサギとイエミチも、
恐怖で座り込んでいたソラも、同じく駆けつけた。
「・・・・・・」
閉じていたゼネルの目が、薄く開けられた。
「・・・ぉー・・・スイレンか」
「ゼネル! しっかりっ、大丈夫!?」
ゼネルは、元気の無い小声で口を開いた。
操られていたからとはいえ、渾身の一撃を当ててしまい申し訳なかったと、
スイレンは目に涙を浮かべながらゼネルに話しかける。
「スマッシュパンチはまぁ・・・大した事無かったけどよ・・・・・・」
スイレンはその言葉を聞いて、一瞬ホッと胸を撫で下ろした。



・・・だが・・・・・・
「・・・取り込まれた闇のオーラ・・・・・・
 不完全とも言えるオレの体には・・・相当キツいもんだった・・・
 ・・・・・・自分でも分かる・・・・・・
 オレはもう・・・・・・・・・生きれねぇ・・・」
「・・・ぇ」
取り込まれたポップスターの生物だってそうだった。
正気を取り戻す事無く、結局全員息を引き取っていったのだから。
それはスイレンの『闘争心』、いわば『分身』でもあるゼネルにも、同じ事だったのだ。
「やっぱ本体とは違う存在・・・だからか・・・・・・
 やっぱりオレは・・・お前の劣化版だったんだ・・・・・・
 そんなガタガタのまがい物が・・・・・・『偽物』が、
 取り込まれてなお生き続けるだなんて・・・・・・・
 ・・・それこそ贅沢な話だと思うぜ・・・・・・」
無言のまま、涙の粒を少しずつこぼしていくスイレンは、ゼネルの話を聞いていた。



「スイレン・・・・・・オレも・・・『英雄』の存在に・・・なりたかった・・・・・・
 ・・・お前と一緒によ・・・・・・
 大活躍して、大騒ぎして・・・バカみたいでもいいからよ・・・・・・
 ・・・ずぅっと・・・楽しく・・・生きた・・・・・・かっ・・・・・・た・・・・・・・・・」




ゼネルの声が、途絶えた。
スイレンは、ゼネルの体を揺さぶる。
・・・だが、ゼネルの目は開く事もなく、ゼネルの口が動く事も無く、
手も、足も、体も、全く動く気配はなかった。



「・・・ゼネル・・・・・・ッ」
ゼネルの体を抱えたまま、スイレンは呟いた。
その声が震えている事が、あとの4人にもしっかりと分かった。



『ちっ・・・所詮は『分身』。『まがい物』。『偽物』。
 何の役にも立たんかったわ』

ゼネルとスイレン達の戦いを、
ずっと見ていたバッドネスキューブが空中から言葉を発した。
『だが時間稼ぎにはなった。
 他人も同然なお前達の『偽物』に、スイレンが全然攻撃しなかったからなっ。
 もうすぐポップスターも黒い闇に飲み込まれ、侵略は完了となる!
 はっはっはっはっはっは!!!』



「・・・コウヤ・・・イエミチ・・・アサギ・・・ソラ・・・」
バッドネスキューブの言葉を全て聞いたスイレンは、
その言葉の主を無視して、4人にこう言った。
「ゼネルの体とともに・・・君たちはこの場から逃げて・・・」
スイレンのその声は、いつもと全く違っていた。
軽く風に飛ばされそうな声とは真逆の、重くて低い声。

「ス、スイレンはどうす・・・っ!」
コウヤがスイレンに問いかけようとしたが、
顔を見たコウヤが目を丸くした。
何も言わないスイレンが、ゼネルの体をコウヤに預ける。
あとの3人には顔を見られないように、
スイレンはバッドネスキューブの前に立ちふさがった。



『ほぉ・・・・・・
 完璧に他の感情を捨て去ったな・・・・・・
 ・・・怒りを除いて』


スイレンの心の怒りが、顔だけでなく周りの空気からも出ていた。
「・・・消す」
たった2文字の、動詞。
その単語を聞いただけで、4人の体はゾクッとした。
「・・・スイレンのいう事を聞こう・・・
 ・・・・・・避難するんだ」
「・・・・・・スイレン・・・」
「・・・絶対に、そのイカれた箱をぶっ壊して、
 帰って来るんだぞっ!」
「・・・無茶・・・・・・しないでねっ・・・」



4人がナチュラルランドの中心から立ち去り、
場に残ったのは、スイレンとバッドネスキューブだけとなった。

『怒りだけで勝てるとでも?
 身を任せ、暴走するつもりか?
 そうなれば、このナチュラルランドもお陀仏だなっ』

「・・・安心しろよ・・・・・・」
スイレンの、いつもの口調ではなかった。
「ボクの力はそんな無駄に拡散させない・・・
 怒りの全開は・・・・・・ほんの数分で・・・
 ・・・貴様にだけ与えてやる!!!」

スイレンのその叫びとともに、取り囲んでいた怒りのオーラが炎のようになって
スイレンの体を包み込んだ。
バッドネスキューブからは、オーラに阻まれて姿が見えなかったが、
そのオーラに包み込まれたスイレンが、オーラの中から姿を見せた。

先程とは大違いの、重装備をしたような姿となっていた。
大地のような焦げ茶色をした、燃え盛る炎が灯ったヘルメットと
右手に装備された火山型のキャノン砲。
その火山の形をしたものこそが、スイレンの怒りをあたかも表しているかのようだった。

『怒りが具現化した・・・『トラスフォルム』・・・か!!?
 ・・・一時の感情や気持ちの高ぶりによって姿を変える、
 一部のカービィ族に見られる特殊能力・・・!』

「消される覚悟は・・・出来たか」
スイレンが右腕にエネルギーを溜め、バッドネスキューブに発射しようと構える。

『愚かな・・・!
 攻撃の前にこちらから攻撃すれば済むもの!!』

バッドネスキューブが、
闇で作り上げた真っ黒な自分の分身とも言えるキューブを、スイレン目掛けて投下させた。
そのキューブはスイレンを完全に押しつぶした

かのように見えた。
『!!!?』
しかし闇のキューブが赤く変色して破裂し、炎のエネルギー体をスイレンが発射する。
炎エネルギーの弾丸は周りの空気をも燃やしながら、一瞬でバッドネスキューブに直撃した!

『ゴッ・・・!!?
 ス、スピードが速すぎて・・・一瞬しか見えん・・・!!
 ・・・くそっ!』

ダメージを受けつつも、バッドネスキューブは次の攻撃へと移る。
生物を取り込む場所でもある上蓋から、隕石のように闇のエネルギーを無数に降らせた。
『この攻撃ならば、弾丸1発1発では対処しきれまい!』
しかしスイレンは、右腕に再びエネルギーを蓄える。
そして火口型の発射口を、地面に叩き付けた!

叩き付けた場所の周りごと、ドーム上の熱風がスイレンの身を守った。
熱風に触れた闇の隕石は、次々に浄化されていく。
「攻撃だけでなく、防御も兼ね備える怒りの姿。
 トラスフォルム・『アンガーボルケーノ』。
 ・・・言ったはずだよ。
 『ほんの数分』・・・・・・と。
 貴様が生きていられるのは・・・・・・後少しだけだ」
もう一度、スイレンがトドメをさそうとエネルギーを蓄え始める。
次の一撃で全てを終わらせる気だと悟ったバッドネスキューブも、
大技を繰り出そうと準備をし始める。

『こんな一瞬のうちに・・・!
 ポップスター侵略の野望を終わらされてたまるものか・・・!!
 ・・・こちらこそ・・・一撃で仕留めてみせるっ!!』

闇で覆われているはずのバッドネスキューブの体が、突如光り始める。
『この場で大爆発を起こし!!
 ナチュラルランドごとお前を消し飛ばす!!
 我が体は、この闇の空間がある限り再生出来るからな・・・!!!
 ・・・お別れだ、スイレン!!!』

「いいこと聞いたよ。
 この空間がある限り再生してしまって倒せないって言うのだったら・・・」
バッドネスキューブの最後の切り札であった大爆発、
それに対してスイレンは、
「聖なる炎で、闇の存在だけを浄化させてやる!!」
先程の弾丸と違い、今度は巨大なレーザー状の熱波をバッドネスキューブに発射した!
大爆発を起こす前にバッドネスキューブの体を貫通し、そのまま闇の空間の一部にぶつかる!

『ガッ・・・なっっ・・・・・・!!!
 や、闇の空間が・・・消えていく・・・・・・!!
 炎で燃やされていく・・・・・・!!!
 さ、再生出来ない・・・!!』

レーザー状の熱波を発射し尽くし、闇の空間がみるみるうちに浄化されていく。
浄化され、闇の空間のエネルギーを取り込めなくなったバッドネスキューブは、
貫通された体を戻す事が出来ないまま、呻き苦しむ。
『ごぁぁぁぁ・・・!!
 ポ、ポップスター侵略・・・ゼロどもがいなくなり、
 ようやく我の天下になったと思ったのに・・・・・・!
 折角のチャンスが・・・チャンスがぁああ・・・・・・っ!!!』

バッドネスキューブの体もまた、貫通された場所から浄化されていき、
声が聞こえなくなった時には、闇の空間もバッドネスキューブも完全に消え去っていた。







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