それは、突然切り離された。
眠っている桃色の球体から、橙色の球体が突然飛び出し、
その橙色の球体は、桃色の球体が目を覚まさないうちに外へ飛び出した。
飛び出した後、早歩きとも言える歩幅で移動しながら、橙色の球体は色々考える。



.........オレは、何者だ?
あそこにいた桃色の奴、オレはあいつと姿が似ている。
けど色が違うし、何故かオレはヘルメットみたいなのを被ってる。

少なくとも分かる事と言えば、オレとあいつは何かしらの関係がある。
確かあいつは昨日、寝る前に何かのお祭り騒ぎに参加していたよな・・・。
なんか『英雄』だとか、その場にいた色々な人からそう呼ばれていたよな。
・・・じゃあ、オレもその『英雄』なのか?


オレはあいつと全く同じ存在なのか?



そして時間が経つごとに、段々自分の脳が活性化していく感じがした。
恐らく、あいつの記憶がそのままコピーされたんだ。
あいつの今までやって来た事を、全て覚えてる。
ようやく、オレとあいつの事等が全部分かった。
・・・・・・そうか、オレは・・・・・・
・・・・・・だったんだ。







橙色の球体が桃色の球体から出て行って、3年くらい経った頃。
ポップスターの中心に位置した国、『プププランド』の北にある
『ナチュラルランド』にて異変が起きた。

謎の黒い箱が次々とポップスターの生物を体の中に取り込んでいき、
箱から出て来たその生物達は、邪悪なオーラを纏っていた。
数年前に降伏をしたはずの暗黒の存在・『ダークマター』に関係する何かだろうか。
もし、降伏など全く関係なく自らの意思で事件を起こしているというのなら、
説得で止めるような事はまず無いだろう。
・・・つまり、強制的に討伐せざるを得ない。

『英雄』と言われた球体の人物。
その球体は『カービィ族』という種類の生物であり、本来は『桃色』は体のどこにも付かないはず。
付くとすれば、それは『星の戦士』として選ばれた特別な存在か、あるいはその人物に関係する子孫のみだ。
しかし、歴代のカービィ族に桃色を持った者はいない。
つまりその『英雄』は、正真正銘の星の戦士だったのだ。



「・・・先に行ったはずのメタナイトから、連絡が全く来ない・・・。
 何があったんだろう・・・」
英雄の名前は、『スイレン・スターヤード』。
スイレンは、『メタナイト・ソウルセイバー』という者と共に『星の戦士』として、
ポップスターで起こった様々な事件を解決して来た。
そして、スイレンにとってメタナイトは、たった1人の愛する人であった。

ナチュラルランドで黒い箱が生物を取り込んでいるとの情報を聞いたメタナイトは、
スイレンに「先に行って様子を調べてくる」と言ったきり、帰って来なかった。



黒い箱が取り込んだ生物は、容赦なくスイレンに襲いかかる。
スイレンは、一心不乱にメタナイトと黒い箱を探していた。
8体のボスのうち、4体目のボスをスイレンが倒したすぐ後、

橙色の球体の人物が、突如スイレンの前に立ちふさがった。
「・・・よぉ英雄さん。
 実家から結構離れたこんなとこで、何やってんの?」
「な・・・だ、誰!?」



何だこいつ、オレの事は知らないのか・・・。
そりゃそうか、寝ている間に離れちまったもんな。
・・・桃色なぁ、こんな女っぽくて平和ボケしてるやつのどこが『英雄』なんだ。
橙色をしていて、ヘルメット着飾ってるオレの方が『英雄』っぽくね?
だいいち、コイツが『本体』だってのが気に喰わない。
コイツが『本体』だったら、オレは『偽物』なのかよ。

・・・・・・むかつく。
こいつが『本体』である以上、オレが『偽物』。
『英雄』じゃない方だから、オレが『偽物』。

偽物、偽物、偽物、偽物。




「・・・お前がいたら、邪魔だな」
「!? な、何を言ってるのさ!?
 大体、君は誰!?」

・・・知るかよ・・・名前なんて無いし。
こいつは、親に強制的に名前付けられたんだろうな。
自分で自分の名前を付けられないのって、多分もどかしいだろうな。
この際、自分で名前付けるか。
・・・適当に思いついた名前でいいや。




「オレの名前は、ゼネル。
 ・・・スイレン、お前の『闘争心』から生まれた」
オレの推測は正しかったんだ。
あいつの『闘争心』が、オレそのものだったんだ。
でも、あいつは半ば信じてなかったようだ。
初対面のやつに自分の闘争心だって言われたら、そんな反応して当たり前か。

・・・こいつが存在しているから、オレはいつまでたっても『偽物』か。
だったら、『本体』のスイレンを倒して、オレが『本体』になってやる。

「鏡の国の事件の時に、お前はダークメタナイトとかいうやつに斬られたよな。
 その時にお前ら、5人に分かれたらしいけど。
 ・・・タイミングが遅れて、最後にオレが分かれ出て来たんだよ」
「ボ、ボクの闘争心が一体何の用なのさ!?
 ・・・まさか、助けてくれるの?」

この一言が、オレの癇に障った。
オレはさっき、「お前がいたら邪魔だな」って言ったよな。
なのにこいつは、オレが助けてくれると思っていたのか。
呆れる平和ボケ野郎だ。
やっぱり、こいつが『本体』でいいわけがない。
こんな『本体』がいるせいで、オレがこいつの『偽物』だっていうんなら、




「逆だよ・・・お前を始末してやる!!」
「!!?」
一瞬怯んだスイレンに、ゼネルは容赦なく飛びかかる。
ヘルメットから独特の機械音が聞こえ、突如ゼネルの右手にハンマーが出現する。
「喰らえっっ!!」
「わっ・・・! 『ハンマー』!」
先程まで何のコピーも持っていなかったスイレンも、ハンマーの能力を持つ。
3年前に習得した新たな機能、『コピーパレット』を使ったのだろう。
体内に記憶保存されていたコピー能力を解析し、どんな状況下でも自由に使えるという
スイレンにとって有り難い機能だった。



「なーるほどっ、お前の『ソレ』は体内にあるからわかんねーけど・・・
 よーするにオレのヘルメットが、『ソレ』なわけだな!」
ゼネルがそう言うと、右手に持っていたハンマーが消え、
スイレンも見慣れたタイヤの形に変身する。
「ホ・・・『ホイール』!?」
「オレの気に入った能力を保存しておいたのさ!
 そりゃあっ!!」
タイヤの状態で突進してきたゼネルを、スイレンは紙一重で避ける。
避けられたゼネルは、タイヤの体を解除したすぐ後に、再びハンマーのコピーを使う。

「えぇ!? さっき使い終わったはずのコピーが!?」
スイレンのコピーパレットは、一度使った能力を再びパレットに戻す事が出来ない。
ところがゼネルは、一度変えた際に消えたはずのコピーを再び扱っている。
「スイレンッ! お前のコピーパレットとは、訳が違うんだよ!」



その後もゼネルは、ソードで回転しながら切り掛かって来たり、
アイスの息で凍らせて来たり、カッターブーメランを器用に飛ばして来たり、
ボムを無数にばらまいて来たりした。
スイレンはかろうじて避けたり、直撃したり、苦戦しながらもゼネルに攻撃を加えていた。

そして、
「最終手段だっ! 『ハイジャンプ』ッ!!」
コピーパレットに最後に残ったコピーを、スイレンは発動させる。
対空攻撃系のコピーの中でも、防衛能力と破壊力を兼ね備えている『ハイジャンプ』。

「っ!! しまっ・・・!!」
ホイールで壁に当たる衝撃で跳ねたり、
ソードやハンマーで空中から飛びかかって攻撃してくるゼネルに対して、
上方向に攻撃が出来るハイジャンプは、効果が抜群だった。
ちょうど空中からスピニングソードを当てようとしたゼネルに、
スイレンのハイジャンプが見事にヒットしたのだ。



「く・・・そっ・・・!
 こんなやつに負けるなんて・・・!!」
ハイジャンプの直撃で致命傷を受けたゼネルは、まともに立つ事すら出来なかった。
苦戦を強いられて座って休んでいるスイレンを見上げ、悔しそうな顔を向ける。

「1つ教えてよ。
 ボクが邪魔だとか、始末するとか、何でなのさっ」
「そんなの・・・、お前が『本体』だからだよ!」



沈黙。
スイレンは、ゼネルの言った事に対していまいち意味がわからなかった。
何も言わないスイレンに、ゼネルは続けて言う。
「お前が『本体』だから、オレが『偽物』扱いになっちまうんだよ!
 あくまでもオレは、お前の『闘争心』に過ぎないからよ・・・!
 だから、『英雄』って呼ばれるのもお前だけ!!
 ・・・オレだって、本当はお前と同じはずだ・・・!
 けど、オレは『英雄』なんかじゃ、」
悔しさからどんどん出てくるゼネルの言葉は、次のスイレンの言葉で途切れた。



「『本体』や『偽物』なんて、関係ない!!」
「な・・・っ!!」
ゼネルは、スイレンの一喝に一瞬怯む。
「例え周りの人達に『英雄』って呼ばれようと呼ばれまいと、
 ボクは自分の意思で『英雄』になんてなった覚えは無い!
 そんなボクを倒して、キミは本当に『本体』になりたかったワケ!?
 それで、『本体』になったキミが『英雄』になれるとでも思ってたワケ!?」



・・・違う。
例え今ここでスイレンを倒したって、

オレが『偽物』でなくなるわけがない。

オレが『本体』になれるわけでもない。

オレが『英雄』って呼ばれるわけでもない。



結局オレは、『ゼネル』のまま。
オレが『スイレン』という存在にはなれない。
ちょっと考えたら、誰もが呆れて頷くほど、当たり前の事じゃないか。
そんな考えに、オレは呆れて頷かずにただ1人必死に反論していたって事か。




「・・・ケンカバカなオレに、そんなブレイン知識知るわけねーし・・・」
「っ・・・?」
さっきのスイレンの説教を一通り聞いたゼネルは、
倒れた状態から寝転がって一言呟く。
スイレンには、この呟きが聞こえなかったようだ。

「ま、でも・・・オレが『英雄』になれないってのは事実だし・・・
 ・・・必死になってお前と争ったオレって、バッカでぇー・・・」
「ゼネル・・・、・・・・・・立てる?」



おいおい・・・、
さっきまであんなにオレと戦ってたってのに。
オレは、お前を本気で倒すつもりでいたんだぜ?
・・・で、無様に負けたオレは、こうやって地面に這いつくばってるわけだし。

なのに、お前は何でそうやって手を差し伸べて来るんだよ。
・・・・・・こいつ、意外とブレイン知識豊富野郎かなと思ってたけど、
結局は平和ボケなやつってか・・・。
・・・でも、そんな平和ボケな奴よりバカなオレってば、情けないな・・・・・・




ゼネルが、スイレンの手を掴もうとした、その時だった。
『ほほぅ・・・こいつが・・・星の戦士の分身とやらか・・・!』
「「!!?」」
不気味な声が、頭の上から響く。
と、同時にゼネルの体が宙に浮いた。
宙を浮く『ホバリング』の技術は、ゼネルは持っていないはず。
「な・・・何だこ・・・!!?」
全部言い切る前に、ゼネルの体が消えた。
「ゼ、ゼネル!? ゼネルッ!!!」

『ゼネルというのか・・・。
 星の戦士よ、ゼネルはこの『バッドネスキューブ』がもらっていく。
 当然あとで帰してやろう。
 ・・・・・・邪のオーラを染め尽くしてな』








・小説一覧へ
・第8話中編へ