それぞれの叫びとともに、双方とも弾幕を展開していた。
ミカエルとサターンの自然属性は、どちらも『火』。
強いて言うなら、ミカエルは直接的な火炎であるのに対し、サターンは熱気の塊である。
「そんな小さな火の弾なんぞ、オレの熱風で吹き飛ばせるぜ!」
サターンの弾は、ベルゼブルよりは劣るとはいえスピードがそれなりにあった。
そして弾の熱量はというと、同じ『火』の属性を持つアーモンとカーリムを凌駕する高さを持っていた。
「ですが、速度に対して弾の大きさはそれほどでもありませんね・・・!
 少し避ければ、直撃は無いですよ!」
「本気でもない通常攻撃で自慢か?
 そんなにつまらないなら見せてやろうじゃないか!
『ヘスティアースターマイン』!!」

サターンが周囲の空気の温度を高め、熱気の塊を作り上げる。
「おらよっ!!」
塊をミカエル目掛けて飛ばすものの、そのスピードは普通であったため簡単に避けられた。
(・・・? あまりにも簡単な気が・・・)
「警戒してるようだな。
 だが、まだその攻撃は終わっちゃいないぜっ!!」
「っ!?」
塊のスピードが徐々に遅くなっていき、停止した所でそれは大爆発を起こした。
さらに爆発した場所から小さな破片が飛び散り、その破片が別の弾の列を作り上げる。

「その列の間を縫って、
 次に飛んでくる塊を目の前にしても・・・『簡単』と言えるか?」
まだ前の攻撃の弾が残っているのに、次々と弾の列を作り上げられては
逃げ場が次第に狭くなっていってしまう。

長期戦はあまりにも不利だ。
何より、サターンの蓄える熱量には上限というものが見当たらない。
長引けば長引く程、相手の攻撃はどんどん強力になっていってしまう。
「一方的な状況なんて、絶対にさせませんっっ!!」
「そうだ・・・!
 その勢いでオレに立ち向かって来いよ!!
 そして、その勢いがどれだけ無駄かということを、知らしめてやるぜっ!!」



「ガルル・・・ル・・・ッ・・・」
「ぜぇ・・・っ、ぜぇ・・・・・・!」
ウリエルとレビアザンの戦果は、互角という形で終わった。
レビアザンは鰭も削ぎ落とされ、湖の水面に仰向けで浮かんでいた。
ウリエルも、翼へのダメージが重なったために湖の小島に墜落していた。
「ガ・・・ゥウウ・・・・・・ッ」
体の左右に何も生えていない状態であれ、それでもなお立ち上がろうとするレビアザン。
だが、そのダメージは大きすぎたらしく、すぐにまた倒れてしまう。
もはや戦闘不可能の状態であることは、確定であった。

「ミカエル様・・・援軍の阻止は・・・何とか、出来ましたよ・・・・・・っ
そしてウリエルは、一命は取り留めたもののそのまま気絶してしまった。



「スキありだ!!」
(! カウンター速度以上の攻撃っ・・・!?)
「く・・・っ!! うわあっ!!」
アスタルトとラジエル。
ラジエルの速さ以上の攻撃により、戦況はアスタルトの方へと傾き始めた。

「ラジエル殿っ!」
「余所見してたら、死ぬぜ」
「くっ・・・!!!」
ベルゼブルとナフィエル。
力の差が互角なのだろうか、未だにどちらにも勝機は見えない。

「例えウリエルの妹でも、容赦はしないよぉっ!」
「きゃっ・・・!! ま、負けないもんっ・・・!!」
「お兄ちゃんっ子な甘えん坊、勝てる訳が無いのにねっ!!」
ルシフェルとアムラエル。
アムラエルは持ちこたえているが、ルシフェルに勝てる確率は極めて少ない。



「見つけました・・・! 3人の姿を確認!!」
「ラファエル、ジブリエル、レミエルッ!!」
「っ、カイレルさんっ、ハーネルさんっ!!」
救護班と、天魔界を繋ぐ穴を守っていた天使達が、
ミカエルの援軍に行った3人を保護しに到着した。

「全員無事らしいね・・・。
 ラファエルは・・・気絶してるみたいだけど・・・」
「え、えぇ・・・。
 アスタルトさん・・・に、弱い電気で強制的に気絶されて・・・、
 殺されはしませんでしたが・・・」
「アスタルト、か。
 ・・・そういえば・・・やつは『逆性の忌み子』らしいな・・・」
「・・・え・・・、・・・あの方・・・女性だったのですか・・・?」
カイレルの発言に、ジブリエルが耳を傾けた。

魔界の歴史書によれば、アスタルトもウリエルと同じ逆性の存在であったらしく、
生み出された時にすぐ抹消される筈であった。
だが、自身の天性の自然能力、『雷』によって使い魔を全滅させた事からサターンに気に入られ、
そのおかげで今も生き長らえているという。

「複雑な心境だったのだろう・・・、命を宿されていきなり消されるのが、
 よほど納得のできない事で・・・。
 ・・・だから、奴はこの戦争は元から興味が無かったに違いない・・・。
 そのためか・・・、・・・彼女に立ち向かった天使達は、全て峰打ちで抑えられている・・・」

「じゃ・・・じゃぁ、アスタルトさん以外に立ち向かった方達は・・・?」

「・・・ベルゼブルは、本来はこんな軍のように群れるのは好きではない。
 だが、アスタルトとルシフェルが参加し、かつ自身もサターンに招集され・・・、
 そして、自分の力量が他の2人よりも強い事を主張した・・・。
 ・・・だから・・・、奴に立ち向かった天使達は・・・、・・・・・・息絶えていた・・・」

「そんな・・・、・・・ルシフェル君の、場合は・・・?」

「ルシフェル・・・、・・・あいつはずっと前からウリエルの事が好きだったそうだ・・・。
 悪魔になる前から、・・・天使の頃からな。
 ・・・だが、自分が『女』である事にコンプレックスを抱いてた、
 だから、悪魔になってでも『男』になって、ウリエルを我がものにしようとした。
 ・・・ウリエル以外は、特に何も見ていなかったらしく・・・目の前に立ちふさがる者を片っ端に攻撃していた。
 ・・・生き延びた者もいれば・・・、亡くなった者もいる・・・」

「・・・ルシフェル君、ウリエル君の事を・・・・・・?」

カイレルから聞いた魔界三大勢力全ての事情を、ジブリエルは静かに聞いていた。
アスタルトの過去、ベルゼブルの残虐性、そしてルシフェルの思い。
何を以て、この戦争に参加したのか、それが全て分かった瞬間であった。






そして・・・、ミカエルとサターンの攻防は絶えず続いていた。
圧倒的な熱量を操る事で、サターンはミカエルよりも優勢な位置に立っていた。

『崑崙山の火光獣』っ!!!
下界に存在すると噂されている『火鼠』の如く、
ミカエルを執拗に追いかけてくる。
回転軌道を取りながら追いかけてくる様は、『鼠花火』とも言える。

『ハリーテールクライシス』ッ!!!
蒼白く光る彗星の尾が空間内をかすめる。
もともとは氷の塊であったはずの物が、摩擦により高熱の水蒸気へと変わり、
飛び散った数多の塵や礫が、重力により無尽蔵に降ってくる。

『虚無僧火炎龍』っ!!!
巨大な尺八を模した光の線が、八岐の火龍、
パイロ・ヒドラを思わせるかのように照射される。
笛の音により自由に踊り狂う、赤い蛇のようにも見えた。



「・・・一方的な攻撃のはずだったんだがな・・・、
 っ、まさか・・・ここまで生き延びるとはなっ!」
「絶対に・・・、絶対に私は!!
 この戦争を終わらせると・・・メタトルム様に、
 天界に住まう天使のみんなに・・・、誓ったんです!!」
サターンの怒濤の必殺攻撃の中、
ミカエルはギリギリのところを避けながら火炎弾を浴びせ続けていた。
どちらも、魔力も体力も限界が近づいていた。

次にくる必殺攻撃が、当たればサターンが勝つ。
その必殺攻撃に、当たらなければミカエルが勝つ。



「・・・ならば・・・オレの最終奥義を見せてやる・・・。
 灼熱と烈火の光を目の前に、跡形も無く消え去れぇっ!!!

『白陽と獄炎の天魔界(ソルナティサクリファイス)』っ!!!

サターンの左手から白い光が、右手からは黒い光が放たれる。
どちらも、空間魔法の端に着くとともに爆発を起こし、眩しい閃光を放った。
「うぉおらぁあああっっ!!!」
「っ・・・!
 今までとは比べ物にならない熱量・・・!!」
次々と爆発を起こすうちに、空間内の熱気は徐々に高まっていった。
それに、サターンの魔力は衰えるどころか強力になっていき、
光の眩しさも爆発の大きさも増していく。

「天使なんぞ、所詮は臆病な専守防衛の集団に過ぎんっ!!
 攻撃能力を特化し、力を最大限発揮出来る悪魔こそが、
 この天魔界の全てを支配する権利があるのだぁあっっ!!!」

しかし、力の強化はサターンの理性を少しずつ削っていた。
もはや暴走の勢いに身を任せ、只管破壊のみの行動をする姿勢へと変わっていた。
対するミカエルは、その言葉を聞きつつも攻撃を避け続けていた。

「はははははははははははははっ!!!!!
 消えろっ! 消えろぉっ!! 熾天使最高位総束長、ミカエルッッ!!!
 お前を倒せば、オレの屈辱は消え去るとともに!!!!
 天魔界は、これからは我ら悪魔族の物にーーー」

「・・・決断の天秤は、傾きました」
サターンの主張の叫びは、ミカエルのそのたった一言でピタリと止んだ。



「天使族を総て束ねる長として、今回の一件に関する貴方の愚行に、
 天界の光を用い浄化しましょう。
 二度と忘れぬよう、後悔してもらいます」

「何を馬鹿な事を・・・!!
 くたばれぇぇぇえええぇぇぇっっっ!!!!」

今までよりも大きな光の塊が、ミカエルに襲いかかる。



だが、
その光の塊は直撃する直前で、消滅してしまった。
煌めく光の粒が飛び散る最中、ミカエルの右手はサターンの方へと向けられていた。
そして・・・、サターンはこの時見てしまったのだ。

決して開く事が無い筈の、ミカエルの瞳。
エメラルドグリーンに輝き、しかしその輝きには恐怖を覚え、







「『消滅と誕生の光境極(ビッグバンイレイザー)』」
















「・・・サターン様っ!!?」
「サターン様・・・この状況・・・、・・・どういう・・・?」
「・・・・・・ムルムル・・・、アーモン・・・・・・」
「は、はいっ?」

「全軍に伝えろ・・・・・・。
 ・・・・・・
『悪魔軍は、降伏する』・・・・・・と・・・」



鳴り響く轟音と放射された閃光の中心に、
慌てて向かったムルムルとアーモンが見た物は。
荒い呼吸をしながらもかろうじて意識を保ち、ぺたりと座り込んでいるミカエルと、
翼も兜もほとんど全てが焼き切れ、生きているのが奇跡である状態のサターン。




そして、サターンの口から直接出て来た『降伏宣言』は、
すぐに天魔界の全域へと通達された。







天界の宮殿。
「・・・先程の気の震え、やはり尋常なものではなかったのか・・・」
「・・・サターン様が、負けただとっ!!? 総束長とはいえ・・・天使如きに・・・!?」
「て、事は・・・ミカエルさん・・・、勝っちゃったって訳?」
「・・・ナフィエルさん・・・、やりましたね」
「ふぅ・・・、・・・このまま続いてたら、どうなっていた事か」
「ミカエル様・・・お兄ちゃん、みんな・・・!!」



魔界。
「あーあ・・・結局、悪魔軍が負けたのねぇ・・・・・・」
「そ、そんなーっ・・・サターン様が・・・?」
「・・・ガルゥ・・・・・・」
「・・・ミカエル様・・・、成し遂げてくれたのですね・・・」
「・・・くぴっ、くぴっ」
「ラファエルさん、大丈夫ですか・・・?」
「・・・あぁ。 ・・・悪魔に生かされるというのも、なんだがな・・・」
「あの光・・・間違いなく、ミカエル様の光だったな」
「流石ミカエル様・・・、いくら私でも敵わないわね・・・」






天魔界の戦争は、こうして幕を閉じた。
しかし、この戦争の騒動によって目覚めた悪魔がいる。
まだ、ミカエル達はこの悪魔に出会っていない。
・・・いつか、出会うときは来る。
その時にこそ、天使と悪魔による争いは全て終わるだろう。






地獄の大穴。
「・・・・・・随分と、上ではお祭り騒ぎだったねー?」
「!? あ、あなたは起きないで下さい・・・!」
「やーだっ・・・ボクだって騒ぎたいんだから・・・ねぇ」
「・・・っ・・・!!」






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〜〜あとがき〜〜
サボタージュのしすぎで第一作から早速この遅さ。
現行小説溜めすぎでした(汗
と、いうわけで天魔界戦争紀の『小説』はこれにて終了です。
EX以降は、『4コマ』で行きたいと思います・・・、
いつぞやの人気投票で『天魔界小説・0票』だったので、小説だと
弾幕ネタバレするからかなーと思いました故。

では引き続き、天魔界の世界をお楽しみください。