「・・・・・・」
ミカエルは、色々な事を考えながら飛んでいた。
サターンを倒して戦争を終わらせる事、
レビアザンを足止めすべく湖に残ったウリエルの事、
侵攻する悪魔軍に立ち向かう天界の天使達の事、
考える事が多すぎて、頭の中でそれらがただひたすらグルグルと回る。



「もうすぐ・・・、この戦争を、終わらせてみます・・・!
 それまでどうか、天界の天使達に・・・!」
白く光し陽の輝きよ、力を、力を貸して下さい・・・!!






「・・・はぁっ・・・ぐっ・・・!」
「ガル、ル・・・・・・!!」
湖の上では、ウリエルがレビアザンを必死で食い止めていた。
ここで自分がやられしまえば、天界に攻め入られてしまうか、ミカエルを襲いにいくだろう。
どちらにせよ、これ以上敵を増やすわけにはいかない。
ウリエルにとって、レビアザンは悪魔とはいえ未知の存在。
爪や鱗をミサイルのように飛ばしてきたり、プロミネンスのように曲がりくねる炎を放射してきた。
しかしかろうじてそれらの攻撃を耐え、今目の前にいるレビアザンは、両腕が完全にもぎ取れていた状態にあった。

(・・・腕をもぎ取れば戦闘力も落ちる・・・、けれど、すぐに新しい腕を生やしてくる・・・!
 さっきの『フォートレスガーディアン』で、今度こそ腕を根元から完全に飛ばしたはず・・・!)

ウリエルは、最終手段である『身地還りの矢』をレビアザンの腕に命中させ、砂の如く木っ端みじんに吹き飛ばしたのだ。
その為か、レビアザンは次の腕を中々生やして来ない。
「ガウウ・・・ウ、ウ、ウ・・・!!」
だが、予想外の出来事が起きたのだ。
それまで長腕を何度も瞬時に再生してきたレビアザンの、腕の傷口が大きく蠢いていた。
あまりにも不気味で、吐き気すら覚えるその様子に、ウリエルは目を合わせるのも辛い状態だった。

「、・・・っ!!?」
直後、その傷口から勢いよく出てきた物は、



水棲怪物の本来の機能を備えた、巨大な鰭であった。
「ガ・・・!! 『インフェルノオーシャン』!!
間違いない。
レビアザンの攻撃は、これが最後だ。
長腕の時のレビアザンは、ただの一介の造魔に過ぎない。
鰭という、一番適した機能を使い出したと言う事は、今のレビアザンこそが本来の姿なのだ。

「水中に潜られて一方的な攻撃なんか来たら厄介だな・・・、
 けれどボクのこの矢は、水面程度は貫通するさ!」
「ガルルルルゥァアア!!!」






天界の宮殿でも、ついに天使兵達と悪魔軍達が戦いを始めていた。
アスタルト、ベルゼブル、ルシフェルがそれぞれ、
ラジエル、ナフィエル、アムラエルと戦っている。

「悪いがここで眠ってもらう! 『バッテリーディストラクション』!」
「純粋な雷属性ですか!
 けれど私も雷属性の技は、『かじり』とは言え覚えてまして、ねっ!!」
ラジエルには、『火』と『雷』の2つの自然属性を兼ね備えている。
個々の能力はそれぞれミカエルとレミエルに劣るとはいえ、戦うには十分な力を持っている。
そして何より、ラジエルは『電光石火で未来を見つめて』いた。
正しくは、頭脳に常に電気を通しており、相手の攻撃の手を瞬時に見極めていたのだ。
攻撃よりはどちらかといえば防御タイプに徹しており、カウンター系を得意としていた。




「無惨な肉片と化せ! 『トリ・トライデントシュート』ッ!」
「正直、ここまで来れた事は褒めて遣わそう。
 だが所詮、邪の心を持った悪魔どもにここを通れる訳がない!」
ナフィエルの自然属性は、ミカエルと同じ『火』。
彼女の能力もミカエルには劣る、しかしその差は僅差と言ってもいい。
熾天使総束長であるミカエルに対し、ナフィエルはただの熾天使の1人ではある。
ところが、ナフィエルはその熾天使の中で唯一『神の名を受けた』者だった。
そのため実際にはミカエル、そしてメタトルムと同じ地位にあり、『もう1人の総束長』と言っても過言ではない。




「君に用はないよっ! 『ラルスクラシロストリス』ッ!!」
「お兄ちゃんが頑張ってるんだ・・・・・・私だって、お兄ちゃんに負けない!
 当然、お前にも負けないぞっ!!」
アムラエルは、ウリエルから生み出された存在。
故に、体力や能力はほぼ全てウリエルをコピーしている。
体や年齢や、弓矢を使わないという等の関係上、ウリエルよりもわずかに劣る所は沢山ある。
とはいえ、普通に弾幕を放つ事も出来るうえに、低級の悪魔等が相手であれば砂に変える事も出来る。
つまりアムラエルと今戦っているルシフェルにとっては、姿形は違えどウリエルと戦っているのと同じなのであった。







「っ、救護班・・・!
 ・・・今、戦局はどうなっているんだっ!?」
天魔界を繋ぐ穴の入り口、
意識を取り戻したカイレルが、救護班達に向けて必死になりながら叫ぶ。
「・・・天界に、悪魔軍勢が侵入。
 一方、ウリエル君とミカエル様は、サターンの魔城に何とか向かっているそうです」
「どっちも、・・・時間の問題・・・って事・・・?」
カイレルに続き、ハーネルも目が覚める。
「今からでも、天界の宮殿へ戻らないと・・・!!」
「っ、カイレルッ!?」
まだ意識を取り戻したばかり、それに傷も完治しておらず、体力も存分に回復している訳でもない。
それでもカイレルは、ハーネルの驚いた声も聞かないまま天界に戻ろうとしている。
そのまま悪魔軍達のいる戦火の中に飛び込めば、最悪の場合は犬死にになってしまう。

「・・・っ! カイレル!
 ウリエルとミカエル様がサターンの魔城へ行ってるって、聞いたでしょ!!?
 サターンを倒しさえすれば、間違いなく戦争は終わるのよっ!!
 ・・・なのに、その前にカイレルが死んじゃったら、意味ないじゃないっっ!!」
泣きそうになる程必死になって、ハーネルがカイレルを止めようと叫ぶ。
普段はナルシストで、自分の事しか考えていない彼女でも、
目の前で同族が、仲間が死んでいく様を見るのは流石に許せなかったのだろう。
「天界の宮殿だって・・・っ!
 ラジエルもナフィエルもそんなヤワじゃないって事は、あんたが一番わかってるんでしょ!?
 ・・・さっき通っていったアムラエルだって、きっと大丈夫だよ・・・!!」
「・・・・・・」
絶対に守り通さねば。
その事で一杯だったカイレルの沸騰した頭は、徐々に冷静さを取り戻していた。
「・・・そうだな・・・。
 我らだけではない、ミカエル様も、ウリエル達も、ナフィエル達もいるんだ。
 ・・・信じておこう、彼女達を」






暗い赤に光る魔法陣が床にある部屋で、ミカエルはサターンに追いついていた。
「ついに来たのか、ミカエル。
 じゃ、さっきの説教の続きとやらを聞こうじゃないか」
「・・・今度ばかりは、お巫山戯が過ぎています。
 いえ・・・・・・、もはやこれは『巫山戯ている』ではすみません。
 サターンさん、あなたはこれから裁きを行います。
 ・・・ちょうど、あの悪魔弁護士さんのように」
この時サターンは、気付いていなかった。
ミカエルの天秤がわずかに、左に傾いていた事を。



ミカエルの天秤には意味がある。
右は英語で『ライト』と呼ぶ。
善、すなわち正しい事もまた『ライト』であり、白く輝く光も『ライト』と呼ぶ。
前者2つのつづりはどちらも『right』、それは偶然でもなんでもない。
光の事は『light』と書くが、善にも右にも、対なるものは存在する。
天秤とは対なるものを乗せる物。
では、右が善であれば左は何であるか。






「あなたの黒く濁った闇を、私の白く目映く光が浄化してみせます!!」
「お前が、白く輝く太陽の・・・その翼に反射する眩しい光ならば。
 オレは黒く燃ゆる業火・・・我が瞳の底で、揺らめく闇よ!!」





・小説一覧へ
・最終話後編へ