「・・・魔界の辺境に誰か来たな」
「ううー、きっとミカエルさんですよぉ・・・。
 何の躊躇いも無く来るだなんてぇ・・・」
先ほどミカエルに倒されて逃げ出したムルムルは、サターンのいる城へと戻っていた。
悪魔術によって通常の数倍の速さで魔界中を移動出来るため、
天界と魔界を繋ぐ穴からかなり遠いこの城にすぐに戻っていたのだ。
「それだけじゃないぞムルムル。
 ・・・数的に強力な天使が多くいると見た。
 こりゃあ予想してたより難作業になるかもしれねーな」
サターンが難しい顔をする。
天界の天使を少々甘く見すぎていたのかもしれない、と悩んでいたからだ。

「・・・仕方ねぇ、まだ城へ来るには時間がかかるだろう。
 アーモン! カーリム!」
「お呼びでしょうか、サターン様っ」
「早くもボク達の出番とはねっ?!」
サターンの城で最も側近的な存在である、
魔界弁護士の『アーモン』と魔界翻訳家の『カーリム』が姿をあらわした。
「今ならまだ城の中が手薄でも問題は無い。
 今のうちにこちらから奴らを仕留めろ。
 ・・・長期戦になっても構いやしない、体力を消耗させるだけでも良い」
「お任せをっ、このアーモン、サターン様の命に恥じないよう戦います!」
「はりきってきたぁー! カーリムは頑張るぞぉ!」
翼のあるカーリムは空を飛び、天魔界では珍しく翼の無いアーモンは
強靭な脚力で地を走り、ミカエルのもとへと行く。

「・・・ここからが本番だぜ、ミカエル・・・・・・
 ・・・メタトルムの次に就任した『熾天使最高位総束長』、
 その腕前の報告を是非聞きたいものだな」
くくっ、と薄く笑うサターンに、休んでいたムルムルが話しかけた。
「あ、あの、サターン様・・・ボクはどうすればいいでしょうか・・・?」
「ん? 別に体を休めてても構わないが、そうだな・・・・・・
 辺境から時々ここにくる変な悪魔がいただろ。
 そいつにも加勢してもらうよう言って来てくれないか?」
このまま何もせずにいるのも悔しかったのだろう、
ムルムルはサターンの依頼を聞くと嬉しそうに、「行ってきます」と言って飛び立った。

「全く・・・・・・、まだ平和な奴だ」






一方ミカエルの方はウリエル達に行動命令を伝えた後、魔界の空を飛んでいた。
「ここは・・・魔界の辺境とでも言うべきでしょうか・・・?」
頻繁に落ちる雷、天界とは真逆に暗い緑色の空、地面は白い雲ではなく焦げ茶色の土。
魔界である事に変わりはなかったものの、特に周りに目立った建物のようなものはなく、
辺鄙とした所であった。

『ギィ、ギィ!!』
「早速歓迎のご挨拶ですか・・・!」
殺意むき出しの悪魔軍達が、小さな弾をまんべんなく撃ちながら襲いかかって来た!
天界で戦ったすばしっこいだけの低級悪魔だけでなく、そこそこ大型の悪魔も何匹か混じっており、
なかには通常の弾より一回り大きい弾や、エネルギーを細長く伸ばしてレーザー状に撃って来るものもいた。
「中々、本場での悪魔はレベルが違うのですねっ」
しかしミカエルもまた自身のポテンシャルが強い事から、火炎弾を悪魔達に容赦なく浴びせつづける。

『ギイイ!!』
「! しまった!」
天界でも見られた素早さのある悪魔が何体か、
ミカエルの上空や真横をスルーして天界と繋ぐ穴の方へと向かう。
それを見たミカエルは、悪魔軍と戦いながらテレパシーでウリエル達に知らせる。
「ウリエル君、聞こえますか!?
 そちらの方に悪魔軍の何体かが向かっていってます!
 迎撃態勢を!」
『了解! いつでも準備は整っています!』
なんとかあちら側も問題は無さそうだ。
魔界の辺境であったのはむしろ幸いである。
つまり悪魔軍以外の他の悪魔はそれほどいないということで、襲われる事も無かったのだ。



「さて問題は・・・いつ、サターンさんの城に到達するか、ですね。
 悪魔軍の猛攻をくぐり抜けたり戦ったりしながら進んだとして・・・
 ・・・・・・天魔界歴で言えば1〜2年でしょうか・・・」

ここで一つ重要な事を言っておくと、
天魔界の時間の流れは通常の世界とは想像を絶する時間差を持っている事だ。
ここでいう『天魔界』での『1年』は、『下界』での『1000年』を意味するのである。
つまり『下界で1000年』という長い時をかけて『ようやく天界は1年』を迎える、
逆を言えば『天界が1年』という短い時なのに対して『下界では1000年も』経っているのだ。


「メタトルム様とバーヴィルさんが戦ったのは、天魔界歴経過3年・・・下界で言えば3000年・・・、
 ・・・ですが、私達にとってはわずか2ヶ月くらいなのですよね。
 思えば私が生まれたのは天魔界歴経過で40年も昔の話で、下界では40000年もの時が経ってるのに、
 まだ私にはたった2年前にしか感じられません・・・」

余談であるが先ほどムルムルがサターンのいる城にいたのは、ミカエルが今飛んでいる1ヶ月後の話である。
悪魔術によって移動時間は短縮されていたが、それでも天魔界経過計算をしても1ヶ月はかかるのだ。
ミカエルが天界の宮殿から出発し、魔界の穴へ到達したのも1日程度。
ミカエルとムルムルの戦いが一瞬かのように見えたのも、実際には半日もかかっており、
天界から魔界の穴をくぐり到達した時にはさらに1日半の時が経ち、計72時間も経っていたのだ。
天魔界で72時間経った今、こうしているこの間にもすでに下界では9年の時を経ている事だろう。
そんな『下界での9年』が、『天魔界で72時間』、天使と悪魔達の感覚では『4時間』にしか思えてないのだ。



「ここまで差がありすぎると時間の感覚が狂ってしまいますよね・・・
 あ、(天魔界歴の)3日間ずっと戦ってばっかりで独り言を喋ってしまいましたねっ」
『以降は長さを自重した速さで独り言をお願いしますね・・・
 ヒマがあれば時間計算でもしておけばどうでしょうか、ミカエルさん?』

ミカエルとウリエルの、一部で意味ありげなやりとりのテレパシーだった。


「・・・というわけなんだけど、君も参加する?」
「うふふっ、面白そうじゃないっ☆
 私も混ぜてよぉ、ねっ?」
「・・・・・・わざわざ色仕掛けしなくても参加させてあげるから」
ムルムルがサターンの依頼を受けてから1日後、
天魔界の時間にして約18日経ち、ミカエルの今いる魔界の辺境にてその悪魔を見つけたのだ。
どうやら悪魔族では滅多に見かけない女性体らしい。
「でぇ、その人はいまどこにいるのかしらっ?」
「ちょーどこの辺りを通過するはずだよっ。
 天使だから移動時間があるとはいえ、天魔界歴であと20分で来るんじゃないかな?」
「20分かぁ、時間が全然無いわねぇ。
 空を飛んですぐにその人と出会っちゃうって事じゃない」
まさに天魔界の感覚とはこのような感じなのだ。
20分と言えば、下界の生き物にしてみたら意外と長いものである。
だがこの2人にとっては1分弱程度にしか感じられないのである。
「まあ喋ってる暇もないわねー、こうしてる間に通過されたら困るものっ!」
そういって先に女性体の悪魔が空中へと飛び立ち、遅れてムルムルも空を飛ぶ。
「お、タイミングばっちし? あの4枚の白い翼の人ねぇ?」
「やっぱり来たっ! それじゃあボクはこの辺でっ」
あっというまに1分・天魔界時間で20分が経ち、
ムルムルは城へと戻り、リルースとミカエルが鉢合わせした。


「あなたがミカエルさん? 大人の雰囲気が伝わってくるわぁ〜☆」
「? あなたは一体・・・」
もちろんミカエルはいままで魔界に行った事が無いわけではないが、
魔界の入り口は天魔界時間で10年(天使と悪魔感覚で6ヶ月)ごとに変わるため、
辺境の悪魔まで知ってはいなかった。
「私の名は『リルース』、『誘惑の夢魔』って2つ名で呼ばれているのっ☆
 ん〜、天使族は女性体しかいないから、誘惑出来ないのが残念だわぁ〜」
ミカエルがリルースの体を見たところ、彼女は体と足の半分辺りまでの色が同じである。
これはどうやら、『体に何も纏っていない』ことをあらわしているらしい。
「あの、失礼ですがそんな姿で恥ずかしくないのですか・・・?
 それに、何だか寒そうですよ?」
「あのねー・・・、私は『リリス』っていう『淫魔』の化身なのよ?
 この姿は私達一族にとっては当たり前の姿なのっ!
『サキュバス』とか『インキュバス』って名前、聞いた事無いかしら?」
姿の事について指摘されたリルースが必死になってミカエルに説教をする。
「あぁ、申し訳ありませんが私は今忙しいので、後にしてもらえませんか?」
リルースに足止めされている間に、すでに天魔界時間では1時間も経過してしまったのだ。
これ以上時間をかける訳にはいかないと、ミカエルがリルースをスルーしようとしたのだが、

「待った! 今の私はあなたに用があるのよ!」
リルースも、先ほどのムルムルと同じく空間魔法を放ち、ミカエルともども自身を空間に閉じ込めた。
「さっき『ムルムル』って子が、『ミカエルさんをしばらく足止めしてほしい』って言って来たの。
 聞けばサターン様ったら、今悪魔軍を天界に向けて進軍してるんですって?
 なら私もそのお祭り騒ぎに参加させてよっ☆」
「・・・止めるつもりは、ないのですね?」
「当然! 行っくわよぉ!!」



ミカエルは早速臨戦態勢に入る、が、リルースは弾を全く放って来る気配がない。
(・・・? 攻撃をして来ない・・・?)
だが相手を倒さない限りはこの空間から出られないのは確実なため、
リルースにおかまい無しに火炎弾を撃つ。
「攻撃は・・・私本体からとは限らないのよっ!」
「!?」
出来るだけリルースから離れていたミカエルは空間の端の方から弾を撃っていた。
が、ミカエルから一番近い空間の壁の所々がレーザー状に変形し、様々な方向へと放たれたのだ!
「あ、わ、わっ!」
予想もしない場所からの攻撃であったがため、ミカエルは少しバランスを崩したものの、
レーザーの数はそれほど多くはなかったので回避する事は出来た。
回避を終えたミカエルはホームポジションへと戻り、
時々放たれるレーザーを避けながら火炎弾を浴びせ続けた。
「こ、攻撃箇所さえわかればこちらのものです!」
「うー、もうタネがわかっちゃったのぉ?
 それなら必殺攻撃、いくしかないね!」
そう言うとリルースは数個の小弾で連結された大弾を作り上げる。


「いっくよー! 『マゼンティヨーヨー』ッ!」
マゼンタ色の弾で作られたそれは確かにヨーヨーに似ていた。
リルースはとにかく色んな場所を飛び回り、ひたすら大弾がミカエルを追尾していた。
「跳ね返るヨーヨーとはまた訳が違いますね・・・、
 ですが伸びきった際に空く小弾の隙間から逃げる事はたやすいですね!」
小弾の数は決まっていたため本体と大弾の距離に差があると、小弾に隙間が出来た。
大弾に追われ続けても、その隙間から逃げる事で直撃を避ける事は出来る。
「中々当たらないわねーっ」
「逃げ続けてばかりというのもなんですし・・・そのヨーヨー、破壊します!」
ヨーヨーの大弾には火炎弾は効果がなかったが、小弾は当たるたびにエネルギーが漏れていたらしく、
何十発か当てているうちに連結していた小弾を破壊する事が出来た。
が、
「ふふーん・・・かかったわね!」
小弾が千切れたことによって吹き飛んだ大弾が突如爆発を起こし、
大弾の破片が様々な方向へとばらまかれた!
ミカエルは予想以上の多さの小弾に翼や天秤に弾をかすめる。
「くっ・・・ヨーヨーの破壊はかえってNGということですかっ」
「それに魔力があるうちはいくらでも作れるのよ!
 ・・・って、あっ」
リルースは続けてヨーヨーを続けて出そうとしたのだが、
どうやら魔力の継続時間が切れたらしく、大弾を生成する途中で消えてしまった。

「なら今度はこれよぉっ!」
リルースは魔力が溜まるまでの間、通常攻撃を放つ事を決めた。
しかし今度は先ほどの空間壁レーザーとは違い、リルース本体から1つの大弾が放たれる。
「この軌道は読めるかしらね!?」
放たれた大弾は最初リルースの周りを衛星のように時計回りに回っていたが、
徐々に外側へと広がっていき、それと同時に大弾が小弾を所々で生み出して、ミカエル目掛けて放たれた。
そして次の大弾は先ほどとは逆の軌道を回り、後の動きは先ほどと全く同じであった。
「広がる大弾を避けながら、放たれる小弾を避けないと・・・・・・。
 それに回る方向は、偶数回と奇数回で逆回りになるのですねっ!」
「も、もう軌道を読まれたぁっ・・・!
 あなたもうちょっと慌ててくれないと困るじゃない!」
どうやらリルースは頭に来たらしく、魔力をいつもより多めに溜め始めた。


「今度は絶対あなたを壊してあげるんだからぁ!
『プロフィビジョンハート』!!」
リルースが蓄えた魔力が両手から外側へと放たれ、2つの大弾をつくりあげる。
「今度こそ、当たっちゃえぇぇ!!」
空中で止まっていた2つの大弾がミカエル目掛けて高速に飛んでくる!
ミカエルはすぐにその場を離れたものの、重なった大弾が大爆発を起こし、
それもまた破片となって様々な方向へと飛んでいく。
「かなり荒っぽい攻撃なのですね・・・!
 とにかく動き回らないと、あの爆発に巻き込まれたら元も子もないですねっ・・・!!」
「このっ、このこのこのこの、このぉお!!」
大爆発によって生じた破片が空間内を飛び散ってる間にも、
リルースは蓄えた分の魔力をどんどん大弾に変化させ、ミカエルにぶつけようとする。

「? よく見たら・・・破片の飛ぶ方向は一定ですね・・・?」
先ほどからミカエルに破片が当たる気配が全く無い。
これほど多ければ事故で当たる事も有り得るはずなのだが、
破片はとにかく一定の方向へと飛び散っていた為、案外簡単に隙間をくぐり抜ける事が出来たのだ。
「実は結構回避しやすい攻撃ですのねっ、てやっ!!」
大爆発も基本的にはミカエルのいた場所で起こるため、動き続けていれば問題は無かった。
攻撃のインパクトは確かにあるものの、命中性能には欠けていたのだ。
そうとわかればあとはリルースに火炎弾を浴びせつづけるのみ。
「何で当たらないのよ・・・ぉっ! 当たってよっ!!」

リルースの猛攻もむなしく、ミカエルの攻撃によって魔力が吹き飛ばされた。
「その攻撃で恐らくもう戦う気力も残っていないでしょう?
 お願いですから、大人しく降参して下さいっ」
ミカエルはすでに勝負が決まっていたものだと思っていたのだが、
疲れきっているのが見え見えだったリルースは、目を光らせてミカエルを睨みつける。
「ふふ、ふ・・・私の精神力を甘く見ないでほしいわねっ!」
なんとリルースは疲れきった体であるにも関わらず、続けて必殺攻撃を出す魔力を残していたのだ。
しかしこの攻撃こそ恐らくリルースの最後の足掻きだろう。


「私自身の不安定な心も武器に出来るのよぉ!!
 必殺攻撃、『アンバランスドリーム』ッ!」
リルースがそう叫んだ途端、空間の反対側の端が赤色と青色の小弾で埋め尽くされた。
その小弾は左側から順番に発射され、全てミカエルのいる場所目掛けて襲いかかる。
「今までと同じく・・・恐らく色によって何かしらの違いがあるはず!」
ミカエルの判断は正しかった。
赤い弾は素早くミカエルのいた場所を攻撃したが、青い弾は未だにいた場所に到達していない。
全て相手を狙う弾ではあるものの、色によって速度が違っていたのだ。
「赤弾はすぐに空間から無くなるので問題ありませんが・・・、
 ま、まだ青弾が残っているとは・・・!」
速度の速い赤弾から逃げていたミカエルは、
数発前に撃たれて未だに空間内に残された青弾に危うく当たりそうになった。
ここまで動きが遅いと、ランダムな方向に撃たれる弾と対してやっかいさが変わらない。

「ですが赤弾が来る前に若干余裕がありますね・・・
 ここはギリギリまで引きつけて・・・、赤弾が発射された際に軽く避ければっ!」
赤弾がミカエルのそばを通過し、青弾が集中的にいた場所目掛けて飛んでいた。
これによってスペースが大幅に出来上がり、その間をミカエルは逃げる事が出来たのだ。
「当たらない・・・当たらないなんて・・・何かの間違いよぉ・・・!!」
焦っていたリルースは、打ち続けていた弾の軌道がほぼパターン化されているのに気付いていなかった。
パターン化されたということは、もはや相手が何かしらのミスをしない限りはまず当たらない。

リルースの負けは決まったも同然だった。

「もうこれで終わりです! はあぁっ!!!」
「き・・・きゃぁあああっっ!!!!」
火炎弾のダメージが限界以上に蓄積され、リルースの放った空間魔法は解除された。
「逃げ回っていたせいで随分と時間がかかってしまいました・・・
 恐らく3日程は経ったでしょうか?」
ムルムルとの戦いが半日、リルースとの戦いで3日。
明らかに相手が手強くなって来てるのが分かる。
「あうぅ〜・・・・・・、こんなはずじゃ無かったのにぃ・・・」
「最後の方はもう私に当てるのに必死でしたよ?
 冷静さを欠けては、この撃ち合いに勝つ事は出来ません」
「・・・はぁ、ホントあなたが男の人だったら、私ほれていただろうになぁ・・・」
あまり冗談とは思えないリルースの発言に、
目と口は笑っていたが心の笑っていないミカエルは体を引いた。
「あ、あはははは・・・さて、急がなければ!」
ようやく空間魔法から解放されたミカエルは、全速力でサターンの城へと向かう。

「むぅ、次は絶対私が勝つんだからねぇーっ!!」
「・・・ふふっ、覚えておきますよっ!!」
さっきの戦いで疲れているはずなのに、
全くもって元気なリルースの言葉を聞き、ミカエルは返答してその場を去った。






「そういえば・・・ウリエル君達の方は・・・!?」
リルースと戦ってからすぐ、ウリエル達の状況をテレパシーで交信する。
「ウリエル君っ、こちらミカエルです! 現状の報告を!!」
『ミカエルさんですか!? 空間魔法でテレパシーが遮断されてたようですね・・・
 そ、それよりもっ、レミエルちゃんが!』

「!? レミエルちゃんが!? 一体どうしたのですか!?」
『悪魔軍の攻撃の流れ弾を受けてしまって・・・ジブリエルさんの水のフィルターがあったため
 何とか命は落とさなかったのですが・・・その・・・・・・』

予想をしていた、最悪の事態が起きてしまったのだ。
レミエルが悪魔軍の攻撃を受けてしまう事。
本来なら魔界の穴へ入る前にテレパシーでウリエル達と交信しておくべきだったと、
ミカエルは激しく後悔していた。
「・・・その・・・レミエルちゃんは・・・今は・・・?」
『・・・攻撃の衝撃で、両腕と両翼を失い、左目を完全に破損・・・
 ・・・・・・気絶はしませんでしたが・・・、
 ・・・自分の状況を信じきれていなかったようで・・・上の空のような状態でした・・・』

「っ、救護班! 救護班はどうしたのですか!?」
ミカエルは一度ウリエルとの交信を切り、今度は急いで救護班と交信を始める。
『こちら救護班! 攻撃の後すぐに応急処置をしたため、出血は収まりました。
 現在は、少しでも早く動けるようになるように・・・レミエルちゃんは・・・、
 ・・・機械手術を受けている最中です』

とりあえず命に別状は無いとわかったミカエルは、ホッと胸を撫で下ろした。
だが、自分の判断ミスで危うく小さな命を失いかけたのだ。
そのショックは、ミカエルには大きいものであった。



「・・・・・・・・・」
しばらくの間の、沈黙。
しかしその沈黙を破ったのは、ウリエルの言葉だった。
『ミカエル様・・・こちら側で起きた事は、全てこちら側で対処をします!
 ミカエル様はサターンさんのところへ辿り着く為にも、気を集中していて下さい!』

「ウリエル君・・・・・・、・・・ありがとうございます。
 その言葉、確かに受け取りましたっ!!」
出来るのならば、涙を流したい。
だが今はまだそうしている場合でないと、ミカエルは気を取り戻した!


「ウリエル君達は、自分自身の力で守りきる・・・、そう信じていますからっ!」




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