天界へと侵攻して来た悪魔軍。
その侵攻の原因を探るために、ミカエルは魔界の入り口へと向かっていた。


「まだこの辺りは数も少なく、素早さだけある小型の悪魔しかやってきてませんね・・・」
ミカエルは自身の自然属性である『火』をエネルギー弾に変化させ、
襲いかかってくる悪魔達を次々となぎ倒していた。
天使も悪魔ももとは自然から生まれた者である為、死亡した者はエネルギー体へと変換されていく。
変換されたエネルギーを吸収する事で、一時的に自身の力をさらに強化させる事も可能である。

「それにしても・・・、何故魔界の悪魔が突然天界を・・・?」

考え込んでるうちにしばらくして、
ミカエルは魔界への入り口である次元の穴を見つけた。
バチバチと放電しているように、その穴は黒くポッカリと開いていた。
「あの穴に入れば・・・いよいよ魔界ですね・・・!」
「そうはさせないよ!」


意を決して入る準備をしようとした瞬間、ミカエルにも聞き覚えのある声が。
「え・・・ム、ムルムルちゃん・・・!?」
声の主は確かに、悪戯好きでわんぱくだった天使、ムルムルであった。
しかし、ミカエルは彼女の容姿が全然違う事に気付く。
「ど・・・ういうことですか・・・っ、
 その翼と角と尻尾は・・・まるで悪魔じゃないですか・・・!?」
「『まるで』、じゃないよ? 正真正銘の『悪魔』になったんだっ。
 何故だか分かる・・・?
 魔界の王となられる『サターン』様に、協力してるのさっ!」
「ま・・・魔界の・・・王!?
 サターンさんは確か、魔界の監視役ではなかったのですか・・・!!?」



『サターン』。
およそ35000年前に魔界の牢獄である『地獄』に送られて来た、
地上界で数々の悪行を行って来た、『前代未聞の悪魔』であった。
その力は他の悪魔を凌駕する程の力であり、一時期魔界でも問題視されていた。
・・・だが、15000年前に行方不明となってしまった『母なる熾天使』、
『メタトルム』によって倒されてからは、魔界の監視役として大人しくしていたのだ。




「けどねーボク、サターン様の話を聞いてたんだけど、
 流石に大人しくはしていられないって気持ちはよく分かるよー。
 だって全然自由じゃなくて面白くないし、天使みたいなのに負けたら悔しいもんっ。
 そりゃぁもう復讐したくなって当然だと思うんだよねっ。
 だから、この前メタトルムさんが行方不明になったスキに・・・」
「よくわかりました・・・それ以上は言わなくてもいいですよ」
ミカエルはムルムルの話をずっと聞いていたが、魔界の全ての事情を知り、
臨戦態勢へと入る。
天界に居た頃から変わらない一人称、『ボク』。
魔界の悪魔側に付いたと言う事は、同族の悪魔に教われないようにきっと性別も変えただろう。
今ではその一人称に違和感が無いが、ミカエルにはほんの少しずつ怒りの心が溜まっていた。

「・・・ムルムルちゃん・・・いえ、ムルムル『君』。
 あなたがここまで来ていると言う事は、そろそろ天界も危ないと言う事ですね・・・
 ・・・少なくとも今、ここにいるあなただけでも・・・倒すべきですね」
「あれっ、やる気? 困るなぁー・・・ミカエルさんもサターンさんと一緒にっ」
「丁重にお断りします。
 今の私は・・・・・・『熾天使最高位総束長』・ミカエルなのですからっ」


その言葉を聞き、ムルムルは即座に空間魔法を放った。
その魔法はムルムルとミカエルを取り囲み、2人は逃げ場を失う。
「そういうことなら仕方が無いねー・・・・・・、
 こうなったら白黒をつける方法として勝負だ、ねっっ!!」
先手を取ったのはムルムル。
幅広く大きな弾を綺麗な列に合わせてミカエル目掛けて撃ってきた。
「当たるわけには・・・いきません!」
ミカエルも対抗して小さな火炎弾を数えきれない程連射する。
幅の広い大きな弾を発射したムルムルは、時計回りに様々な方向に弾を撃つ。
流れ弾は全て空間魔法によって作られた空間歪壁に当たる事で消える為、
外に漏れて二次被害を起こす事はない。

こういった小さな弾を無限に出せる戦いでは、いつ敵がどこに逃げてもヒットしていいように
わざと違う方向にも弾を放つのが基本である。
弾数に制限が無いという事は弾切れというアクシデントが無いのだから、
どこを撃っても特に問題はないのである。
確かにある程度相手を狙って撃っても良いのだが、そればかりだとパターンが見破られるため、
相手の1つ先、2つ先を読んで撃つのが、この戦いの雌雄を決する最も大きな要因である。



「むむむ、中々当たらないねー・・・こうなれば必殺攻撃だ!」
少し不利な立場に陥ったムルムルは、どこからか小さな瓶を取り出した。
その中には、すでに息絶えて腐敗しかけている小型の悪魔がホルマリン漬けにされていた。
「いっくよぉー! 『生天の壁礫(せいてんのへきれき)』!!」

空間内の魔力の渦が大きく変化する。
投げられたビンはちょうど取り囲んでる空間の中央で割れて、
中から悪魔の死体が腐敗したままの状態で姿をあらわした!
「さぁ動け! そこにいるミカエルさんを狙っちゃえー!」
すでに死んでいるはずの悪魔はウゴウゴと動き始める。
ムルムルは『死体を動かせる』能力を、悪魔になった際に身につけたのだ。
動き始めた死体・ゾンビオプションは大きな弾をミカエルめがけて1発ずつ放つ。
空間の中央を陣取られたため、当たらないようにミカエルは弾を撃ちながら外周を逃げ回る。
「くっ・・・! ムルムル君の攻撃もあると言うのに・・・!」
「よそ見厳禁! どんどん撃ってっちゃうよー!」
気がつくと先ほどまで前側に居たムルムルが、空間の一番後ろ辺りへと移動していた。
あくまでもゾンビオプションの補助へと徹するため、被弾の遅れる後ろ側へと避難しているのだ。

逃げ回っているうちにミカエルはある事に気付いた。
ゾンビオプションは1発ずつ計5発放った後、少し動きを止めた。
そして少し経ってからまた5発放ち、その後また動きを止める。
「なるほど・・・5発ずつ放って休憩するのですか!
 今のうちです!」
ゾンビオプションが休んでいるスキに、ミカエルは火炎弾をムルムルにどんどん浴びせる。
その流れ弾がゾンビオプションに何十発かヒットし、弾けとんだ!

「ゾンビがいなくなりましたか!」
「そうはいかないよ!」
ゾンビを倒したかと思ったが、大きく変化した魔力の渦によって3秒程で再生された。
「『生天の壁礫』を解除させない限りは、いくら倒しても復活するのさ!
 ・・・ってうわっ!!」
説明をしている間に、ミカエルの攻撃を受けていたムルムルは『生天の壁礫』の魔力を失い、
解除されてしまったのだ。
当然先ほどのゾンビも今度は完全に弾け飛び、再生される事は無かった。
「く、くそ〜・・・次の必殺攻撃の魔力を溜めなくちゃ・・・!」

個人の必殺攻撃には必要量の魔力が必要であり、それを解放する事で使う事が出来る。
相手の攻撃を受けると当然ダメージも蓄積はするが、自然の力を利用した攻撃であれば
一部を吸収し、自分の魔力へと変換する事が出来る。
「魔力が溜まってしまうのは仕方がありませんが・・・、
 ダメージを溜めていけばムルムル君だって動けなくなるはず!」
「ふっふっふー・・・ミカエルさんのおかげで次の必殺攻撃の分が溜まったよ!
 ボクの十八番の攻撃を食らえっ!
『遊誘餓鬼(ゆうゆうがっき)』!!」

ムルムルは先ほどの瓶を今度は空間の4隅へと投げつける。
割れて出て来たオプションはそれぞれ赤色と青色をしており、
4体のゾンビが一斉に弾を放って来た。
「・・・この攻撃は・・・」
ミカエルは動き回って避けながら弾の軌道を読む。
青い弾は逃げ回るミカエルの場所を的確に攻撃していたが、
赤い弾はミカエルの居ない場所にも放たれていた。
自身を狙っている青弾に気を集中させ、ランダムに撃たれた赤弾や、
ムルムル自身の攻撃に接触事故を引き起こす攻撃である。

「つまり青い弾は動き回っていれば問題は無いですね・・・!
 ならば赤い弾との接触事故さえなければ・・・、
 あとはムルムル君の攻撃も避ければっ・・・!!」
軌道を分析したミカエルは落ち着いてムルムルに火炎弾を当て続ける。
常に口が笑っていたムルムルでも、攻撃を受け続けていた事によって限界を感じていた。
「うっ・・・こ・・・このっ・・・、ま、負けるわけには・・・っ!!
 っ、ぎゃああっ!!」
しかし最後の1発が命中した時、『遊誘餓鬼』の魔力もまた失われ、
同時に2人を囲っていた空間魔法も解かれた。

「どうやら、決着がついたようですね」
「うぅ〜・・・これはヤバい事になっちゃった・・・!
 サターン様に知らせなきゃっ!」
ムルムルは慌てて魔界への穴へと逃げ込む。
後からミカエルも穴へと続いて入った時、天界からテレパシーが届いた。


『ミカエル様! 聞こえますか!?』
「ウリエル君ですね? こちらは何とか魔界へと侵入している所です。
 君達は今どの辺りですか?」
『ミカエル様の姿がちらっと見えたのですが・・・一体誰と戦っていたのですか?』
「・・・・・・ムルムル・・・君・・・でした。
 彼女は・・・・・・彼は、魔界の悪魔へと堕ちていたのです」
テレパシーからの声が突如静かになり、先ほどのテレパシーの主である『ウリエル』とは違う声が。
『ムルムル・・・なんということだ・・・・・・
 ミカエル様、私達もこれより魔界へと侵入します。
 ・・・以降の行動手順を』

「ウリエル君にラファエルちゃん、あとは誰がいますか?」
『私とウリエル以外には・・・ジブリエル、カイレル様、ハーネル様に・・・
 ・・・!!?』

ラファエルは何かに気付いたようで、驚いた声をあげる。
『レ、レミエル! 何で付いて来たのだ!?』
「!? レミエルちゃん!?
 あ、うわっと!」
驚いたミカエルは既に魔界へと到達し、危うく地面に激突する所であった。
『レミエル』は、天界で生まれてまだ間もない赤子の天使であった。
ただ、雷のように綺麗に光る黄色い体は、他の赤子の天使達とは違った雰囲気を出していたのだ。
そのため、どの天使達よりもかなり有名だった。
『レミエルちゃんっ、付いて来ちゃダメじゃないかっっ!』
『くぴー・・・・・・』

ウリエルが慌ててレミエルを天界へと戻しに行こうとした。
しかしこの時既にウリエル達も魔界の出口付近へと到達しており、後戻りは出来なかったのだった。

「仕方ありませんね・・・救護班、レミエルちゃんの護衛をお願いしますっ」
『はっ!』
「ウリエル君、ラファエルちゃん、ジブリエルちゃんは、
 カイレルさんとハーネルさんの軍隊班を、天界と魔界を繋ぐ穴の近くで援護!
 天界へと侵攻しようと穴の近くまで来た悪魔軍の退治をして下さい!」
『ミ、ミカエル様は・・・? まさか1人で?!』
「しばらくは1人でも大丈夫ですが・・・、
 侵攻軍がある程度少なくなって来たら、バックアップとして私の援護もお願いします!
 それまでは各自、侵攻の阻止を優先!!」
『・・・了解しましたっ!!』


(メタトルム様がいなくなった今、天使さん達を護る総束長は私・・・・・・
 私が頑張らなければならないのです・・・!)




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